月刊全労連・全労連新聞 編集部

主に全労連の月刊誌「月刊全労連」、月刊紙「全労連新聞」の記事を紹介していきます。

【特別公開】諸事情により月刊全労連2023年10月号に未掲載となった記事をオンライン公開します ―「保守的」だった組合が大変身! アメリカ最大規模の宅配物流業者ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)の労働組合が、ストライキを構えての交渉で要求を前進させる! 全労連事務局次長 布施恵輔

宅配便UPSでの労働組合の勝利

ストライキを構えて要求が前進

 

 米国で最大規模の宅配物流業者のユナイテッド・パーセル・サービス(UPSの労働者を代表する労働組合が、協約改定交渉と交渉に伴う運動によって大きな成果を勝ち取りました。同社の約34万人の代表者を組織している労働組合はチームスターズ労組の組合です。米国では概ね3〜5年に一回程度行われる労働協約改定交渉の年が今年、23年で年初からチームスターズを中心に運動が進められてきました。

https://www.labornotes.org/2023/08/wage-gains-ups-have-amazon-workers-demanding-more

 7月にはストライキも構えての交渉に入り、90年代以来初めてのストライキが行われるのではないかという報道もありました。最終的に7月下旬に暫定合意を結ぶことで合意し、8月に約3週間かけて組合員による協定の批准投票が行われました。8月3日から22日まで行われた批准投票では、暫定合意を86.3%の高水準で承認したことが発表されました。

 

民間最大級の組合の協約闘争

 

 UPSは全米最大手の宅配ネットワークを持つ大企業で、単一の民間企業の中では最大の労働者を雇用しています。34万人以上の組合員ですが、UPSを組織しているチームスターズは、米国の民間企業の中では最大の組合員数を誇ります。4月から組合は交渉に入りました。UPSは昨年も1000億ドル以上の利益を出していますが、労働者の生活は苦しいです。

 

 UPSといえばこげ茶のトラックで、多くの車両でドアのない運転席になっていて、乗り降りの時間を短くしようと標語まであります。労働者はエアコンのない車両でこの猛暑の中でも働き、過酷な労働を強いられています。しかも物価高騰に追いつかない賃金水準で、賃上げと労働環境の改善は多くの労働者の要求でした。またUSPOST(米国郵便)やAmazonなどの競合関係で、賃金の一方的な引き下げも起こっています。

 

 今回の新協約では全ての労働者を対象に23年に時給を2.75ドル引き上げ、今後5年間で7.50ドル(約1070円)引き上げることでも合意しました。非正規労働者は平均48%の賃上げとなり、正規職員(配達ドライバー)の最上位の賃金は平均時給49ドル(約7130円)になります。

 

 新しい協約ではエアコンや換気装置のついてない配達用の車両に、それらを完備すること、非正規雇用労働者の正規登用をすすめ正社員を7500人増やすことも盛り込まれました。チームスターズのオブライエン委員長は記者会見で「最も労働者の利益になる」と強調し、「全国の労働者がどのような労働条件であるべきかの基準となる重要な進歩。アマゾンなど労働者を敵視している企業は注意を払うべきだ」と、同じ業種で組合敵視を続ける大企業のAmazonを批判しました。

 

国労働運動に与えるインパク

 

 他にも今度の新協約には、他述べ国の労働組合の仲間からも注目される内容が勝ち取られています。

 

 中でも最大の注目点は、2階層賃金を呼ばれる、採用時期によって賃金体系が異なる制度が廃止されたことです。古い既存の協約の労働者の方が賃金が高く、新規に採用される人は低いという構造は、労使協調の米国労働組合の協約交渉で「現役労働者を守る」という名目で多用されてきました。チームスターズでは保守的で汚職が常に指摘されていたジミー・ホッファ委員長時代に多く導入され、UPSも例外ではありませんでした。この制度が、米国の民間企業で最大の労働者がカバーされる協約で廃止されることにはとても大きな意味があります。

 

 さらに新協約ではマーチン・ルーサー・キングJr生誕記念日を有給休暇とすること、土日の強制残業の廃止が盛り込まれました。「強制6日労働」とUPS内で言われたきたもので、週末の労働を会社の都合で決められることに労働者の間には大きな不満がありましたが、強制ではないことになりました。

 

労働者の要求はより大きい

 

 しかしUPSの労働者の要求は、今回の成果のさらに先の運動をどう構築していくかに実現がかかっています。UPSは97年に大規模なストライキに取り組み、要求を大きく実現する協約を勝ち取りました。その後前述のように保守的なホッファ委員長のもとで、UPSの協約も労使協調路線とAmazonFedExなどの組合のない企業との競争で徐々に後退を強いられてきました。今回の新協約は賃金面で大きな引き上げになり、保守的な前執行部時代に後退した労働条件を元に戻すという意味では大きな成果です。

 

 今回34万人の労働条件改善と大きな成果があったことで、他の労働者や労働組合への波及効果も大きくなります。そこで今後新たな労働条件のスタンダードを作り出していく可能性があると思います。

 

 5年に一回の協約改定があるUPSの場合、今年に改定があった事も有利な要因でした。5年前は2018年でパンデミック前ですが、パンデミックで商品の宅配の需要は大きく伸びました。物価の高騰も進み、気候変動でドライバーの労働環境も大きく変わりました。需要が高まり人手不足が進む中での協約改定は労働組合に有利、追い風だったといえます。しかし年先を見通す事もは企業にとっても困難で、協約の期間そのものを議論すべき(短縮すべき)という意見もあります。

 

5年先までにすべきこと

 

 戦略的にターゲットを設定し、多くの組合員の参加で、大規模なストライキに取り組むことが労働組合の勝利には欠かせないと言われます。今回7月上旬に協約交渉が決裂した際に、チームスターズのオブライエン委員長先頭に全国で組合員集会が組織されました。ピケを張り職場を封鎖する「練習」も各地で行われ、SNSを通じてその様子が拡散されました。このことはその後再開された交渉で、非正規労働者の賃上げ確保の後押しになったと言われています。今回の協約改定交渉のたたかいでは、ストライキに実際に入る前に暫定協約が結ばれ、97年のような全米規模でのストライキにはなりませんでした。5年後を見据えた時には、職場からの力をどのように構築するのか、今回労働条件が改善された非正規雇用のドライバーの団結をどのように構築していくのかが問われていると思います。

 

波及効果と課題

 

 特に非正規労働者(多くは時給制で働く)の賃上げが、今後Amazonなどの未組織職場の組織化に影響する可能性があります。人手不足が進んでいる米国の労働市場の影響で、アマゾンやFedExなどの労組のない類似企業でも、時給単価を引き上げる傾向にあります。しかしそれらの企業ではUPSにあるような医療保険や年金加入がなく、家族手当などもほとんどありません。労働組合が勝ち取ってきた成果を広げていくことで、組織化に道を開くことができます。

 

 米国では9月に三大自動車労組の協約が切れ、現在協約交渉が進められています。UPSに続き、社会的に大きなインパクトのある協約改定交渉が続きます。労使協調から労働者の要求実現を目指すたたかう米国の労働運動に注目です。

 

ピケッティングの略。ストライキが行われている事業所などに労働者の見張りを置き、スト破りの就労阻止、他の労働者へのストライキ参加の促進、一般人へのストライキのアピール等をする行為のこと。

 

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