月刊全労連・全労連新聞 編集部

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「ストライキの法的根拠とやり方」 を日本労働弁護団会長の井上幸夫さんに解説していただきました。専門的な内容ですが、これからストライキに取り組みたい方は要チェックです!

はじめに

 ストライキ「伝家の宝刀」ということがあるが、時々抜いて定期的に手入れをしないと、錆びついていたり、抜いても構え方がわからなくなってしまう。


 労働組合の団結力を強め、要求実現を前進させるためには、ストライキを上手く使うことが必要であるが、実際にストライキを構え、また、実際にストライキをやってみないと、使い方も上手くならない。そのためには、ストライキを「伝家の宝刀」とせずに、もう少し気軽に使うものにする必要がある。


 本稿では、ストライキの法的根拠をあらためて確認するとともに、ストライキを行う要求、ストライキの態様、ストライキの手順、ストライキの注意事項について解説する。

 

1 ストライキとは何か

ストライキとは

 ストライキとは、労働者が集団的に労務の提供をしないことをいう。
 辞典では「ストライキ」の意味をどのように述べているか、見てみよう。


 広辞苑(第七版)では、「労働条件の維持・向上その他の目的を実現するために、労働者が集団的に業務を停止すること。」という。


 精選版日本国語大辞典では、労働組合の要求が団体交渉によって解決できない場合、闘争の手段として一定期間労働力の提供を停止すること。正常な業務運営に損害を与えることによって労働条件の向上・維持・改善その他の要求を通させようとするもの。」という。


 日本大百科全書(ニッポニカ)では、「労働者の争議行為の一つであり、労働者が自分たちの要求を通すために、団結して一時的に労働の提供を拒否することをいう。罷業あるいは同盟罷業とも訳される。経済学的には、労働者の行う労働力商品の一時的な売り止め行為を意味する。」という。


 このように、ストライキとは、労働者がその要求実現を目指して集団的・一時的に労務の提供をしないことをいう。


 これに対し、労働者が労務の提供を部分的に行うことを怠業という。怠業の中には、労務の提供をするが作業の能率を低下させたり作業の速さを遅くしたりするものがあり、スローダウンといわれる。怠業の中には、電話対応、出張、外勤などの特定業務の労務提供だけを拒否するものもある。

 

争議行為とは

 労働関係調整法では、「この法律において労働争議とは、労働関係の当事者間において、労働関係に関する主張が一致しないで、そのために争議行為が発生している状態又は発生する虞がある状態をいう。」(第6条)とし、「この法律において争議行為とは、同盟罷業、怠業、作業所閉鎖その他労働関係の当事者が、その主張を貫徹することを目的として行う行為及びこれに対抗する行為であって、業務の正常な運営を阻害するものをいう。」(第7条)と定めている。


 労働組合の代表的な争議行為は、ストライキと怠業である。これに対し、使用者側の争議行為である作業所閉鎖(ロックアウト)は、ストライキに対抗して労働者の労務提供の受領を拒否し、賃金支払いを免れようとするものである。

 

2 ストライキの法的根拠

ストライキの権利

 憲法28条は、「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。」と定める。労働者がストライキを行う権利は、憲法28条の「団体行動をする権利」として保障される。


 憲法ストライキを行う権利を基本的人権として保障しているのは、労働者は団結して団体行動をすることにより、はじめて使用者と対等な立場で労働条件を決定できる関係になるからである。


 ストライキが何故必要不可欠なのか。それは、使用者との関係における労働者の力の源泉は労務を提供することであり、労働者は、使用者が必要とする労務提供を集団的に行わないことによって、使用者との間の力関係を変化させ、使用者に譲歩させることが可能になるからである。


 ストライキは、世界各国でも日本でも、労働運動の歴史とともに古くから行われてきた。労働者は、ストライキなしに自らの地位を向上させることはできなかった。「ドイツ連邦労働裁判所のある判決が述べたように、ストライキ権なしの協約交渉は『集団的物乞い』以外のなにものでもないのである(西谷敏「労働法[第三版]712頁)」。


 日本の裁判所も、次のように述べる。「労働者がその労働条件を適正に維持し改善しようとしても、個々にその使用者たる企業者に対していたのでは、一般に企業者の有する経済的実力に圧倒され、対等な立場においてその利益を主張し、これを貫徹することは困難である。そこで、労働者は、多数団結して労働組合等を結成し、その団結の力を利用して必要かつ妥当な団体行動をすることによって、適正な労働条件の維持改善を図っていく必要がある。」(最高裁判所昭和43年12月4日判決)、「争議権の確立は、労働組合が会社と交渉する際に、会社との対等性を確保するための有力な対抗手段となるものであって、現行の労働法制の下では、労働組合にとって最も根源的な権利の一つである。」(東京高等裁判所平成27年6月18日判決)。


 ストライキは、労働者の労務提供なしに企業は事業を行うことができないことを可視化させる。ストライキは、労働者の要求実現の強い意志を使用者へ示し社会へアピールする。そして、ストライキは、労働者が使用者と対等な立場に立って労働条件を決定する人間としての尊厳を自覚する契機になるのである。

 

ストライキの権利保障の内容

 この憲法第28条のストライキを含む団体行動権の保障について、法律では、刑事免責、民事免責、不当労働行為の禁止という3つの内容を定めている。


 第1に、労働組合法第1条第2項は、「刑法第35条の規定は、労働組合の団体交渉その他の行為であって前項に掲げる目的を達成するためにした正当なものについて適用があるものとする。但し、いかなる場合においても、暴力の行使は、労働組合の正当な行為と解釈されてはならない。」と定める。


 これは、ストライキは威力業務妨害罪や強要罪などの刑法の規定に形式上該当することがあり得るが、ストライキには刑法第35条「法令又は正当な業務による行為は、罰しない。」が適用されて、刑事上の責任は問われないことを、労働組合法であらためて確認する条文を定めたのである。


 第2に、労働組合法第8条は、「使用者は、同盟罷業その他の争議行為であって正当なものによって損害を受けたことの故をもって、労働組合又はその組合員に対し賠償を請求することができない。」と定める。


 これは、ストライキは、労働者の労働契約上の労務提供義務に違反したり、企業の営業利益を侵害したりするなど、債務不履行責任(民法第415条)や不法行為責任(民法第709条)を生じさせることがあり得るが、ストライキには民事上の損害賠償責任が問われることがないことを、労働組合法であらためて確認する条文を定めたのである。


 第3に、労働組合法第7条は、「使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。一 労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること。(以下略)」と定める。


 これは、労働者がストライキを含む正当な団体行動をしたことを理由として使用者が解雇、配転、懲戒などの不利益な取扱いをすることを、「不当労働行為」の一つとして禁止したものである。また、このような不利益な取扱いは、憲法第28条の公序に反する行為として民法第90条により無効となり、また、不利益な取扱いを行った使用者は不法行為民法第709条)の損害賠償責任を負うことになる。


 以上のとおり、日本の憲法と法律は、労働者がストライキを行うことを積極的に認めて基本的人権として保障し、ストライキを当然のこととして予定している。

 

3 ストライキの要求と態様

ストライキを行う要求

 労働組合は、労働者の労働条件その他の経済的地位に関する要求や労使関係の運営に関する要求を掲げて、ストライキを行う。


 労働者の経済的地位に関する要求とは、たとえば、賃金・一時金、労働時間・休日・休暇、職場環境、福利厚生、人事評価、昇格・降格、人事異動、解雇などの労働条件基準に関する要求や、個別組合員の個別労働条件・処遇に関する要求である。


 労使関係の運営に関する要求とは、たとえば、組合活動・便宜供与・組合事務所貸与などに関する要求である。使用者の不当労働行為に抗議して行うストライキもある。


 経営に関する事項であっても、それが労働者の労働条件など経済的地位に関係する場合は、ストライキの要求になる。たとえば、企業の組織変更、事業譲渡、工場移転、業務外注化などが、労働者の雇用や労働条件に影響する場合である。たとえば、2023年8月31日のそごう・西武労働組合ストライキは、家電量販店大手と連携する米国投資ファンドへの会社株式の売却について、百貨店事業で勤務する労働者の雇用維持が不透明であるとして株式売却の強行に反対し、西武池袋店で働く労働者約900人をストライキ対象として1日ストライキを行い、全館休業になった。2004年には、労働組合日本プロ野球選手会が、近鉄オリックスの合併は1球団分の選手の契約解除につながるとして強く反対し、9月18日・19日の2日間全選手のストライキを行い、プロ野球の1軍と2軍の両日の全試合が中止になった。


 春闘など毎年一定の時期に賃金などの労働条件要求を掲げて使用者と交渉する労働組合では、ストライキもその時期に行うことになる。労働組合は、その要求の実現のために、使用者の回答内容や交渉の状況をみながら、どのような態様のストライキをいつ行うかを決めることになる。

 

時間の観点からみるストライキの態様

 無期限ストライキとは、ストライキ労務不提供)の終了期限をあらかじめ定めずに行うストライキのことをいう。労働組合はスト終了を決定するまでストライキを行う。ちなみに、職場の過半数労働組合が全労働者のために賃金交渉を行って労働協約を締結する米国では、賃金等を定める労働協約(有効期間3年が多い)の終了時までに次期の賃金等の交渉が妥結しなかった場合に、次の3年間の賃金等を決める新労働協約の締結まで無期限ストライキを行うことが多い。


 時限ストライキとは、ストライキ労務不提供)をする時間や期間を区切って行うストライキのことをいう。始業時刻から特定の時刻までのストライキ、それ以外の特定の時間のストライキ、1日のストライキ、特定の期間のストライキなど様々である。時限ストライキを断続的に行うストライキのことを、波状ストライキともいう。日本のストライキは、時限ストライキが多い。

 

ストライキ対象者の範囲からみるストライキの態様

 全面ストライキとは、ストライキを行う企業で勤務する全組合員が労務を提供しないストライキのことをいう。


 部分ストライキとは、その企業のある部門・部署等で勤務する一部の組合員が労務を提供しないストライキのことをいう。


 指名ストライキとは、労働組合が指名する特定の組合員が労務を提供しないストライキのことをいう。部分ストライキの一種である。指名ストライキの中には、たとえば組合員への配転命令の撤回を要求し、その組合員が配転先での労務提供を拒否するストライキもある。

 

4 ストライキのやり方

 ストライキは、ストライキ権の確立、②ストライキをいつどの範囲で行うかの決定、③ストライキの通知、④ストライキの実行という手順で行う。

 

ストライキ権の確立投票

 労働組合法第5条第2項は、「労働組合の規約には、左の各号に掲げる規定を含まなければならない。八 同盟罷業は、組合員又は組合員の直接無記名投票により選挙された代議員の直接無記名投票の過半数による決定を経なければ開始しないこと。」と定める。


 このため、組合規約では、たとえば、「同盟罷業は、組合員の直接無記名投票の有効投票数の過半数による決定を経て行う。」という規定を定めている。


 この投票のことをストライキ権の確立投票という。投票用紙の記載は、たとえば表1のような内容でもよい。

 


 春闘等で毎年の一定の時期に賃金・労働条件要求書を提出して交渉を行う場合には、その要求書を決定する時にストライキ権の確立投票を行っておくのがよい。


 ストライキ権の確立は、ストライキができる状態にするものであり、実際にストライキを行うことではない。しかし、ストライキ権を確立しておくことは、労働組合のその要求実現の強い意志を示し、いつでもストライキを行うことができる状態の中で交渉を行うことになるから、労働組合の交渉力を強くする。

 

ストライキをいつどの範囲で行うかの決定

 ストライキを行うか否か、いつ、どの範囲で行うか、全面ストライキか、一定の部門・部署の部分ストライキか、また、1日ストか、時限ストかは、使用者の回答内容や交渉状況をみながら、執行委員会などの執行機関が決める。ストライキを行う場合には闘争委員会を設置すると組合規約で定めている場合は、闘争委員会が決定することになる。


 なお、業種によっては、施設の最低限の維持や患者の安全確保のための最低限の要員(保安要員)の配置を労使で事前交渉し、そのために特定の組合員はストライキ対象から除外してストライキを行うこともある。


 また、労働協約で、ストライキの事前通知や事前の労働委員会へのあっせん申請などの争議行為に関するルールを定めている場合は、そのルールに沿ってストライキを行うことになる。

 

ストライキの通知

 会社との労働協約で一定期間前のスト予告を定めている場合を除き、使用者へストライキの予告をしなければならないものではない。


 しかし、ストライキ通知によって使用者が譲歩して交渉で歩み寄る可能性もあり、事前通知がないと職場で無用な混乱が生じることも考えられる。このため、要求に対する前進回答を引き出すためにも事前にストライキ通知をしておくことが一般的である。
 

 なお、ストライキ通知をしないと、ストライキなのか無断欠勤なのかわからないこともあるので、遅くともストライキ開始時までには使用者へのストライキ通知はすべきである。


 もし、ストライキ事前通知をした後、使用者が譲歩して要求に対する修正回答をしてきた場合に、予定どおりストライキをするか、ストライキを中止するかは、執行委員会等で決定することになる。


 使用者に対するストライキ通知を文書で行う場合は、たとえば、表2のように記載する。

 

ストライキの実行

 ストライキ自体は、労働者が労務を提供しないことである。執行委員会等は、ストライキの対象とする組合員に対してストライキに入ることを指示する。その指示により、対象組合員は、始業時に出社せず、あるいは一定時刻に職場から退出するなどして労務を提供しないことにより、ストライキに参加する。


 なお、ストライキ時には、組合員が参加するストライキ集会・学習会や宣伝行動を職場の内外で行うことが多い。それによって、組合員の団結と連帯を強め、要求実現のために職場内外の支援を呼びかけるためである。


 そごう・西武労働組合が2023年8月31日に行った西武池袋店で勤務する組合員約900人の1日ストライキでは、西武池袋店近くの公園で組合員や支援する他の労働組合員とともに集会を行い、集会後には支援を呼びかけてデモ行進を行った。


 独立行政法人国立病院機構などの職員でつくる全日本国立医療労働組合が賃金引上げ等を要求して2023年3月9日に行った時限ストライキでは、全国約120の病院支部で各支部2人の組合員約240人が指名ストライキに入り、全国で約1000人の組合員や支援者がストライキ集会や患者・地域への宣伝行動に参加した。東京医療センター正門前では、始業後1時間のスト集会が行われた。


 時限ストライキを行うときには、たとえば、始業前や昼休みの時間から開始した組合員の集会・会議を始業後や午後の就業時間帯まで続けて、組合員はその集会・会議終了後に勤務に就くという形でストライキを行うこともある。

 

5 業種によるストライキの注意点

公益事業での労働委員会等へのストライキ予告通知

 労働関係調整法第37条は、「公益事業に関する事件につき関係当事者が争議行為をするには、その争議行為をしようとする日の少なくとも10日前までに、労働委員会及び厚生労働大臣又は都道府県知事にその旨を通知しなければならない。」と定める。


 この規定は、争議行為の開始をあらかじめ公衆に知らせて突然の争議行為による影響を最小限にするとともに、労働委員会によるあっせんの機会を確保しようとする趣旨である。


 ここでいう公益事業とは、次に掲げる事業のうち公衆の日常生活に欠くことのできないものをいう(労働関係調整法第8条)。
  運輸事業(注:定期路線で旅客・貨物運送を行う鉄道、バス、航空、海運などの事業のこと。一般的な運送事業は対象外。)
  郵便、信書便又は電気通信の事業
  水道、電気又はガスの供給の事業(注:電力会社、ガス会社など。ガスボンベによるプロパンガス販売事業は対象外。)
  医療又は公衆衛生の事業(注:病院、一般廃棄物の収集、埋火葬の事業など。)


 このため、公益事業でストライキを行う場合は、ストライキの10日前までに、ストライキを行う都道府県の労働委員会(各県にわたる場合は中央労働委員会)と知事(各県にわたる場合は厚生労働大臣)に、争議行為を行う日時と場所、争議行為の概要を文書で通知する必要がある(労働関係調整法施行令第10条の4第3項)。その通知書には、たとえば表3のように記載する。


 知事は、この予告通知をホームページ等で公表することにより、争議行為によって影響を受ける公衆にあらかじめ争議行為を知らせる。


 なお、労働関係調整法第39条は、第37条(事前通知)の規定の違反があった場合は、その代表者等は10万円以下の罰金に処すると定め、42条は「第39条の罪は、労働委員会の請求を待ってこれを論ずる。」と定めている。


 労働委員会規則では、労調法第37条の規定に違反すると疑われる事実があることを知ったときには遅滞なく審査を開始し、労調法第37条違反の疑いがある者に対し警告を発することができ、審査の結果処罰の必要があると認めたときには書面によって検察官にその請求をしなければならないことを定めている(規則第58~60条)。


 ただし、これまで労働委員会は警告するにとどめており、処罰を請求したことはないとのことである。

 

電気事業及び石炭鉱業でのストライキ行為の制限

 電気事業及び石炭鉱業における争議行為の方法の規制に関する法律の第2条は、電気事業でのストライキのうち、電気の正常な供給を停止するストライキ行為を禁止する。第3条は、石炭鉱業でのストライキのうち、鉱山での人に対する危害や鉱害等を生ずるストライキ行為を禁止する。


 ただし、違反したときの罰則は定めていない。

 

安全保持の施設についてのストライキ行為の制限

 労働関係調整法第36条は、「工場事業場における安全保持の施設の正常な維持又は運行を停廃し、又はこれを妨げる行為は、争議行為としてでもこれをなすことはできない。」と定めている。


 これは、人命の安全保持施設の維持を妨げて直接人命の危険を生じさせるストライキ行為を禁止するものである。ただし、違反したときの罰則は定めていない。


 「安全保持の施設」とは、人命の安全保持のための物的施設のことである。たとえば、鉱山におけるガス爆発・落盤等の防止施設や鉄道における踏切警報装置のことをいう。なお、この「安全保持の施設」は物的施設に限られ、人は含まれないから、たとえば病院の医師・看護師・職員がストライキを行うことはこの規定違反にならない。

 

公務員のストライキの一律禁止

 公務員のストライキは、法律で一律禁止されている。


 国家公務員法第98条第2項「職員は、政府が代表する使用者としての公衆に対して同盟罷業、怠業その他の争議行為をなし、又は政府の活動能率を低下させる怠業的行為をしてはならない。(以下略)」


 地方公務員法第37条第1項「職員は、地方公共団体の機関が代表する使用者としての住民に対して同盟罷業、怠業その他の争議行為をし、又は地方公共団体の機関の活動能率を低下させる怠業的行為をしてはならない。(以下略)」


 また、行政執行法人(国立公文書館等の7法人)でのストライキと、地方公営企業(市営地下鉄、市営バス、水道局等)及び特定地方独立行政法人でのストライキも、法律で一律禁止されている(行政執行法人の労働関係に関する法律第17条第1項、地方公営企業等の労働関係に関する法律第11条第1項)。


 このように公務員のストライキを一律禁止する法律は憲法28条に違反するものである。しかし、日本の裁判所が合憲判断を維持している状況では、法律を改正して公務員労働者のストライキ権を保障し、その社会的経済的地位を他の労働者と同等に高める必要がある。


 なお、独立行政法人法に基づく80の独立行政法人国立大学法人法に基づく各国立大学法人地方独立行政法人法に基づく一般地方独立行政法人公立大学法人など)では、ストライキは禁止されておらず、民間企業と同じくストライキ権が保障されている。

 

6 ストライキと賃金

 

 ストライキは、労務を提供しないという点では欠勤や遅刻・早退と同じことであるから、労務を提供しなかった日や時間の賃金をどう処理するかは、欠勤や遅刻・早退と同じ扱いになる。


 もし、欠勤した日や時間分の賃金を支払わない扱いをしている場合はストライキのときも同じく賃金を支払わない扱いになる。ただし、それを超えて人事考課でストライキ参加をマイナス評価する扱いをすることや、一時金支給額の算定で病気欠勤を欠勤扱いしていないのにストライキ参加を欠勤扱いすることは、ストライキ憲法28条で保障された権利であることから、許されない労働組合法7条1号の正当な争議行為を理由とする不利益取扱いとして禁止される)。


 組合員がストライキに参加した時間の賃金が支払われなかった場合にその分を補填するために、ストライキ闘争資金を積み立てている労働組合も多い。労働組合は、ストライキ期間の賃金補填も考えて、ストライキの期間や対象者などを決定することになる。

 

7 ストライキに対する使用者の対抗行為

事業運営の継続

 ストライキ期間中も、使用者は管理職や非組合員を動員し、あるいは代替労働者を確保するなどして事業運営を継続しようとする。


 広辞苑(第七版)では、「スト破り」のことを、ストライキに参加しないで就労する労働者。特に、使用者側がストライキに対抗して業務を維持するために外部から雇い入れた者。スキャップ。」という。


 これに対し、「ピケット」とは、「労働争議中、スト破りを防ぐために労働者側から出す見張り。ピケ。」のことをいい、ピケットをはることを「ピケッティング」という。語源のピケット(picket)は監視員の意味である。スト破りを防ぎ、労働者へストライキ参加を呼びかけ、一般市民へアピールするために、ストライキ中の事業所の入り口に組合員が列を作るのが、ピケット・ラインである。ストライキ時に他の労働者に就労しないよう働きかけるピケッティング行為は、言論による説得活動の範囲であれば正当な争議行為と認められる。

 

労働争議ストライキ期間中の求職者紹介・派遣の禁止

 職業安定法第20条第1項は、「公共職業安定所は、労働争議に対する中立の立場を維持するため、同盟罷業又は作業所閉鎖の行われている事業所に、求職者を紹介してはならない。」と定め、第2項は、「前項に規定する場合の外、労働委員会公共職業安定所に対し、事業所において、同盟罷業又は作業所閉鎖に至る虞の多い争議が発生していること及び求職者を無制限に紹介することによって、当該争議の解決が妨げられることを通報した場合においては、公共職業安定所は当該事業所に対し、求職者を紹介してはならない。但し、当該争議の発生前、通常使用されていた労働者の員数を維持するため必要な限度まで労働者を紹介する場合は、この限りでない。」と定める。


 また、労働者派遣法第24条は、「職業安定法第20条の規定は、労働者派遣事業について準用する。(以下略)」と定める。これらの規定は、公共職業安定所や派遣会社が労働争議に対して中立的立場を維持し、「スト破り」の役割を果たすことがないようにするためである。


 この規定により、第1に、派遣会社が、ストライキが予定され、あるいは現にストライキが行われている事業所へ新たに労働者を派遣することや派遣社員の人数を増やすことは禁止される。第2に、現にストライキが行われていなくても、労働委員会から公共職業安定所を通じて通報があった場合は、派遣会社は、労働争議が発生して争議行為が行われるおそれがある事業所へ新たに労働者を派遣することや派遣社員の人数を増やすことは禁止される労働争議発生前の労働者の人数を維持するための派遣は除く)。


 労働組合としては、ストライキを行う際には、労働委員会に対し、職業安定法第20条及び労働者派遣法第24条に基づいて、労働争議が発生していてストライキを行う予定であることを職業安定所へ通報することを要請することを考えてよい。労働組合から派遣会社に対し、労働者派遣法第24条を遵守することを申し入れることも考えられる。

 

ロックアウト

 作業所閉鎖(ロックアウト)は、事業所を閉鎖して労働者の労務提供を受けることを集団的に拒否する使用者側の争議行為である。


 日本の裁判所は、労働者側の争議行為により労使間の勢力の均衡が破れ、使用者側が著しく不利な圧力を受ける中での、労使間の勢力の均衡を回復するための対抗防衛的な手段としてのロックアウトのみを正当な争議行為と認め、ロックアウト期間中の賃金支払義務を免れるとする。たとえば、工場の組合員の一部が断続的な時限ストライキを抜き打ちで繰り返し行って製造ラインが機能しなくなっている場合に、使用者側が全組合員の労務提供を拒否して賃金支払いを免れようとするのは、正当なロックアウトになる。しかし、それ以外の、労働者が争議行為を始める前の先制的ロックアウトや、防御を超えた攻撃的なロックアウトは、違法な争議行為であり賃金支払いも免れることはできない。

 

ストライキに対する攻撃

 使用者が、労働組合ストライキを非難したり、ストライキをしたら大変なことになるなどと組合員に働きかけることは、許されない。これらの行為は、憲法で保障された労働者の団結権・団結行動権の行使を否定し、労働組合の運営に介入して組合員を威嚇し委縮させるから、労働組合法第7条第3号の不当労働行為として禁止される。使用者には、ストライキを攻撃する言論の自由はないのである。


 たとえば、会社が「組合幹部の皆さんは…団交決裂を宣言してきました。これはとりもなおさず、ストライキを決行することだと思います。…会社も現在以上の回答を出すことは絶対不可能でありますので、重大な決意をせざるを得ません。お互いに節度ある行動をとられんことを念願いたしております。」との社長名の声明文を掲示し、その後脱退者が出てストライキが中止された事件では、声明文の掲示を不当労働行為とした労働委員会の救済命令が最高裁で確定している(プリマハム事件・最高裁昭和57年9月10日判決)。


 また、更生手続き中の会社の更生管財人であり出資者でもある企業再生機構のディレクターが、労働組合ストライキ権確立投票が行われている最中に、「争議権が確立された場合、それが撤回されるまで更生計画案で予定されている出資金3500億円の出資はできない」と発言し、投票が一時中止になった事件では、その発言を不当労働行為とした労働委員会の救済命令が高等裁判所で確定している(日本航空事件・東京高裁平成27年6月18日判決)。


 労働組合は、このようなストライキを攻撃する会社側の発言に対しては直ちに抗議し、ストライキは労働者の基本的人権であることを訴えて組合員を励まし、労働委員会への不当労働行為救済申立てを行うなど反撃を行うことになる。

 

執筆者プロフィール

いのうえ ゆきお 1952年生まれ。1978年弁護士登録(第二東京弁護士会)。東京法律事務所。元早稲田大学法科大学院教授、元専修大学法科大学院客員教授、元東京大学法科大学院客員教授。元日本労働法学会理事。主な著書:「人材派遣の法律実務」(中央経済社・1988年)、労働法の争点[第3版]「団体交渉・労使協議の法的性格」(有斐閣・2004年)、「就活前に読む?会社の現実とワークルール」(旬報社・2011年・共著)、「労働法実務解説4 人事」(旬報社・2016年)。

 

(月刊全労連2024年2月号掲載 )

 

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