月刊全労連・全労連新聞 編集部

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【宮城】労働組合がタクシー会社を経営したらどうなる!?運転手の労働条件を改善し、園児の送迎など地域にニーズに応えるタクシー会社が誕生! #労働組合ができること 自交総連・秋保交通労働組合

宮城県〉自交総連・秋保交通労働組合 労組と住民とで共につくる地域交通 

編集者・ライター 池田武士

 

 自交総連は、ハイヤー・タクシー、自動車教習所、観光バス労働者の組合です。業種ごとに政策を掲げ、タクシー分野においては「安心・安全、持続可能な公共交通を担うタクシーをめざして」とする政策を提起して、たたかいの方向を示しています。

 

 宮城県秋保温泉は、JR仙台駅から路線バスで一時間ほど。仙台市太白区秋保町湯元に位置し、鳴子温泉(同県)・飯坂温泉福島県)とともに奥州三名湯の一つに数えられています。その温泉町で、自交総連秋保交通労組の仲間が地元住民とともに「地域交通の拡充新交通システム実現)をめざす活動に取り組んでいます。歴史ある温泉町で「政策」が“きらり”光る取り組みを紹介します。

 

《住民の期待広がる「地域交通」拡充の取り組み》

 

 その推進役を担っているのが「秋保地区の交通を考える会」(2018年1月発足)です。地域住民や地元事業者等を対象に地域交通に関するアンケート調査や報告会等に取り組むなかで、仙台市が進める『みんなでつくろう地域交通スタート支援事業』に認定され、「まちづくり専門家派遣制度」によるアドバイザーを迎え、専門的な助言や技術的な支援が得られるようになりました─と話すのは、発足時から同会役員を務めて来られた青野邦彦さん(秋保交通代表取締役・社長)。

 

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後列中央が青野邦彦さん(「考える会」の役員会にて) 2020年3月

 

 ―弊社では、仙台市教育委員会からの委託事業で6年前から「あきう幼稚園」の園児さんの送迎事業をやっています。卒園する児童の保護者さんから不便なバスでは小学校通学が非常に心配との声が寄せられていました。同時に近くの医院の院長先生からは、高齢者の足がなく、診察を受けた高齢者がバス待ちのため1時間2時間待合室にいなければならない、なんとかならないかとの相談を受けていました。

 

 ―私は地域交通として、特にデマンド型の整備を考えていたのでその案を提示すると、自然に地域交通に関心を持つ有志集まってきました。構成メンバーは、元秋保連合町内会長さん、馬場小学校PTA副会長さん、秋保地域包括支援センター所長さん、職員さんなどです。

 

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秋保の交通について意見交換する地域代表の皆さん

 

《労働者が作った会社にしかできないことをやろう》

 

 青野さんは、自身の秋保交通一般タクシー&観光タクシー【秋保交通】秋保温泉から仙台・宮城の観光スポットへ (akiukotsu.com) )との関わりと合せてタクシーをめぐる問題、タクシーの果たす役割など、想いを込めながら話してくれました。

 

 ―弊社の前身は、自交総連組合員が争議(秋保交通労組のたたかいの経過は末尾参照)をたたかい、勝利した際の解決金・退職金を仲間が持ち寄り設立した会社です。

 

 ―私はその当時、仙都タクシー労組(本社・仙台市宮城野区)の書記長をしていました。その後、同社を退社しましたが、労働組合が立ち上げた会社であることに惹かれ秋保交通に入社しました。そのときの気持ちは、「あまたのタクシー会社が己の利潤追求のみに走り、劣悪な労働条件を労働者に押し付け憚らない現状をなんとかしたい、国と大企業の都合で労働者をさらに劣悪な生活水準に落とし込む体制に一矢報いたい」。言ってみれば「階級的怒り」だったかもしれません。

 

 ―秋保交通初代社長が死去した後、縁があって私が社長就任しました。このとき思っていたのは、「労働者が作った会社にしかできないことをやろう、タクシー業界のイメージを変えよう」でした。

 

 ―まずとりかかったのは、労働を正当に評価するということでした。今でもそうですが、タクシー業ではいったん会社を出ていくと労働時間がいくらあったか、休憩時間をどのくらい取ったか、残業時間がどのくらいあったか、深夜労働の時間はどのくらいだったか等々はつかみづらく、いわゆる「みなし労働」で労働を評価するというのが一般的です。一般的に「賃率」と呼ばれている歩合で、実際の労働とは関係なく、「売上高×賃率」という単純計算で賃金が支払われていました。

 

 ―少し詳しく言うと、仮に賃率53%の歩合給のなかに3%の「残業代」と2%の「深夜割増賃金」、1%の「通勤手当」、ひどいところになると3%くらいの「有給手当」が入っていて有給休暇をとらせないそのうえで労働者は一律同様に働いていると「みなす」というもの。こんなことが許されるのでしょうか。一人ひとりの働き方はそれぞれ違いますし、頑張って働いている労働者はきちんと評価されるべきです。労働の中身を把握するのが困難だから「みなし労働」も仕方ない…。そんなことはありません。時刻をきちんと管理しさえすれば、困難なことは何もありません。

 

 ―弊社では拘束時間、労働時間、休憩時間、深夜割増時間管理、労働の正当な対価として賃金を支給しています。他社では賃率に含まれる通勤費も外に出し、実費で支払っています。子育て世代には、養育手当も支給しています。それでも会社は存在できることを証明し続けています。

 

 ―そんななかで、秋保交通は労働条件のいい会社だと評価が高まってきているのは、私にとってとてもうれしいことです。

 

《タクシーは「ドアtoドア」のサービスが得意な公共交通》

 

 ―ここで少しタクシーをめぐる大きな動きを紹介します。今国会(記事執筆当時)では、道路運送法の改悪が目論まれています。ライドシェア(下表参照)導入の突破口としての位置づけである自家用有償旅客運送法の拡大解釈、改「正」の問題です。ご存知のとおりライドシェアが導入されれば、移動の安全・安心は根本から崩壊します。絶対許してはなりません。

 

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自交総連パンフレット「危険な白タク ライドシェア Q&A」より引用

 

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上記の表と同じパンフレットより引用

 

 ―自家用有償旅客運送が導入された地域は、どういった地域だったでしょうか。鉄道やバス等の公共交通機関が全くなく、タクシー会社もない地域に、やむなく導入されたものです。誤解を恐れずに言えば、タクシー会社すら見捨てた地域ではないかと私は言いたい。

 

 ―私は移動する権利基本的人権の一部を構成していると思っています。だから図体のデカイ公共交通機関たる鉄道やバスに比べ、伸縮自在の面的移動ができ、「ドアtoドア」のサービスが得意なタクシーこそが、こうした交通不便地域で有効に活用されるべきだと考えています。急速な少子高齢化が進行し、運転人口が減少している時代にあって、タクシーの果たすべき役割は、新たな需要とともに高まってきています。

 

 ―もう一つタクシーを取り巻く大きな環境変化があります。IT革命の進行で主に通信情報産業からの業界参入です。「アプリ配車がそれにあたります。ウーバーやディディなどは、日本では一気にライドシェア参入にはいかないとみると、大手タクシー会社と手を結び配車事業切り替えました。そして市場分割をめぐって激しい競争を展開しています。一方、キャッシュレス決済の普及もあり、中小のタクシー事業者の営業利益はIT企業への支払手数料を考えると大きな出費を覚悟しなければなりません。激しい競争のなかで弊社のような零細企業が生き残って行くための基本戦略を考えなければなりません。それは地域におけるタクシーに活躍の場を見出し、他事業者に追従することなく独自の道を歩むこと、新しいIT技術を導入地域に密着した交通を構築することが弊社の生き残る道だと考えています。

 

《新交通、年内にも実証実験住民参加広げて取り組み強化》

 

 ―「会」では、秋保地区の市バスの現状、バス路線から遠隔地に住む方への新しい公共交通機関の提供等が話し合われました。町内1400戸アンケート調査を行い、バスに寄せる住民の意識調査、改善要望、将来の方向などを調査しました。その結果、ダイヤ改善や始発と終着停留所の延長等の要望とともに、新たな公共交通機関の整備が必要な地区があることが明らかになりました。

 

 ―これらの調査結果、住民の要望を仙台市へ伝え、地域交通整備を求めるために、真に地域代表として会の再編をめざしました。新しく秋保旅館組合理事さん、秋保中学校校長先生各町内会長さん、みやぎ商工会秋保支部さんなどに加わっていただき、新しい「秋保地区の交通を考える会」として発足しました。

 

 ―会は現在、地域住民の足確保と同時に秋保地区の観光資源を生かすための観光客の足確保という両面で動いています。地域交通整備が秋保の交通だけにとどまらず、経済、文化、教育、観光に貢献するものとして確信しているからです仙台市との交渉も都市整備局を中心に定期的に行っています。仙台市の新制度『みんなで育てる地域交通乗り乗り事業』(2020年4月より)を使い、年内にも実証実験が行われるところまできました。

 

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 ―私はこれを機に会を辞退しようと思っています。というのも、関係者から実際の運行事業者選定をめぐって「利益誘導とみられるのがイヤだからです。後は相談役くらいはして行きますが。

 

 ―タクシーは、その特性から地域交通の要となりうるし、地域の経済、文化、教育、観光を育てる大切な移動手段であり資源だと思います。その資源を守り育て、新しい技術を添えて次の代に引き渡すことができれば、東北の一地方でタクシーが新しい役割を担っているという証左になるかもしれません。

 

 ―コロナ禍の影響秋保温泉ではホテル旅館の大半が営業を取りやめています。通常の営業も特に夜間の国分町を中心にガタ減りです。4月に入ってからタクシーの売上は対前年比でわずか38%。弊社開業以来最大の危機と捉えています。

 

 ―企業存続のため雇用調整助成金制度を活用するなど対策に取り組んでいるところですが、前年の雇用保険確定額から導き出された平均賃金額の60%から100%の支給額に対する90%の助成ですから、労働者にも事業者にも厳しい内容です。あらかたの事業者では60%の支給率を採用するようですが、弊社では70%で労使協定を結びました。ほんのわずかしか支給できず、申し訳なく思っています。それにつけ、日本という国はどうしてこんなに冷たいのでしょうか。このままでは、一企業がつぶれるのではなく社会全体がつぶれてしまいます。移動を制限するのであれば、それにともなうあらゆる産業に補償をセットで付けるべきです。意地でも存続をはかります

 

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 【別稿】秋保交通労組のたたかいの経過 秋保交通労組の前身は、自交総連宮城地連「秋保温泉タクシー労働組合」です。

 

 小泉政権によるタクシー規制緩和が強行され、仙台市内ではタクシー車両が増大し営業収入の落ち込みが社会問題化しました。当時の経営者(秋保温泉タクシー)は1999年、労使合意していた年末一時金の不支給を掲示したため裁判闘争に発展。地裁・高裁で組合側が勝利し、会社側は最高裁まで上告しましたが却下。その後、5年かけて組合が全面勝利。この間、経営者側は交渉の中で秋保温泉営業所の廃止を通告してきました。

 

 執行部で議論した結果、廃止したら秋保地域の人たちが不便になる、裁判で勝ってもこの経営者の顔を見ながら仕事するのは嫌だ、等の意見が出るなか宮城地連より「組合で経営する自主経営会社の道もあるよ」と提案され、裁判闘争と合せて自主経営会社を立ち上げる準備に掛かりました。

 

 2003年9月、秋保温泉タクシー労組は第37回定期大会で「自主経営会社設立」を決めました。

 

 2004年3月6日、秋保交通社員総会(組合員が会社設立資金を持ち寄り)、3月9日に臨時大会を開き「秋保交通労働組合」に名称変更後、私保交通として営業車の出発式を行ないました。

 

 2004年9月26日、秋保交通労組は第38回定期大会に引続いて、「年末一時金支払請求事件、勝利判報告集会」を開催、現在に至ります。

秋保交通労組 執行委員長 東海林銀次(記)

 

 

 

( 月刊全労連2020年7月号掲載 )

 

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