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【岩手】#労働組合ができること 中小企業の社長が労働組合に加入? 一体なぜそんなことに?! 労働相談からはじまったストーリー いわて労連議長 金野 耕治

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《なぜ中小企業の社長が労働組合に?》

 

5月26日、いわて労連に一本の電話。とある下請け会社(A社)の社長からで「元請け(B社)に乗っ取られそうだ。従業員を守りたいので労働組合を作りたい」という内容だった。翌日、A社を訪問して事情を伺うと、B社が直結の子会社(C社)を設立して、A社など下請け3社を吸収しようとしているとのこと。6月1日から採用面接を始めて、7月1日にはC社に採用する計画だ。このA社は、社長は77歳だが、従業員は78歳、72歳、68歳の大ベテランから今年の新規採用まで幅広い。なぜ、70歳過ぎの従業員を雇用しているのかと尋ねると、社長曰く、「うちに定年はない。退職は本人が決めることだ。体力があれば何歳でも雇用する。会社創立時から一緒に働いてきた仲間だ」。まさに経営者魂を見せつけられた。しかし、その会社創立時から一緒に働いてきた仲間は、今回の移籍によって社長共々当然のように除外される人たちだ。

 

 労働組合は、従業員の雇用や労働条件については団体交渉で解決できるが、会社と会社との売買契約に口が挟めるだろうか? 移籍する従業員の本音はどうだろうかと思い、アンケートを取った。A社での継続雇用を望みつつも、失業は避けたいので転籍はやむなし、との声が大半だった。当労連の顧問弁護士S先生は、「正式な事業譲渡なら交渉の余地があるが、ただのつまみ食いなら個別の価格交渉しかできない」とのこと。「よし、ここは一か八かだ!」と、社長にローカルユニオンに入ってもらい、半世紀にわたって営んできたA社を丸ごと買収してもらう代金として1億円、従業員には1人100万円ずつ(退職者には慰労金として、移籍者には支度金として同額を)出すよう要求書を作成した。社長のほか年長者4人にも組合に加入してもらい、要求書をB社本部に郵送すると同時に、B社の盛岡支店長T氏に電話で事前通告。素っ気ない返事のT氏だったが、その後、A社社長の所に押しかけてきた

 

《見事に企業乗っ取りを阻止!》

 

 要求書が相手側に届いて2日後の6月11日、T支店長ら2人が早朝、A社社長を訪ねてきた。手のひらを返したようにニコニコしながら「このまま今の会社を続けてほしい」と伝え、後日、従業員を集めて「計画は白紙に戻すので今まで通りやって頂きたい」と謝罪した。当労連には6月15日、本社社長名で以下の通り文書回答があった。

 

「事業譲渡についてはまだ計画途中で決定しておらず完成していない。今後の趨勢により実現には至らない可能性も多々あるので現段階での交渉になじまない。ご要望に添うことは困難ですので事情斟酌ご理解頂きたい」と。

 

 T支店長に電話確認すると、前回とは打って変わって、平身低頭で「大変ご迷惑をおかけしました。合意に至らなかったので白紙撤回します。他の2社も白紙撤回です。採用内定の取り消しはすでに個人宛に昨日発送しました」とのこと。A社社長は、「B社が完全に手を引くかどうか信用はできないが、今回はいわて労連さんに助けられた」と喜びの声。従業員には、「事業譲渡が白紙撤回され、転籍も取り消しになったので引き続き働いてほしい」と朝礼で伝達した。今度、従業員とローカルユニオンやいわて労連事務局みんなで祝杯を上げる計画になっているので、三密を避けながら、ともに美酒を味わいたい。

 

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(月刊全労連2020年9月号掲載)

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