月刊全労連・全労連新聞 編集部

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【宮城】労働組合がタクシー会社を経営したらどうなる!?運転手の労働条件を改善し、園児の送迎など地域にニーズに応えるタクシー会社が誕生! #労働組合ができること 自交総連・秋保交通労働組合

宮城県〉自交総連・秋保交通労働組合 労組と住民とで共につくる地域交通 

編集者・ライター 池田武士

 

 自交総連は、ハイヤー・タクシー、自動車教習所、観光バス労働者の組合です。業種ごとに政策を掲げ、タクシー分野においては「安心・安全、持続可能な公共交通を担うタクシーをめざして」とする政策を提起して、たたかいの方向を示しています。

 

 宮城県秋保温泉は、JR仙台駅から路線バスで一時間ほど。仙台市太白区秋保町湯元に位置し、鳴子温泉(同県)・飯坂温泉福島県)とともに奥州三名湯の一つに数えられています。その温泉町で、自交総連秋保交通労組の仲間が地元住民とともに「地域交通の拡充新交通システム実現)をめざす活動に取り組んでいます。歴史ある温泉町で「政策」が“きらり”光る取り組みを紹介します。

 

《住民の期待広がる「地域交通」拡充の取り組み》

 

 その推進役を担っているのが「秋保地区の交通を考える会」(2018年1月発足)です。地域住民や地元事業者等を対象に地域交通に関するアンケート調査や報告会等に取り組むなかで、仙台市が進める『みんなでつくろう地域交通スタート支援事業』に認定され、「まちづくり専門家派遣制度」によるアドバイザーを迎え、専門的な助言や技術的な支援が得られるようになりました─と話すのは、発足時から同会役員を務めて来られた青野邦彦さん(秋保交通代表取締役・社長)。

 

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後列中央が青野邦彦さん(「考える会」の役員会にて) 2020年3月

 

 ―弊社では、仙台市教育委員会からの委託事業で6年前から「あきう幼稚園」の園児さんの送迎事業をやっています。卒園する児童の保護者さんから不便なバスでは小学校通学が非常に心配との声が寄せられていました。同時に近くの医院の院長先生からは、高齢者の足がなく、診察を受けた高齢者がバス待ちのため1時間2時間待合室にいなければならない、なんとかならないかとの相談を受けていました。

 

 ―私は地域交通として、特にデマンド型の整備を考えていたのでその案を提示すると、自然に地域交通に関心を持つ有志集まってきました。構成メンバーは、元秋保連合町内会長さん、馬場小学校PTA副会長さん、秋保地域包括支援センター所長さん、職員さんなどです。

 

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秋保の交通について意見交換する地域代表の皆さん

 

《労働者が作った会社にしかできないことをやろう》

 

 青野さんは、自身の秋保交通一般タクシー&観光タクシー【秋保交通】秋保温泉から仙台・宮城の観光スポットへ (akiukotsu.com) )との関わりと合せてタクシーをめぐる問題、タクシーの果たす役割など、想いを込めながら話してくれました。

 

 ―弊社の前身は、自交総連組合員が争議(秋保交通労組のたたかいの経過は末尾参照)をたたかい、勝利した際の解決金・退職金を仲間が持ち寄り設立した会社です。

 

 ―私はその当時、仙都タクシー労組(本社・仙台市宮城野区)の書記長をしていました。その後、同社を退社しましたが、労働組合が立ち上げた会社であることに惹かれ秋保交通に入社しました。そのときの気持ちは、「あまたのタクシー会社が己の利潤追求のみに走り、劣悪な労働条件を労働者に押し付け憚らない現状をなんとかしたい、国と大企業の都合で労働者をさらに劣悪な生活水準に落とし込む体制に一矢報いたい」。言ってみれば「階級的怒り」だったかもしれません。

 

 ―秋保交通初代社長が死去した後、縁があって私が社長就任しました。このとき思っていたのは、「労働者が作った会社にしかできないことをやろう、タクシー業界のイメージを変えよう」でした。

 

 ―まずとりかかったのは、労働を正当に評価するということでした。今でもそうですが、タクシー業ではいったん会社を出ていくと労働時間がいくらあったか、休憩時間をどのくらい取ったか、残業時間がどのくらいあったか、深夜労働の時間はどのくらいだったか等々はつかみづらく、いわゆる「みなし労働」で労働を評価するというのが一般的です。一般的に「賃率」と呼ばれている歩合で、実際の労働とは関係なく、「売上高×賃率」という単純計算で賃金が支払われていました。

 

 ―少し詳しく言うと、仮に賃率53%の歩合給のなかに3%の「残業代」と2%の「深夜割増賃金」、1%の「通勤手当」、ひどいところになると3%くらいの「有給手当」が入っていて有給休暇をとらせないそのうえで労働者は一律同様に働いていると「みなす」というもの。こんなことが許されるのでしょうか。一人ひとりの働き方はそれぞれ違いますし、頑張って働いている労働者はきちんと評価されるべきです。労働の中身を把握するのが困難だから「みなし労働」も仕方ない…。そんなことはありません。時刻をきちんと管理しさえすれば、困難なことは何もありません。

 

 ―弊社では拘束時間、労働時間、休憩時間、深夜割増時間管理、労働の正当な対価として賃金を支給しています。他社では賃率に含まれる通勤費も外に出し、実費で支払っています。子育て世代には、養育手当も支給しています。それでも会社は存在できることを証明し続けています。

 

 ―そんななかで、秋保交通は労働条件のいい会社だと評価が高まってきているのは、私にとってとてもうれしいことです。

 

《タクシーは「ドアtoドア」のサービスが得意な公共交通》

 

 ―ここで少しタクシーをめぐる大きな動きを紹介します。今国会(記事執筆当時)では、道路運送法の改悪が目論まれています。ライドシェア(下表参照)導入の突破口としての位置づけである自家用有償旅客運送法の拡大解釈、改「正」の問題です。ご存知のとおりライドシェアが導入されれば、移動の安全・安心は根本から崩壊します。絶対許してはなりません。

 

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自交総連パンフレット「危険な白タク ライドシェア Q&A」より引用

 

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上記の表と同じパンフレットより引用

 

 ―自家用有償旅客運送が導入された地域は、どういった地域だったでしょうか。鉄道やバス等の公共交通機関が全くなく、タクシー会社もない地域に、やむなく導入されたものです。誤解を恐れずに言えば、タクシー会社すら見捨てた地域ではないかと私は言いたい。

 

 ―私は移動する権利基本的人権の一部を構成していると思っています。だから図体のデカイ公共交通機関たる鉄道やバスに比べ、伸縮自在の面的移動ができ、「ドアtoドア」のサービスが得意なタクシーこそが、こうした交通不便地域で有効に活用されるべきだと考えています。急速な少子高齢化が進行し、運転人口が減少している時代にあって、タクシーの果たすべき役割は、新たな需要とともに高まってきています。

 

 ―もう一つタクシーを取り巻く大きな環境変化があります。IT革命の進行で主に通信情報産業からの業界参入です。「アプリ配車がそれにあたります。ウーバーやディディなどは、日本では一気にライドシェア参入にはいかないとみると、大手タクシー会社と手を結び配車事業切り替えました。そして市場分割をめぐって激しい競争を展開しています。一方、キャッシュレス決済の普及もあり、中小のタクシー事業者の営業利益はIT企業への支払手数料を考えると大きな出費を覚悟しなければなりません。激しい競争のなかで弊社のような零細企業が生き残って行くための基本戦略を考えなければなりません。それは地域におけるタクシーに活躍の場を見出し、他事業者に追従することなく独自の道を歩むこと、新しいIT技術を導入地域に密着した交通を構築することが弊社の生き残る道だと考えています。

 

《新交通、年内にも実証実験住民参加広げて取り組み強化》

 

 ―「会」では、秋保地区の市バスの現状、バス路線から遠隔地に住む方への新しい公共交通機関の提供等が話し合われました。町内1400戸アンケート調査を行い、バスに寄せる住民の意識調査、改善要望、将来の方向などを調査しました。その結果、ダイヤ改善や始発と終着停留所の延長等の要望とともに、新たな公共交通機関の整備が必要な地区があることが明らかになりました。

 

 ―これらの調査結果、住民の要望を仙台市へ伝え、地域交通整備を求めるために、真に地域代表として会の再編をめざしました。新しく秋保旅館組合理事さん、秋保中学校校長先生各町内会長さん、みやぎ商工会秋保支部さんなどに加わっていただき、新しい「秋保地区の交通を考える会」として発足しました。

 

 ―会は現在、地域住民の足確保と同時に秋保地区の観光資源を生かすための観光客の足確保という両面で動いています。地域交通整備が秋保の交通だけにとどまらず、経済、文化、教育、観光に貢献するものとして確信しているからです仙台市との交渉も都市整備局を中心に定期的に行っています。仙台市の新制度『みんなで育てる地域交通乗り乗り事業』(2020年4月より)を使い、年内にも実証実験が行われるところまできました。

 

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 ―私はこれを機に会を辞退しようと思っています。というのも、関係者から実際の運行事業者選定をめぐって「利益誘導とみられるのがイヤだからです。後は相談役くらいはして行きますが。

 

 ―タクシーは、その特性から地域交通の要となりうるし、地域の経済、文化、教育、観光を育てる大切な移動手段であり資源だと思います。その資源を守り育て、新しい技術を添えて次の代に引き渡すことができれば、東北の一地方でタクシーが新しい役割を担っているという証左になるかもしれません。

 

 ―コロナ禍の影響秋保温泉ではホテル旅館の大半が営業を取りやめています。通常の営業も特に夜間の国分町を中心にガタ減りです。4月に入ってからタクシーの売上は対前年比でわずか38%。弊社開業以来最大の危機と捉えています。

 

 ―企業存続のため雇用調整助成金制度を活用するなど対策に取り組んでいるところですが、前年の雇用保険確定額から導き出された平均賃金額の60%から100%の支給額に対する90%の助成ですから、労働者にも事業者にも厳しい内容です。あらかたの事業者では60%の支給率を採用するようですが、弊社では70%で労使協定を結びました。ほんのわずかしか支給できず、申し訳なく思っています。それにつけ、日本という国はどうしてこんなに冷たいのでしょうか。このままでは、一企業がつぶれるのではなく社会全体がつぶれてしまいます。移動を制限するのであれば、それにともなうあらゆる産業に補償をセットで付けるべきです。意地でも存続をはかります

 

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 【別稿】秋保交通労組のたたかいの経過 秋保交通労組の前身は、自交総連宮城地連「秋保温泉タクシー労働組合」です。

 

 小泉政権によるタクシー規制緩和が強行され、仙台市内ではタクシー車両が増大し営業収入の落ち込みが社会問題化しました。当時の経営者(秋保温泉タクシー)は1999年、労使合意していた年末一時金の不支給を掲示したため裁判闘争に発展。地裁・高裁で組合側が勝利し、会社側は最高裁まで上告しましたが却下。その後、5年かけて組合が全面勝利。この間、経営者側は交渉の中で秋保温泉営業所の廃止を通告してきました。

 

 執行部で議論した結果、廃止したら秋保地域の人たちが不便になる、裁判で勝ってもこの経営者の顔を見ながら仕事するのは嫌だ、等の意見が出るなか宮城地連より「組合で経営する自主経営会社の道もあるよ」と提案され、裁判闘争と合せて自主経営会社を立ち上げる準備に掛かりました。

 

 2003年9月、秋保温泉タクシー労組は第37回定期大会で「自主経営会社設立」を決めました。

 

 2004年3月6日、秋保交通社員総会(組合員が会社設立資金を持ち寄り)、3月9日に臨時大会を開き「秋保交通労働組合」に名称変更後、私保交通として営業車の出発式を行ないました。

 

 2004年9月26日、秋保交通労組は第38回定期大会に引続いて、「年末一時金支払請求事件、勝利判報告集会」を開催、現在に至ります。

秋保交通労組 執行委員長 東海林銀次(記)

 

 

 

( 月刊全労連2020年7月号掲載 )

 

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【東京】アニメーターの「やりがい搾取」をやめさせるために #労働組合ができること。連続テレビ小説「なつぞら」の頃から続く取り組みとは? 映演労連・東映動画労働組合

「悟空」が元気玉を作る そんなアニメ職場をめざして 

ライター 坂本誠一

 

 今回は、映演労連・全東映労働組合連合・東映動画労働組合(動画労組)を紹介する。動画労組は、東映グループの中で(株)東映アニメーションで働く労働者で組織した労働組合である。

 

 日本の映画興行では、依然としてアニメが堅調な売り上げを維持している。2019年では、年間最大興収を上げた『天気の子』(140億2000万円)を筆頭に、『名探偵コナン 紺青の拳』(93億7000万円)、『劇場版ワンピース STAMPEDE』(55億3000万円)などがヒットを上げた。洋画作品では、『トイ・ストーリー4』(100億8000万円)、『アナと雪の女王2』が120億円を突破し、年間興収ベスト10アニメが5作品を占めた。

 

 日本動画協会が発表した最新の「アニメ産業レポート」では、2018年の売上総額2兆1814億円(前年比100.9%)と、2兆円市場を維持しつつ横ばいながらも6年連続で規模が拡大していると報告している。またアニメ制作会社の収入高(売上高)合計は2131億7300万円となり過去最高を更新したが、2兆円産業と言われながら制作者(制作プロダクション)にはその10分の1しか還元されていない。しかもその多くを東映アニメなど、大手のプロダクションが占めている。

 

 2018年はアニメ製作会社の倒産6社休廃業・解散5社、合計11社となり過去最多となった。19年は拡張するアニメ産業の裏側にある「過酷な労働現場」の報道がメディアやネットでも多く発信された。「アニメ100年」「2兆円産業」という「光」の一方で、月収10万円前後過酷な労働を強いられる「闇の世界」、その多くは雇用契約によらないフリーランサーだが、その実態は、会社に長時間拘束され、明確な業務指示もあり日々締切りに追われる日常となっている。最賃法違反社会保険未加入残業代不払いだけでなく、こうした偽装請負をごまかすために机代やペン代を徴収する悪質なピンハネ行為も横行している。

 

《「やりがい」と長時間労働是正の苦悩》

 

 これまで日本製アニメが海外で競争力を維持できた要因格安の制作費があった。多くの製作スタジオが労働者を偽装請負労基法から逃れることで常識外の低額制作費で成立してきた。また「やりがい搾取」と言われるように、アニメの仕事に就く若者が体を壊してでも安い賃金で働くこともよく耳にする。最低賃金以下の収入の人も頻繁にみられる。「働き方改革」では大手アニメ製作会社を中心に改善対応が迫られ、会社はこれに社外発注を増やすことで対応したため、労基法の適用外となる請負労働者フリー労働者しわ寄せが集中している。

 

 東映アニメは練馬大泉スタジオにアニメ制作としておよそ500人の労働者を抱えている。数年前まで労働者の約半分は本来直接雇用の労働者を委託契約として働かせ(偽装請負)、残りの半分もフリーとはいうものの会社に席を置き、長期間働いているスタッフであった。動画労組は本来のフリーといわれる立場にある人は、その1割にも満たないと捉えている。

 

 東映アニメは18年の労働契約法の改正に先立って、16年にそれまで偽装請負の契約者約250人契約社員に雇用変更し、労基法適用に踏み切った。しかし、長時間労働は以前のまま手を付けず、いくら働いても賃金が変わらない裁量労働制を導入した。36協定(月45時間・特別条項月60時間)も締結したが、当時は月100時間の時間外労働も当たり前の状況であった。しかし、19年4月からの働き方改革による長時間労働規制は、36協定の厳密化と罰則を明確にしたため、締結内容が労使間で効果を発揮することとなった。

 

 会社はこの年の夏に公開される『劇場版ワンピース STAMPEDE』について、「スケジュールが厳しく、36協定の特別条項を上限の月80時間に変更してほしい」と要請してきた。

 動画労組の基本方針は労働者の命と健康を守る立場から「特別条項なし」であったが、アニメ作りに取り組んでいる組合員や現場労働者の声も無視できず、条件付きで月80時間を受け入れ、その経緯を非組合員に説明する会を開いた。

 

《組合結成当時から受け継がれた、労働環境改善と雇用差別反対のたたかい》

 

 動画労組は社員と契約社員、フリー労働者の格差是正を大きな問題として取り組んでいる。契約社員化で基本給が社員に準じる額で設定され、定期昇給の制度も確立したが、昨年の生補金(一時金)は年2回それぞれ、社員「3.2ヵ月+3万円」に対して、契約社員は組合の計算で「平均1.83ヵ月+3万円」大幅な格差が残っている。

 

 また家族手当の支給対象を「年収700万円未満」と制限を設けており、組合員を狙ったともいえる不当な制度も焦点となっている(家族手当は労基法適用後2年遅れて導入)。正社員は30歳代前半でほぼ全員が課長に昇進し、各種手当がなくなるとともに、これを上回る課長手当に変更になる。しかし契約社員は、40歳代後半になるころ、子どもが高校、大学に進学する一番資金が必要な時期に手当が打ち切られる。会社は「これからは正社員も課長に昇進させない者もいる」と発言しているが、現状、例外的な場合を除き該当者がいない。多くの子どもたちに夢を与えるアニメを作っていながら、従業員を差別し子育て支援もないがしろにする制度が継続している。今後、「同一労働・同一賃金」も法制化された中でのたたかいが重要である。

 

 動画労組は、毎年ストライキを背景とした春闘を展開している。2019年は、新大泉スタジオのガラス張りエレベーターに「ダイオウイカイワシの群れ」に「フリーの単価を大幅UP!」とロゴを入れたステッカーを1階から4階まで貼り付ける大規模なもので成功させた。このストライキには、映演労連の役員や東映グループの他単組代表、同じアニメ産業の亜細亜堂労組の委員長、地域の練馬労連からも支援の挨拶を受け、ストライキを大きく成功させた。

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2019年ストライキのステッカー行動

 

 2019年の回答は「2000円(前年同期)のベースアップ(6年連続のベア獲得)」や「家族手当は中学生までの子ども1人当たり2000円」の手当増額であった。さらに「積立年休の10日間拡大で50日間」「契約者共済と社員共済の一体化」の回答があった。

 家族手当について年収700万円制限撤廃・生補金の「〇ヵ月回答」には改善無し、など問題点は残ったが、一方でフリー労働者も支給対象になる特別褒賞金は、決算を反映して年間3回支給され総額63万円(昨年総額59万円)と過去最高となった。

 

 非正規労働者偽装請負の労働者が、春闘を通して最終的に正社員と同程度の定期昇給やベースアップが回答されていることは、日本のアニメ界では異例ともいえる成果であるが、本来、正社員も非正規も生活に必要な賃金は変わらない。

 

 動画労組は過去非正規の労働者社会保険適用交通費の支給共済会の充実退職金制度少しずつ適用させ、その積み重ねが最終的な労基法適用につながった。同時に現在「ドラゴンボール」や「ワンピース」の二次利用(アニメ配信の収益やゲームでのキャラクター使用料)が会社の大きな収入源で純利益100億円を上げるほどになっているが、これらの作品は偽装請負やフリースタッフであった多くの労働者で作られてきた。

 

 長年の会社の雇用政策は、経営状況が悪くなれば、現場の労働者を「フリー化する」という姿勢であった。このため動画労組は、春闘・秋闘では会社の経営状況を聞き出し、雇用を守りながら現場の人材を確保することが恒常的な課題であった。当たり前の言葉になるが、「運動の継続」が労働者の待遇を改善させ、会社の経営を健全化させたといえる。

 

《テレビ小説「なつぞら」の現場でいい作品作りと人間らしい働き方を求めて》

 

 NHKの2019年の連続テレビ小説なつぞらでは、ヒロインの奥原なつが戦争で両親を失いながらも懸命に生き抜き、草創期の日本のアニメの世界に飛び込んでいく姿が共感を呼んだ。この舞台のモデルになったのは東映アニメだ。

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連続テレビ小説 なつぞら (nhk-ep.com) より引用

 

 東映動画労組1961年に結成した。組合ニュース第1号には「私たちの作品に対する愛情と団結の思いを込めた労働組合」と宣言している。

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 結成執行部の1人女性アニメーターイオニアで、「なつぞら」のヒロインとなった奥山玲子さんである。当時は入社時に「結婚して子どもができたら辞めます」と誓約書を書いたとのこと。労組の運動出産退職制度を廃止させ、奥山さんが出産後、仕事を続けた最初の1人となる。

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奥山玲子さん http://www.yk.rim.or.jp/~rst/rabo/okuyama/okuyamareiko.html より引用

 会社は1963年、テレビアニメに参入し、これを機に作品本数や出来高で賃金を払う「契約者」と呼ばれる個人請負の労働者を急増させた。労組は契約者の待遇改善を訴え、それから40年後の2016年に契約者への労基法の完全適用、無期雇用制度を団体交渉で合意した。いい作品作りと人間らしい働き方を求めるたたかいであった。

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なつぞら」の場面でもよく登場した中庭でのストライキの様子

 

《根本的な改善めざし、フリー労働者の組織化を》

 

 現在、会社は史上最高の売上げを続けている。東映アニメが業界に先かげて労働条件の改善を実現できる環境は整っている。

 

 大泉スタジオ内で働く人は約500人、社員>契約社員>フリー労働者と雇用格差が明確に存在している。これに対して組合員は50人弱である。組織の拡大は要求を実現させる上からも避けて通れず第一義的に追求しなければならない課題だ。とくに、フリー労働者、派遣労働者の組織化が重要で、動画労組だけでなく映演労連フリーユニオンなど個人加盟の組合への組織化も含めて進めていく必要がある。

 

 動画労組のたたかいに組合員は、「東映アニメの関連会社から偽装派遣の状態で働いていましたが、動画労組に加入して、2001年に東映アニメの直接雇用が実現しました。組合の執行委員になることをずっと避けてきましたが、会計監査に就任して初めて団体交渉に出ることになりました。それまで組合役員が言っていたことは半信半疑でしたが、会社は私たちの要求に『対応している』と言うだけで、実態は変わらず厳しい労働者の生活まで考えていないことがわかりました。以前の自分が偽装派遣のままだったら、使い捨てにされるだけだったと思います。アニメが好きでこの業界に入ってきましたが、好きなだけではいい作品は作れないこともわかりました。働いている人たちがまとまって、会社と交渉するしかないと思います。同じ偽装派遣で働いていた人やフリー労働者に組合加入を呼びかけて要求を会社にぶつけたいと思っています」と語る。

 

 沼子哲也動画労組副委員長は、「動画労組の人員構成を考えると、3つの問題点があります」という。

 

  1. 組織率が低い
  2. 契約社員のみで正社員・フリー労働者が組織されていない
  3. 高齢化している。

 

「組合として春闘・秋闘の運動を全労働者の労働条件アップに取り組んでいますが、未組織の労働者の要求と一致していないように見られてしまいます。正社員との格差是正が前面に出るため、正社員にとって組合の要求は、『今さら』感があり、フリー労働者については、雇用関係がないということで会社は回答せず春闘で妥結を乗り越えて闘争するまで連帯することができていません。フリー労働者の賃上げ(出来高単価・担当料のアップ)は、効果的な方針が打ち出せないでいます。しかし、アニメ産業の多くの労働者が、いまだに年収100万円程度で生活しており、この部分を改善できなければ、今後アニメの仕事に就きたいという若者もいなくなります。動画労組は過去に何度ともなく、労基署や労働局に会社の実態を相談に行きましたが、『あなた達は労働者ではない』の言葉で門前払いになります。しかし労働組合に加入することで、団体交渉はできます。私たちも組合に入っていながら、春闘回答の対象にならないという経験を数年間過ごしました。でも今の動画労組なら、フリー労働者が組織されれば全力で会社から回答を引き出すことができます。アニメ産業の根本的な改善には、フリー労働者の組織化が必要です。未組織の組合員に『少し自分の仕事を止めて、連帯した運動に時間を割いてほしい』、ドラゴンボールの悟空が元気玉を作るような、そんな思いがずっと続いています」とこれからのたたかいへの熱い決意を語った。

 

( 月刊全労連2018年6月号掲載 )

 

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【北海道】少数組合だからといってなめてもらっては困ります!パート職員1400人、嘱託職員400人の雇用の安定を勝ち取りました。#労働組合ができること 金融労連・北洋銀行労働組合 佐藤一枝

非正規の雇用安定確保 パートと嘱託職員の無期転換を実現

金融労連・北洋銀行労働組合 中央執行委員長 佐藤 一枝

 

 金融労連北洋銀行労働組合は1946(昭和21)年に結成された歴史ある組合です。1971(昭和46)年に経営側に組合を分裂させられ、現在の組合員は10人。しかし、分裂後20数年もの間、三桁の組合員が残ってたたかってきました。一貫して労働条件を守るために頑張ってきた組合です。

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 これまで、不当配転問題・けんしょう炎闘争・夫婦同居闘争・昇格差別闘争・女性昇格闘争・女性の定年延長(45歳定年を60歳に)などに取り組みました。今では当然のことが、たたかわなければ解決できない大変な時代でした。けんしょう炎闘争では48人という全国一の労災認定を勝ち取りました。

 

 1998(平成10)年、北海道拓殖銀行が経営破たんし、北洋銀行が業務を継承。システムを拓銀のものにしたことから、組合員もシステムを勉強するため、毎日業務終了後に残業して勉強しました。

 

 そうした中、営業店の課長だった組合員の斉藤久恵さんがくも膜下出血で倒れ、2日後に亡くなりました。仲間からは「これは労災だ」「もしかしたら自分だったかもしれない」との声があがりました。労災認定が棄却されたため、組合は労災認定を求め提訴7年ほどかかりましたが、勝利することができました。近年は、うつや心の病で休職した労働者の職場復帰のために組合が大きく関わっています。

 

《ねばり強く交渉を重ねた結果、大きな成果が》

 

 2017年の春闘要求では、2018年4月に施行される非正規無期転換制度を実効あるものにするよう要求しました。金融の職場はパートや嘱託職員なしでは回らないのが現実です。そのパートさんたちが安心して働けるように、無期転換制度の内容を早めに提示するよう求めるとともに、「誰でも無期転換できること」との要求を掲げ、団体交渉を行いました。

 

 春闘では5回の団体交渉を行いましたが、回答にはもう少し時間かかるとの返事でした。この間、組合として道労連の無期転換制度学習会に参加、金融労連北海道地協の主催で学習会を実施しました。パートや嘱託職員が多く働く北洋銀行事務センターや北海道銀行事務センターの地下鉄駅周辺で、何度も学習会のビラまきを行いました。講師には北海道労連の黒澤幸一議長(現・全労連事務局長)が来てくれました。

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北海道労連・黒沢幸一議長(現・全労連事務局長)による学習会の様子

 

 秋闘でも無期転換制度の制定を強く要求しましたが、回答は得られませんでした。ところが、12月になって銀行から「3年で自動的に無期雇用にする」と法律を上回る回答を得ました。

 

 これにより、全道でパート職員1300人嘱託職員400人雇用の安定が図られました。直ちに職場の掲示板に大きくビラを貼りました。職場のパート職員からは「これで安心して働ける」「『仕事がなくなった』といつ言われるか不安だったが、安心した」と喜びの声が届いています。

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 少数組合ではありますが、今後も労働条件を守るために奮闘する決意です。

 

( 月刊全労連2018年6月号掲載 )

 

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#最低賃金 を引き上げると雇用は減ってしまうのか?最賃引き上げの恩恵を受けるのは誰か?米国シンクタンクの調査から考える。全労連国際局長 布施 恵輔

最低賃金引き上げで雇用も賃金水準も改善 米国シンクタンクの調査から

 全労連国際局長 布施 恵輔

 

《労働者の危機に何が必要なのか》

 

 昨年の米国・民主党の大統領候補選びの際には、最低賃金や貧困対策もテレビ討論会のテーマになりました。2020年3月中旬からの新型コロナウイルスの感染拡大以降、米国でも集会などの制限が拡大し、ニューヨークなどの感染拡大が深刻な地域では経済活動も深刻な打撃を受けました。全米各州で外出禁止となり、不可欠サービスに従事する人を除いて仕事も休みになっています(2020年4月時点)。

 

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FIGHT FOR $15の集会でスピーチするカマラ・ハリス氏 

引用:https://fightfor15.org/2020-candidates-stand-with-workers/

 

 世界的な大流行を示すパンデミック世界保健機関(WHO)が2020年3月13日に宣言して以降、グローバル化した世界経済は大きな影響を受け、労働者の雇用や賃金、労働条件にも大きな影響が出ています。ILO(国際労働機関)は、最悪の場合、2020年末までに2470万人が世界で失業するという第一次推計を発表していました。

 

 本稿では、今回のような危機においても、特に影響を受ける低賃金で不安定な雇用で働く労働者の生活を支える上でも重要な、最低賃金の引き上げがどのように賃金水準に影響したのか、米国のシンクタンク=経済政策研究所(EPI)の研究をもとに、近年、州や都市単位での最低賃金引き上げが続く米国の現状について考えます。

 

《最賃引き上げの恩恵は低賃金労働者に》

 

 米国の50州のうち、2019年最低賃金を引き上げたのは23の州ワシントン特別区(DC)です。州の法律によるもの、州民投票、あるいは最低賃金の引き上げをインフレと連動させていることによるものなど、引き上げの理由はいくつかあります。しかし共通しているのは、最低賃金引き上げをしていない州に比べて低賃金労働者の賃金上昇が高いという点です2018年から19年の間に最低賃金が引き上げられた州の労働力人口は、全米比で55%になります。引き上げは最も小さいアラスカ州の5セント(0.05%)から、カリフォルニア、マサチューセッツ、メインの各州の1ドル(9.1%から10.0%)まで様々ですが、確実に賃金引き上げにつながっています。

 

《確実に低賃金労働者に賃上げが》

 

 米国の労働者の収入階層別に比べると、10段階に分けて低い方から10%の層の労働者で比べると、当然ですが引き上げのなかった州の労働者の層よりも引き上げ幅が大きくなります。最賃引き上げのあった地域での引き上げは4.1%(男性3.6%、女性2.8%)で、引き上げのない地域の0.9%(男性0.7%、女性1.4%)に比べ、賃金引き上げの幅は大きくなります(図参照)。

 

 

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ここまではある意味で最賃引き上げの当然の結果と言えます。問題は、最低賃金の引き上げが低賃金労働者以外の層では恩恵があったのかという点です。この点で、先ほどの10段階の中位に当たる下から4番目(40から50位の層)と上から3番目(70から80位の層)の数値で比較すると、40‐50位の層では最賃引き上げのあった州では0.7%の上昇、引き上げのなかった州では2.1%の上昇でした。下から70‐80位の層では、引き上げのあった州で1.5%の上昇、引き上げのなかった州では2.4%の上昇となっています。

 

 このことから、収入の階層で中位や比較的高い層では最低賃金引き上げの直接の恩恵はない、あるいは少ないと思われます。しかし少なくとも低賃金労働者の賃金引き上げは最賃引き上げによるところが大きいことがわかり、低賃金労働者にとって一般的な賃金引き上げ政策よりも最賃引き上げが有効であることを示しています。

 

《連邦最賃水準との格差は年収で26万円以上に》

 

 低賃金労働者の賃金水準でみると最賃が引き上げられた州で上昇しているだけでなく、平均賃金の差も分かっています。最賃引き上げを実施した州では下位10%の層の平均で時給10.98ドル(2019年)となっていますが、引き上げをしていない州の平均は9.80ドルにとどまっています。フルタイムに換算すると、この差は年間で約2500ドルになります。

 最低賃金を州レベルで引き上げることの重要性は論を待ちませんが、時給7.25ドルしかない連邦最低賃金が適用されている州での引き上げは特に求められています。連邦最賃は10年余り全く変更されていません。

 

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引用:https://fightfor15.org/congress-it-is-past-time-to-raise-wages-for-nearly-40-million-workers/

 

 この連邦最賃引き上げが女性労働者に特に恩恵があることも分かっています。労働力人口の中では男性が多いのですが、引き上げの恩恵を受けるのは58.3%が女性となっています。そして、低賃金労働者が多くいるアフリカ系アメリカ人(黒人)労働者にも恩恵が大きくなると推計されています。連邦最賃が15ドルになると、黒人労働者の38.1%が賃金引き上げになります。

 これらの労働者が低賃金で働いていることの反映でもあり、直接的に賃金、労働条件を改善する手段として有効であることがわかります。

 

最低賃金を引き上げても失業率は下がらない》

 

 EPIの調査では労働条件や雇用についても述べています。米国では雇用数が拡大傾向が続いていたため全体として失業率がわずかに減少している傾向がありますが、失業率について最賃を引き上げた州、引き上げていない州で比べると、わずかに最賃を引き上げた州で失業率の減少が大きくなっています(-0.3%と-0.2%、図参照)。

 

 

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 人口に対する雇用数の割合を示す雇用人口比でも、最賃を引き上げた州のほうが雇用が拡大しており+0.4%となっていますが、引き上げのなかった州では+0.3%です。差はわずかですが、少なくとも最賃の引き上げによって失業率が増える、あるいは雇用が減少するということは米国では起こっていません

 

 この調査の発表後急速に米国でも新型コロナウイルスの感染が拡大し、労働者の雇用と労働条件を守るための労働組合による運動が始まっています。ILOはこの危機の中で社会的保護・社会保障が機能することが重要だとよびかけています。失業給付などと共に、人間らしい労働を支える最低規準が今こそ必要です。

 

 米国の中でも組合などの運動が強い州と、進んでいない州での最低賃金の格差が広がっています。危機の中でこそ役割を果たす全国一律の最低賃金と、その大幅引き上げが求められています。

 

( 月刊全労連2020年5月号掲載 )

 

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【岐阜】NTT子会社で契約社員が雇止めに!納得がいかないので、労働組合に加入して会社と交渉した結果は…?#労働組合ができること JMITU通信産業本部岐阜支部 執行委員長 松葉正之

非正規社員の雇用を守る 「雇い止め」裁判で組合員が全面勝訴

JMITU通信産業本部岐阜支部 執行委員長 松葉正之

 

 2017年12月25日、岐阜地方裁判所(以下、岐阜地裁)にて、NTT契約社員雇い止め裁判で画期的な判決が出された。この裁判は、NTT西日本の子会社「NTTマーケティングアクト」(大阪本社)から不当な雇い止めを受けた東海支店岐阜営業部に働く契約社員が、労働契約法上の地位保全賃金支払いを求め提訴したものである。

 

 有期雇用契約社員6人は、3ヵ月ごとの反復更新を繰り返し、5~12年間フレッツ光」販売で働く営業担当である。2015年2月に「光回線の直接販売はなくなる」と11月末の雇い止め通知を受けた。

 

労働組合に加入して交渉開始》

 

 会社契約社員全員に「雇用終了同意書兼斡旋希望確認書」を渡し、提出しなければ再就職先を斡旋しないと脅して提出を強要した。雇用終了に同意し、斡旋を希望しても採用されるか分からず、総合的に判断して決めるとしており、とても納得できるものではない。

 契約社員6人は通信労組岐阜支部(現JMITU通信産業本部岐阜支部)への加入を決意し、同意書の提出を拒否。組合員となった6人は社長に対し、雇用継続の意思を示す「申入書」を提出した。

 

《しかし会社側の対応は…》

 

 ところが会社は、通信労組交渉中であるにもかかわらず同年9月30日で雇い止めを強行した。

 

 これに対し、岐阜支部は組合員6人の地位保全仮賃金支払いを求め岐阜地裁仮処分申請をした。2016年3月15日に岐阜地裁は、「雇用終了同意書兼斡旋希望確認書」の提出は、「労働契約法19条の保護を受ける主張を封じる目的であることは容易に推認できる」とし、一審判決言い渡しまで「仮賃金を支払え」との仮処分命令を下した。

 本訴では5回の口頭弁論と9回の弁論準備手続きを行い、全国の仲間の支援で個人1万4775筆、団体712筆の署名を提出することができた。

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《会社側の雇い止めの回避努力は不十分》

 

 今回の判決では、「人選の合理性や手続きの相当性を欠くとは言えない」が、人員削減の必要性については、「雇い止めの対象者(東海支店で112人)の人数に見合うほどの人員削減の必要があったか否かについては、疑義があると言わざるを得ない」とし、雇い止めの回避努力については、「不十分であった」として「総合的に考慮すれば、今回の雇い止めは客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認めることはできない」とした。そして原告6人は、「雇用継続の更新を会社に申し出ており、労働契約上の地位にある」と認定し、雇い止めされた2015年10月1日以降の賃金請求権を認め、判決確定までの将来賃金の支払いを命じたのである。

 判決後の報告集会・記者会見には多くの仲間や支援者が参加し、新聞社テレビ局13社が取材に来て、当日のニュースや翌日の新聞で報道された。

 会社は不当にも控訴した。引き続きご支援をお願いし、名古屋高裁での勝利をめざしたい。

 

《各社報道》

日本経済新聞】NTT西の雇い止め無効 子会社契約社員、岐阜https://www.nikkei.com/article/DGXMZO25032780V21C17A2000000

朝日新聞】雇い止め、NTT西子会社に賃金支払い命令 岐阜地裁https://www.asahi.com/articles/ASKDT3DN9KDTOHGB002.html

毎日新聞】NTT子会社:契約社員6人の雇い止め無効 岐阜地裁 https://mainichi.jp/articles/20171226/k00/00m/040/111000c

 

 

【その後の経過】 契約社員を励ます画期的な勝利和解!!(JMITU通信産業本部ホームページより抜粋) NTT契約社員雇止め裁判勝利和解 (tcwu.org)

 

 名古屋高裁は、第1回目口頭弁論(2018年4月26日)で結審となり、原告側・被告側双方に対し和解を提案して来ました。会社側より「雇止めを撤回し陳謝する」などの和解内容の提案があり、協議を重ねた結果、和解に合意しました。この結果は、不当な雇止め手法によって契約社員においても安易に雇止めにできないことを示し、全国の契約社員を励ます画期的な勝利となりました。支援活動も多くの団体や個人の方々からご協力をいただきました。署名は、個人の方々から2万筆を超え、団体は1000団体近く集まりました。また、多くのカンパもいただきました。今回の労働裁判の勝利は、こうした皆様のご支援・ご協力のたまものです。本当にありがとうございました。

 

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■原告から喜びの声①

 ずっと働けると信じていた会社から、雇止めの宣告を受け途方にくれていた時、組合の存在を知り6人の仲間と裁判でたたかうことを決めました。

 この長い長いたたかいには常に不安が頭にありましが、勝利和解を勝ち取ることができました。私は嬉しいという気持ちと、ほっとした気持ちと、職場に戻れなかったという悔しい気持ちが沸いてきました。しかし、裁判をここまで続けられたのは原告の仲間や組合の皆様、そして私達を支援していただいた沢山の皆さま方のおかげだと思っております

 

■原告から喜びの声②

 裁判は初めてのことなので、最初の頃は何をすれば良いのか解らず、毎日が不安とプレッシャーのたたかいが続きました。このままでは、精神的に持たないと思い、裁判のことや法律のことを少しずつ勉強しました。とにかく、裁判に勝つために、自分に何ができるのか?自分は何をすべきかを考えるようになりました。そして、支援のお願いに、いろいろな場所へ参加させていただきました。 

 皆様が暖かく迎え入れてくださり、更に心強く後押しをしていただいたことを、一生忘れません。皆様の支えが私の不安とプレッシャーを跳ね除けてくれました。ありがとうございました。

 

【声明文】一審原告ら6名 JMITU通信産業本部岐阜支部 NTTリストラ岐阜県弁護団(2018 年9 月11 日) 1008.pdf (tcwu.org)

 

 

 

( 月刊全労連2018年3月号掲載 )

 

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【大阪】民間委託され、どんどん職員が雇止めされていく「学童保育」の現状を変えるために。自治労連 守口市学童保育指導員労組 #労働組合ができること

子どもたちのところに戻して!労働者の権利とよりよい学童保育を守るために

自治労連 守口市学童保育指導員労組 

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解雇撤回を求める指導員労組のみなさん

 

 全国で130万人以上の子どもたちが放課後を過ごす学童保育(放課後児童クラブ)。施設数の増加で、指定管理などの民間委託が進んでいる。大阪府守口市では2019年4月に学童保育が民間委託された。自治労連守口市職労の仲間は、委託先の共立メンテナンス団体交渉を申し入れたが一貫して拒否。昨年3月末に13人の指導員を雇い止めした。解雇撤回を求めてたたかう守口学童保育指導員労組の水野直美委員長、中尾光恵書記長に聞いた。

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中労委前で訴える水野委員長(右)と中尾書記長(左)

 

《声を上げた組合員を不当解雇に!!》

 

 大阪市に隣接する人口14万人余りの守口市には、14の小学校に21の児童クラブがある。公設公営長年運営されてきたこれらの児童クラブが、2019年4月から民間委託され、共立メンテナンス一括して受託。移行時に希望する職員は同社の契約社員となり、引き続き指導員として働いてきた。しかし同社は労働組合の団体交渉申し入れを拒否。新型コロナの感染拡大の一斉休校で、全国の学童保育で午前からの開所が迫られるさなかの20年4月に同労組員13人を雇い止めにした。

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共立メンテナンスに解雇撤回を求める要請する要請団(20年12月)

 

 雇い止めされた中尾書記長は「コロナ禍で大変な時になぜ解雇か。子どもたちの安全が心配」と憤る。団交拒否について大阪府労働委員会は19年4月に共立メンテナンスに対し「団体交渉申し入れに応じなければならない」とする救済命令をだした。命令の中では組合敵視の姿勢があることも認定。その後、中労委は即日結審し、現在命令を待っている。不当解雇については大阪地裁に解雇撤回を申し立て、裁判中だ。

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中労委に要請署名を提出(20年11月)

 

《民間委託で保育内容が変わり、保護者とも分断》

 

 中尾書記長は、「民間委託され今まで普通にできたことができなくなった」と言う。子どもたちと一緒に長期休業中に行ってきた手作りクッキングも回数を制限された。おやつは包丁を使っての準備が禁止され、果物の皮をむいて出すこともできなくなった。

 守口市では保護者会が活発で、子どもを真ん中に楽しい学童保育を保護者、指導員が作り上げてきた歴史がある。各クラブでの行事に加え、1000人以上が参加する全市的な運動会やお祭りも開催してきた。委託後は子どもたちのための自主的な行事も規制され、保護者との接触も制限。お祭りが15時までなのに、職員は13時半で勤務終了とし帰宅させ、子どもの安全も考えない会社。

 

《「ただいま」「おかえり」の声が響く、安心できる場に》

 

 保護者の運動が行政を動かしてスタートした学童保育は、今では子どもたちの放課後の居場所として欠かせない存在になっている。学童保育は1997年に法制化され、児童福祉法に根拠をもつ公的な事業となり、2015年には、省令が定められ指導員の資格と配置基準が「従うべき基準」として、面積や子ども集団の規模が「参酌すべき基準」として定められたが、その後「従うべき基準」から参酌化され、自治体独自の基準設定も可能になった。

 水野委員長は「学校と自宅の中間にある学童保育で、子どもたちはいろんな姿を見せてくれる」と言う。どの子も楽しく、安心して過ごせる居場所であるために、頭ごなしに決めつけず子どものしんどさ、背景に寄り添い、自分も指導員として成長してきたと語る。中尾書記長も「場所だけでなく、指導員と友達がいてこその学童保育」と話す。

 

《保護者と指導員が作り上げる学童保育は「宝」》

 

 全国的に民間企業運営前年比144%と大幅増となった(全国学童保育連絡協議会調査。2020年5月1日現在)。利益を上げるために委託費から人件費保育予算を削られ、保育の水準と指導員の労働条件の低下につながる。

 子どもの生活や育つ環境が厳しくなっている中で、子どもが安全に安心して生活でき、子どもの成長・発達を支え、励まし、保護者と連携しながら子育てをする学童保育は、公的な事業として社会的に求められている。

 学童保育の運営形態は自治台ごとに様々だが、労働組合で声を上げる例が増えている。共立メンテナンスによる守口市の学童指導員の不当解雇を撤回させ、指導員が安心して保育に専念できる労働条件、保育条件の確立をめざして支援と運動を広げよう。

 

 

主体性と責任を持った事業展開を 全国学童保育連絡協議会 佐藤 愛子事務局次長

 

 「子どもが好きなら」「子育て経験があれば」、それで十分という認識で指導員を雇用してきた自治体では、国の「新制度」施行後の変化に対応できず、指導員不足が慢性化しても、「自治体内のほかの非正規職員との均衡を考えると学童保育指導員のみの処遇改善はむずかしい」ことを理由に、非正規雇用のまま給与を抑えてきました。また、今年度四月から会計年度任用職員制度への移行に伴い、事業経費を低く抑えるため民間への委託が増えました。実施主体である市町村が学童保育をよりよくしていくために主体性と責任を持って事業を展開することが求められています。

 

この記事中の学童保育で働く職員のみなさんを応援してもいいよという方は、こちらのfacebookにいいね!をしてあげてください(20+) 守口市学童保育 原告団にっき | Facebook

 

( 全労連新聞 2021年1月15日 第534号掲載 )

 

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【解説】経団連や政府が「副業」や「フリーランス」などの「新しい働き方」をめちゃくちゃおススメしてくるのはなぜか?それにはちゃんと理由があります。全労連雇用労働法制局長 伊藤 圭一

政府・財界推しの「新しい働き方」にひそむワナ 

全労連雇用労働法制局長 伊藤 圭一

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 「ウィズ・コロナ、ポスト・コロナ時代の『新しい働き方』」というフレーズは、政府の成長戦略や経済界の提言にとどまらず、SNSソーシャル・ネットワーキング・サービス)上でもよく目にする。テレワーク副業・兼業フリーランスといった働き方を選択することによって、「多様で柔軟な働き方」が可能となり、労働者の企業定着率も高まる、と宣伝されている。

 

 長く普及しなかったテレワークは、コロナ禍で一気に広がりi)副業・兼業を認める企業も、現在の2割程度から増えつつあるといわれている。自営業者数は減少傾向にあるが、副業としてウーバーイーツのようなフリーランス業の労働者も目立つようになってきた。

 

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『雇用関係によらない働き方』に関する研究会報告書より引用 https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/data/pdf/20170330001-2.pdf

 

 「多様で柔軟な働き方」と聞くと、これまでの「画一的で硬直的な働き方」よりも働きやすくなるのでは?と、好印象をもつ人も多いだろう。あるいは、自らは選択しなくとも、やりたい人はやればいい、と考える人もいるかもしれない。

 しかし、私たちは、キーワードがまとうイメージに惑わされることなく、その影響を過小評価することもなく、日本経団連ii)はじめ、先駆的な経営者たちが実際に何を考え、やろうとしているのかをつかむ必要がある。日本経団連は広報にとどまらず、「新しい働き方」を阻害する労働法や社内のルール、慣行を洗い出し、企業や政府に対する働きかけを活発に行っており、政府はその要請にそった作業を粛々とこなしている。

 

 結論を先取りしていえば、「新しい働き方」には働き方を改悪するワナが仕掛けられており、無警戒でいるのは危険である。それを労働者に知らせ、職場での防御や法制度の改悪を防ぐたたかいを急いで広げたい。

 

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日本経団連「。新成長戦略」

 

《「柔軟な働き方」とは?》

 

 日本経団連の定義によれば、「柔軟な働き方」とは「時間・空間にとらわれない働き方」のことを指す。テレワークによって、特定のオフィスや工場、店舗、現場等でなく、自宅やサテライト・オフィス、カフェ、電車のなかで仕事ができるようになることを、「空間にとらわれない働き方」という。テレワークに馴染まない業務があることは、日本経団連も認めているが、現業系や対人業務系の仕事でも、無理と決めつけず、遠隔操作・遠隔監視技術、リモート商談、モバイルオーダーやキャッシュレス決済といった技術を試みるべきと提案している。一方、「時間の制約」とは、労働基準法をふまえて定められた事業場の所定労働時間や始業・終業時間、時間外・休日労働にかかわる労使協定(36協定)などを指す。「新しい働き方」では、空間的に会社から離れると同時に、労働時間の管理も労働者自らが行うようになり、どこで、どれだけの時間働いたかといったことにはとらわれず、生み出す価値によって評価され、処遇されるようになる、とされる。働くことにおける時間・空間の制約からの自由の発展として、ひとつの企業に縛られることなく、副業・兼業、自営で働くことも奨励されている。

 

《「多様な働き方」とは?》

 

 「多様な働き方」は、「複線的なキャリア形成」と言い換えられている。すでに非正規雇用は4割まで広がり、多様な雇用形態は定着しているが、最近言われ始めているのは、正社員層の多様化・分解である。新卒一括採用、長期雇用慣行、年功序列、多様な職務を経験させる「総合職」を特徴とする「メンバーシップ型」雇用を減らし、「特定の仕事・職務、役割・ポスト」を限定し、適合する人材を中途採用していく「ジョブ型雇用」を増やし、組み合わせていくことが提唱されている。中途採用の増加に反対する労働者はいないと思うが、この施策のコインの裏面には「解雇自由」の促進がある。中途採用の対象となるスキルのある労働者が、求職者として労働市場に存在するためには、「人材流動化」を進める必要があるというわけである。

 

 またその際、求職者が新しい仕事に適合するスキルをもっていなくては話にならないが、「メンバーシップ型」のように企業内で育成するわけではないので、労働者には自己啓発スキルアップキャリア形成や「学びなおし」が求められる。ひとつの企業で通用する固有の技術・技能や知識を深めるだけでなく、様々な企業で就労・就業して経験をつむ(副業・兼業)ことや、リカレント教育を受けることが、「新しい働き方」を実践する労働者の常識とされる。さらに、個々の労働者の学習履歴・職歴・資格等の個人データは、企業が活用できるプラットフォームに整備され、「学びと経験の見える化」がなされることで、人材の円滑な異動が可能になるというのである。

 

働き方改革フェーズⅡ》

 

 要するに、政府と財界がひろげようとしている「多様で柔軟な働き方」とは、労働者にとって働きやすい、生活しやすい状況をつくることを直接の目的とはしておらず、使用者にとって都合のよい働かせ方の選択肢を増やすことが目標とされている。労働時間の把握管理はせず、労働時間管理の責任も労働者に負わせることで、コスト(割増賃金や法定福利費用等)をかけずに、目標達成まで働かせ、必要がなくなれば簡単に解雇もしくは契約解除ができるようにしたいということである。そのため、日本経団連は、労働時間法制や指針、法令解釈を見直し、抜け穴を拡大し、解雇規制を骨抜きにする制度づくりの要求を政府にあげており、政府は粛々とその声に従っている。

 

 こうした「新しい働き方」を進めつつある今の局面を、日本経団連は「働き方改革フェーズⅡ」と呼んでいる。安倍政権時代の働き方改革フェーズⅠ(2018年法改正)では、選挙での労働者の支持獲得のため、まがりなりにも長時間労働の是正、年次有給休暇の取得促進、同一労働同一賃金といった、労働者保護に資する目標が掲げられていた。これに対し、フェーズⅡの目標は「労働者のエンゲージメントの向上により、アウトプットを最大化すること」とされる。エンゲージメントとは、「会社や仕事に主体的に貢献する意欲や姿勢」を意味する。つまり、「時間・空間にとらわれない働き方」をするようになった労働者が、主体的会社や仕事に貢献し、成果・付加価値(アウトプット)を最大化させることが目標というわけである。まさに、経営者のための「働かせ方改革」といえるのではないか。

 

《「働きがい」「働きやすさ」は実現する?》

 

 では、どうやって主体的な働き(エンゲージメント)の向上を実現させようというのか。以前であれば、会社への高い忠誠心・一体感にもとづく長時間・過密労働だったかもしれないが、働き方改革フェーズⅡでは、「働きがい」と「働きやすさ」が重要とされている点に特徴がある。

 

 まず、「働きがい」を高める施策としてあげられているのは

 

  1. 企業理念・事業目的の共有
  2. 自律的・主体的な業務遂行
  3. 自律的なキャリア形成(その支援)
  4. 公正な人事・賃金制度
  5. メンバーシップ型とジョブ型雇用の最適な組み合わせ(自社型雇用システム)

 

である。

 

 そして「働きやすさ」を高める施策としては

 

  1. 場所・時間にとらわれない働き方(テレワーク、フレックスタイム、裁量労働制等)
  2. 外国人、障がい者LGBT等の多様な人材(ダイバーシティ)とその包含(インクルージョン
  3. 安全・安心、健康の確保
  4. 育児・介護・病気治療と仕事の両立支援
  5. AIやロボティクスなどデジタル技術の活用

 

が、あげられている。

 

 「働きがい」と「働きやすさ」を高めるならば、悪い話ではない。しかし上記の施策で、本当に「働きがい」「働きやすさ」が実現できるかといえば、疑問がわく。特に施策において、「自律」が強調されている点に注意しなければならない。事細かに管理者に指示されて受動的に働くより、働き方や業務遂行の方法を自己決定して目標を達成する方が「働きがい」は得られやすく、働く場所や時間が自由であるほうが「働きやすい」こともあるだろう。しかし、後で見るように、日本経団連のいう「自律した働き方」とは、端的に言えば、労働者保護法制に頼らず、会社・使用者に雇用や労働時間の管理責任を問わない働き方である。自宅で労働時間規制を気にせず働くことができるからといって、労使の力関係の差は変わるわけではなく、むしろ、納期内での目標達成を、労働時間規制の制約なしに求められ、労働者はより過酷な状況に陥る可能性が高い。その際の長時間労働自己責任とされてしまう(みなされた所定労働時間内に業務遂行できないのは労働者の能力の問題等とされる)。

 

 結局、日本経団連の描く「新しい働き方」を突き詰めると、以下のようになる。使用者は働き手に対し、目標・納期の共有と、達成した場合の一定の報酬支払いを約束し、目標達成の方法(働き方)は働き手に任せるが、安全と健康の確保、業務遂行にかかる経費は働き手の自己責任・負担とする。これは、労働契約ではなく、請負・業務委託契約で働け、というのに等しい。今回の特集のテーマである「雇用類似の働き方」の中に本稿を置いたのも、「新しい働き方」という切り込み方で、フリーランスを典型労働としかねない経済団体の要求だからである。

 「新しい働き方」の仕掛けに、私たちは敏感である必要がある。以下、施策のいくつかをとりあげ、問題点をみていこう。

 

《テレワークで自律的働き方?~労働時間規制の緩和のワナ》

 

 テレワークは感染防止や通勤時間の解消に役立つことから、労働者の中にも一定の支持がある労働組合としては、一般的な8時間労働規制のもと、客観的方法による労働時間の把握・記録を徹底させ、私生活と仕事との境界を曖昧にしないことや、自宅を就労場所とする経費の使用者負担、プライバシー保護、監視の禁止などの運用ルールを協約化して守らせれば、これを必要とする労働者に対して、一定の「働きやすさ」を保障する施策にもなりえよう。

 

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総務省ホームページより https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/telework/

 

 しかし、経済界がテレワークに求めているのは、労働時間規制を骨抜きにすることである。例えば、「みなし労働時間制」の採用。みなし労働時間制とは、あらかじめ一定時間を働いたものとみなし、実労働時間による管理をせず、未払い残業を多発させる制度である。そのうち「裁量労働制」は、対象業務が限定的で導入手続きもそれなりに厳格なので、違法な導入については行政指導を行いやすい。そこで日本経団連は、その要件緩和・対象業務拡大を求めているが、最近はより手っ取り早く使えそうな「事業場外みなし労働時間制」を普及させようとしている。本来、事業場外みなし労働時間制は、携帯電話のない時代の外回りの営業職のように「労働時間を算定し難いとき」に適用されるもので、テレワークのように端末の回線が常時接続され、メールも携帯電話も使えて上司との連絡も労働時間の算定も容易なケースでは制度の適用は不可能である。しかし、日本経団連テレワーク・ガイドライン改悪iii)して要件を見直すことによって、活用できるようにしようと画策している。

 

 同時に、テレワークでは、事業場での働き方以上に長時間労働となる傾向があることがわかっており、厚生労働省は「テレワークを行う際の時間外・休日・深夜労働の原則禁止」をガイドラインに掲載しているが、これについても、経団連は修正を求めている

 

 さらに、1月に発表した「経営労働政策特別委員会報告」では、「新しい労働時間法制」の採用も求め出した。一定の健康確保を措置し、業務遂行の手段・方法を労働者本人に委ねることを要件として、「働く場所・時間帯をすべて本人に委ねる労働時間法制を実現すべきだというのである。健康確保措置としてあげられているのは、四半期ごとの医師の面接指導、複数月で長時間労働になった場合の除外、労使委員会による就労状況のデータでの確認と改善の審議、健康や仕事の成果についての相談窓口の設置などで、それらを満たした場合、「時間外労働に対する割増賃金支払い義務が免除される法的効果を付与する」べきだという。「高度プロフェッショナル制度」とは異なり、対象者の年収要件などなく、「すべての働き手が適用対象となりうる」というから、その影響は甚大である。採用時に、この制度に合意する人だけ労働契約を結ぶというやり方で、労働者に労働時間規制の適用除外を無理強いすることも可能である。

 日本経団連のいう「働きやすさ」を高める措置には、長時間労働未払い残業の合法化健康破壊につながるネタが大量に仕込まれているのである。

 

《ジョブ型雇用~解雇しやすい雇用創出のワナ》

 

 次に「ジョブ型雇用」についてみておこう。職務を明確にするため、職務分析によって、仕事の内容を具体的に明確にして労働契約を結ぶこと自体は問題はないが、既にふれたように、「ジョブ型雇用」に経済界がこめた狙いについては、注意すべき点が多々ある。

 

 ひとつは、ジョブ型雇用とは別の話であるはずの成果型賃金による処遇の個別化、労働組合の交渉による集団的賃金決定からの分離が目論まれていることである。ジョブ型で職務が明確であるなら、賃金決定もわかりやすい職務給とされるイメージがあるが、職務や役割の重要度・難易度に対して、単一の賃金水準が設定されるシングル・レートの職務給を採用する企業は、正規雇用の場合、あまり存在しない。多くの企業は、従事する職務に関する目標の達成度や業務の成果にもとづいて、昇給のみならず降給も行う範囲給(レンジ・レートの広い給与)を採用している。この人事評価には、会社の一方的な判断が入りやすくiv)、努力して成果をあげても、総額人件費が固定されているから、昇給しないこともある。また、労働組合活動を嫌悪した嫌がらせの降給なども、人事評価のフィルターで隠されることで証明しにくく、組合活動の妨害にもつかわれる。

 

 もうひとつの問題は、すでに指摘した解雇の容易化である。現在の労働法制・判例法理では、事業所や部門が閉鎖され、採用された職務(ジョブ)の仕事がなくなったとしても、会社は解雇を回避し、他の職務や事業所での雇用に努力をつくすことが求められている。日本経団連は、この法理を崩すため、職務や事業所を限定した労働契約を結び、その条件がなくなった場合の解雇は合法と主張し、リストラしやすい労働者を増やそうと考えている。

 

 この動きと連動して、成立が狙われているのが、「無効な解雇を金銭で有効にする制度」である。司法判断で解雇が無効とされ、地位確認が認められるケースであっても、一定の「労働契約解消金」を支払えば解雇が成立するという制度で、解消金の金額は予め見込める水準が明示されるため、使用者はいくら金を準備しておけば、ロックアウト解雇のような違法解雇ができるかを予見できるようになる。いわば、解雇自由法制の成立であり、これによって一定の職歴のある人材が労働市場にあふれ、中途採用も活発化、人材ビジネスの市場も拡大するというわけである。

 

《副業・兼業 ~雇用責任の軽減と長時間労働のワナ》

 

 コロナ禍による残業の減少や休業手当による賃金減額によって、労働者の収入は減っており、労働組合のある職場でも、組合員の間から、副業・兼業を求める声があがる事態となっている。非正規で働く労働者の間では、すでにダブルワークは珍しくないこともあり、若手を中心に副業をはじめる人も現れている。労働組合としては、本業における賃上げ闘争への結集を訴えると同時に、副業の危険性(長時間労働による健康障害、労災の多発等)も伝え、団結を強めるべき場面である。

 

 一方、政府は副業・兼業の普及促進に向け着々と作業を進めている。2018年1月には、厚生労働省はモデル就業規則から「副業・兼業禁止規定」を削除し、副業・兼業を認める内容に書き換えた。この頃、日本経団連は副業・兼業の解禁に消極的であり、変化を主導したのは人材ビジネス業者であったが、その後、日本経団連も姿勢を転換、2020年9月には「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が改訂された。その際、使用者側からは「労働時間の通算制度」(労働基準法第38条。複数の会社との契約で働く労働者の労働時間を通算)の廃止要求があがっており、法改悪のおそれもあったが、結果的にはそこまでには至らなかった。ただし、労働時間を通算する義務を使用者に課す要件として「労働者の(事前の)自己申告制」が明記され、事後の行政による指導監督が、労働者の未申告を理由として及ばなくなるような手が打たれた。また、簡便な労働時間管理の方法(管理モデル)を策定、副業先との合意であらかじめ時間外労働を措定し「固定残業代」を払う方法も創設(みなし時間を超えた場合は割増賃金支払いは必要)、副業解禁への後押しを強めた。

 

 さらに注目すべき副業・兼業ガイドラインの変質は、「労働者の権利としての副業」で普及を正当化しているのに、「使用者の指示による副業」を想定し、その場合は「健康確保措置を実施することが適当」等としたことである(従来のガイドラインでは「使用者が推奨している場合」とされていた)。使用者の指示による副業とはどういうことか。自らの雇用する労働者を他の企業で働かせるのは、派遣事業許可を得ていなければ、職業安定法違反であるが、厚生労働省ガイドライン検討の審議会ではこうした法的視点での問題の検討をせず、10月時点では見解を求めても答弁不能であった(その後、出向の一形態として処理しようとしているらしい)。その法的問題は別途追及するとして、ここでは、使用者が副業について、使用者責任を免れながらも使用者の指示により、他社での多様な業務をさせるために悪用することすら想定しているという点をおさえておきたい。

 

 加えていうなら、現在、副業・兼業を認めている企業の多くが、「雇用でない副業に限り許可する」との就業規則をもっている。請負・業務委託の副業ならば、労働時間通算制度による割増賃金支払い義務を負わずに、他社での就業が可能であるという点が意識されているのである。副業・兼業が、使用者主導での労働者のフリーランス化推進策の一環であることの証左といえよう。

 

《雇用類似就業者の要求と労働組合

 

 「新しい働き方」にこめられた経済界の狙いをみてきた。それは多様な回路を通じて、労働者を労働者保護法制から切り離し、フリーランス化させていくことである。あらためて、「働きがい」「働きやすさ」を実現するといわれるテレワーク、副業・兼業、ジョブ型雇用などの施策や人事管理制度が、実際には、真逆の効果を生むものであることを共有しておきたい。全労連は、現在進められている施策のうち、法制度改悪にかかわる課題については、その阻止と法制度改善に向けて積極的に運動をしていく。一方、職場段階での導入・運用がなされる場合は、職場単位の労働組合において、制度がもたらす影響を、労働者の間で十分に話し合い、働き方の改悪をもたらさないような規制をかける取り組みを求めたい。

 

 そのうえで、本誌の特集に寄せていえば、すでに、全労連加盟の各労働組合においても、雇用類似で働く組合員が多数おり、労働者保護を受けない不利な立場でありながら、労働組合の交渉力を発揮し、労働条件改善のために奮闘されていることを指摘しておきたい。そのなかには、労基法上の労働者とみなすべきケースもあれば、個人事業主とみなすべきケースもある。要求としても、労働者性に基づく賃上げ等とされる場合もあれば、委託契約における報酬の改善と表現される場合もあるが、事業者性が高いケースであっても、契約相手(使用者)との関係では労働法の保護がないぶん、より過酷な条件で働かされることも多い。報酬単価の引き上げ、自己負担とされる経費の軽減、仕事の配分の公平など、労働組合の交渉で要求を前進させているが、契約解除や業務の割り振りの変更などで労働組合に攻撃を仕掛けることも多く、雇用労働者よりもはるかに厳しいたたかいを強いられている。

 

 あらためて労働契約・労働法の大切さをかみしめるとともに、労働者と同じ業務を、はるかに不利な条件で請け負うことの多いフリーランスの待遇改善にむけた支援・協力、組織拡大などを意識的に行うことを呼びかけたい。最低賃金規制のない報酬で働くフリーランスが広がれば、雇用労働者の労働条件も当然、引き下げられる雇用労働者とフリーランスは、いわば同じ船に乗るものとして、共闘して、賃上げ闘争と単価引き上げ闘争にのぞむのだ、という姿勢でコロナ禍のなかの21春闘をたたかいたい。

 

(注)

i)テレワークが政策に盛り込まれたのは平成12年「IT基本戦略」や13年「e-japan戦略」に遡る。当時は交通量抑制等による環境負荷軽減措置とされていた。それが平成14年「e-Japan重点計画-2002」から「雇用形態の多様化」の手段とされ、平成15年e-Japan戦略IIで企業内制度の整備や労働法制の規制見直し、公務員への推進が掲げられるようになった。コロナ禍の20年春に休業の代替措置として急増、その後、適用対象者数は減少したが、恒常化させる企業も出てきている。

ii)日本経団連「。新成長戦略」2020年11月17日、「経営労働政策特別委員会報告」2021年1月19日による。

iii)厚生労働省「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」2018年2月では、①情報通信機器が使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと、②随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないことの両方を満たせば、テレワークにおける事業場外みなし制の適用が可能としているが、このガイドラインも、既に緩められたものとなっている。

iv)最近の目標管理制度は、2000年初頭に流行った成果主義におけるものとは異なり、労働者が目標を設定するのでなく、役割や職務に応じた目標が会社から提示され、その達成度を評価するものとなっている。労働者による目標のコントロールを許さないためである。

 

( 月刊全労連2021年4月号掲載 ) 

 

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