月刊全労連・全労連新聞 編集部

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ついにアマゾンで労働組合結成!相次ぐアメリカでの労組結成の動きについての解説 全労連事務局次長 布施 恵輔

 4月1日、米ニューヨーク市のスタテン島にあるアマゾンの配送センターで交渉権のある労働組合が結成されました。米国のアマゾンで初めての労働組合結成です。今回の労働組合認証選挙の結果は、米国の労働組合運動の歴史的転換点となるのではないかと言われています。


 米国では各地でスターバックスでの組織化が相次いでおり大学院生講師の労働組合結成も続いています。このような組織化の背景に何があるのか、アマゾンのケースを見ながら考えます。


全米初、アマゾンでの労組結成


 4月1日の認証選挙は、ニューヨーク市南部のスタテン島にあるJFK8と呼ばれる配送センターで行われました。アマゾンは物流拠点、配送を行う拠点をFulfilment Centerと呼び、全米各地に存在しています。およそ1年前、21年4月に南部のアラバマ州ベッセマーでの組合認証選挙では組合結成は否決されていました。アマゾンの徹底的な労働組合攻撃が主な原因です。


 米国では協約交渉が可能な労働組合は、使用者がそれを認めるか、全国労使関係委員会(NLRB)の管理のもとで行われる認証選挙で過半数の賛成票を獲得する必要があります。労働組合自体は少数でも活動はできますが、認証選挙を経て交渉権を獲得することで、交渉単位全員を代表して使用者側と排他的交渉権を獲得することができ、職場で大きな力を持つことができます。しかし、アマゾンやスターバックスのような大企業ほど、労働組合潰しを弁護士やコンサルタントを雇って行ってきます。そしてNLRBの規則や投票の運用も、使用者に有利なものが多く、概して労働組合にとって不利です。


 今回のアマゾンの労働組合結成は、組合妨害を徹底的に行なっている大企業での結成となり、全米の労働者を励ましています。


妨害を跳ね返しての勝利


 今回のアマゾンの配送センター組織化は、上部組織を持たないアマゾン労働組合(ALU)によって成功に導かれました。ALUは2020年に、同センターで新型コロナウイルス対策が不十分で危険だと職場放棄を組織したクリスチャン・スモールズさんが委員長になって結成された労働組合です。スモールズ委員長は、職場放棄を理由に解雇されていましたが、その後組合結成に取り組んできました。認証選挙では結成賛成2654票、反対2131票で、523票差は事前の激しい組合攻撃からすれば、予想以上の差になりました。ちなみに、2021年にアマゾンが組合結成妨害に投じたのは430万ドル(約5億5240万円)とされています。

ALUの組合ポスター「団結すれば、変化が起きる」


 JFK8では、多言語の移民労働者が多く働いており、労働者の離職率も高く、スモールズさんのように何か会社に抗議すればすぐに解雇されるという環境でした。米国のアマゾンでの組合組織化は困難とされていましたが、今回多くの青年が組織化キャンペーンに参加しています。このことはスターバックスで進んでいる組織化とも共通しており、従来の全国組合主導型の組織化とは異なっているという指摘もあります。


青年が立ち上がる背景

 

 ここ数年政治的な背景が大きく変わりました。労働組合を積極的に支援することを打ち出したバーニー・サンダース上院議員が大統領選予備選挙で活躍しました。人種差別に反対するブラック・ライブズ・マター(BLM)運動、サンダースキャンペーンに刺激されて急速に広がった米民主的社会主義者(DSA)に参加している青年たちが、労働組合の結成に積極的に参加し、運動しているのです。最近のこれらの労働組合組織化キャンペーンで、ベテランの組織オルグ主導というケースはむしろまれと言えます。
 

 青年労働者自身が結びつき、労働組合について労働者一人ひとりに職場や近隣のコーヒーショップなどで対話を組織していく。この組織化の基本中の基本に取り組んできたのです。組織化に参加する仲間を増やし、最終的にはほぼ正確に認証選挙での票も読めているといいます。米国でキャンペーン型の組織化モデルが、さまざまな形態で社会運動、労働運動の中で共有され、多くの青年労働者にも共有されていることが大きいと思います。

 

一時の熱狂ではすまない

 

 しかし日本でも一部の報道で見られますが、青年の「労組起業家」が組織化の中心であるかのように、これまでの運動の蓄積と切り離された動きとみるのは早計です。今回の組織化の成功はさまざまなメディアで報道され、米国労働運動の大きな転機となる可能性を秘めているだけに、今後もさまざまな分析や評価がされると思います。そのことを前提に、現在までに分かっているだけでも、例えば最後の数週間、米国の民間企業の組織化を成功させてきたジーン・ブラスキンというベテランオルガナイザーが、ALUに集中的にアドバイスをしていたとされています。またホテル・レストラン労組(UNITE-HERE)もオルグを派遣し、運輸物流労働者を組織するチームスターズも今後の組織化での支援を申し出ています。「新しい」キャンペーンと単純には評価できません。
 

 そして、JFK8の組織化は偉大な一歩であると同時に、直ちにJFK8のすぐ隣のLDJ5、DYY6という別の配送センターでも組織化キャンペーンが開始されています。全米各地のアマゾンの施設に運動を広げることができるかによって、この運動が一過性のものではないということが証明されるのだと思います。

今回勝利したJFK8に続き、組織化キャンペーンがすすむDYY6に貼られた多言語の組合ポスター


キャンペーン勝利とこれから


 スターバックスの組織化では、ニューヨーク州バッファローで21年12月に最初の組合認証選挙の勝利があって以降、4月25日の時点までに組合認証選挙が32店舗で行われ、29で結成賛成が上回っています。大学院生講師の組合も、コロンビア大学や4月に新たに結成されたマサチューセッツ工科大学(MIT)など、各地で結成が続いています。そしてニューヨークのアップルストアでも認証選挙のNLRBへの申請の動きがあります。アマゾンのようなグローバル大企業かつ労働組合敵視の企業での組織化は、労働者を励まします。


 パンデミックの中で、労働に対する考え方が変わり、労働組合の活動にも変化が起きています。今回の組織化でもクラウドファンディングなどの新しい手段が活用されると同時に、組織化のキャンペーンの基本原則は徹底的に追求されていました。1年前投票で負けたアラバマ州労働組合組織率が6%、ニューヨーク州は20%を超えていたことも大きな違いです。これらは既存の労働組合にも変化を与えるでしょう。


 これから最初の協約を結ぶことができるかなど、ALUにはまだ困難が待ち構えています。米国の労働組合運動の新しい組織化の動きに注目すると同時に、日本での運動に生かせること、学ぶべきことを探求していきたいと思います。

 

( 月刊全労連2022年6月号掲載 )

 

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