月刊全労連・全労連新聞 編集部

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【東京】アニメーターの「やりがい搾取」をやめさせるために #労働組合ができること。連続テレビ小説「なつぞら」の頃から続く取り組みとは? 映演労連・東映動画労働組合

「悟空」が元気玉を作る そんなアニメ職場をめざして 

ライター 坂本誠一

 

 今回は、映演労連・全東映労働組合連合・東映動画労働組合(動画労組)を紹介する。動画労組は、東映グループの中で(株)東映アニメーションで働く労働者で組織した労働組合である。

 

 日本の映画興行では、依然としてアニメが堅調な売り上げを維持している。2019年では、年間最大興収を上げた『天気の子』(140億2000万円)を筆頭に、『名探偵コナン 紺青の拳』(93億7000万円)、『劇場版ワンピース STAMPEDE』(55億3000万円)などがヒットを上げた。洋画作品では、『トイ・ストーリー4』(100億8000万円)、『アナと雪の女王2』が120億円を突破し、年間興収ベスト10アニメが5作品を占めた。

 

 日本動画協会が発表した最新の「アニメ産業レポート」では、2018年の売上総額2兆1814億円(前年比100.9%)と、2兆円市場を維持しつつ横ばいながらも6年連続で規模が拡大していると報告している。またアニメ制作会社の収入高(売上高)合計は2131億7300万円となり過去最高を更新したが、2兆円産業と言われながら制作者(制作プロダクション)にはその10分の1しか還元されていない。しかもその多くを東映アニメなど、大手のプロダクションが占めている。

 

 2018年はアニメ製作会社の倒産6社休廃業・解散5社、合計11社となり過去最多となった。19年は拡張するアニメ産業の裏側にある「過酷な労働現場」の報道がメディアやネットでも多く発信された。「アニメ100年」「2兆円産業」という「光」の一方で、月収10万円前後過酷な労働を強いられる「闇の世界」、その多くは雇用契約によらないフリーランサーだが、その実態は、会社に長時間拘束され、明確な業務指示もあり日々締切りに追われる日常となっている。最賃法違反社会保険未加入残業代不払いだけでなく、こうした偽装請負をごまかすために机代やペン代を徴収する悪質なピンハネ行為も横行している。

 

《「やりがい」と長時間労働是正の苦悩》

 

 これまで日本製アニメが海外で競争力を維持できた要因格安の制作費があった。多くの製作スタジオが労働者を偽装請負労基法から逃れることで常識外の低額制作費で成立してきた。また「やりがい搾取」と言われるように、アニメの仕事に就く若者が体を壊してでも安い賃金で働くこともよく耳にする。最低賃金以下の収入の人も頻繁にみられる。「働き方改革」では大手アニメ製作会社を中心に改善対応が迫られ、会社はこれに社外発注を増やすことで対応したため、労基法の適用外となる請負労働者フリー労働者しわ寄せが集中している。

 

 東映アニメは練馬大泉スタジオにアニメ制作としておよそ500人の労働者を抱えている。数年前まで労働者の約半分は本来直接雇用の労働者を委託契約として働かせ(偽装請負)、残りの半分もフリーとはいうものの会社に席を置き、長期間働いているスタッフであった。動画労組は本来のフリーといわれる立場にある人は、その1割にも満たないと捉えている。

 

 東映アニメは18年の労働契約法の改正に先立って、16年にそれまで偽装請負の契約者約250人契約社員に雇用変更し、労基法適用に踏み切った。しかし、長時間労働は以前のまま手を付けず、いくら働いても賃金が変わらない裁量労働制を導入した。36協定(月45時間・特別条項月60時間)も締結したが、当時は月100時間の時間外労働も当たり前の状況であった。しかし、19年4月からの働き方改革による長時間労働規制は、36協定の厳密化と罰則を明確にしたため、締結内容が労使間で効果を発揮することとなった。

 

 会社はこの年の夏に公開される『劇場版ワンピース STAMPEDE』について、「スケジュールが厳しく、36協定の特別条項を上限の月80時間に変更してほしい」と要請してきた。

 動画労組の基本方針は労働者の命と健康を守る立場から「特別条項なし」であったが、アニメ作りに取り組んでいる組合員や現場労働者の声も無視できず、条件付きで月80時間を受け入れ、その経緯を非組合員に説明する会を開いた。

 

《組合結成当時から受け継がれた、労働環境改善と雇用差別反対のたたかい》

 

 動画労組は社員と契約社員、フリー労働者の格差是正を大きな問題として取り組んでいる。契約社員化で基本給が社員に準じる額で設定され、定期昇給の制度も確立したが、昨年の生補金(一時金)は年2回それぞれ、社員「3.2ヵ月+3万円」に対して、契約社員は組合の計算で「平均1.83ヵ月+3万円」大幅な格差が残っている。

 

 また家族手当の支給対象を「年収700万円未満」と制限を設けており、組合員を狙ったともいえる不当な制度も焦点となっている(家族手当は労基法適用後2年遅れて導入)。正社員は30歳代前半でほぼ全員が課長に昇進し、各種手当がなくなるとともに、これを上回る課長手当に変更になる。しかし契約社員は、40歳代後半になるころ、子どもが高校、大学に進学する一番資金が必要な時期に手当が打ち切られる。会社は「これからは正社員も課長に昇進させない者もいる」と発言しているが、現状、例外的な場合を除き該当者がいない。多くの子どもたちに夢を与えるアニメを作っていながら、従業員を差別し子育て支援もないがしろにする制度が継続している。今後、「同一労働・同一賃金」も法制化された中でのたたかいが重要である。

 

 動画労組は、毎年ストライキを背景とした春闘を展開している。2019年は、新大泉スタジオのガラス張りエレベーターに「ダイオウイカイワシの群れ」に「フリーの単価を大幅UP!」とロゴを入れたステッカーを1階から4階まで貼り付ける大規模なもので成功させた。このストライキには、映演労連の役員や東映グループの他単組代表、同じアニメ産業の亜細亜堂労組の委員長、地域の練馬労連からも支援の挨拶を受け、ストライキを大きく成功させた。

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2019年ストライキのステッカー行動

 

 2019年の回答は「2000円(前年同期)のベースアップ(6年連続のベア獲得)」や「家族手当は中学生までの子ども1人当たり2000円」の手当増額であった。さらに「積立年休の10日間拡大で50日間」「契約者共済と社員共済の一体化」の回答があった。

 家族手当について年収700万円制限撤廃・生補金の「〇ヵ月回答」には改善無し、など問題点は残ったが、一方でフリー労働者も支給対象になる特別褒賞金は、決算を反映して年間3回支給され総額63万円(昨年総額59万円)と過去最高となった。

 

 非正規労働者偽装請負の労働者が、春闘を通して最終的に正社員と同程度の定期昇給やベースアップが回答されていることは、日本のアニメ界では異例ともいえる成果であるが、本来、正社員も非正規も生活に必要な賃金は変わらない。

 

 動画労組は過去非正規の労働者社会保険適用交通費の支給共済会の充実退職金制度少しずつ適用させ、その積み重ねが最終的な労基法適用につながった。同時に現在「ドラゴンボール」や「ワンピース」の二次利用(アニメ配信の収益やゲームでのキャラクター使用料)が会社の大きな収入源で純利益100億円を上げるほどになっているが、これらの作品は偽装請負やフリースタッフであった多くの労働者で作られてきた。

 

 長年の会社の雇用政策は、経営状況が悪くなれば、現場の労働者を「フリー化する」という姿勢であった。このため動画労組は、春闘・秋闘では会社の経営状況を聞き出し、雇用を守りながら現場の人材を確保することが恒常的な課題であった。当たり前の言葉になるが、「運動の継続」が労働者の待遇を改善させ、会社の経営を健全化させたといえる。

 

《テレビ小説「なつぞら」の現場でいい作品作りと人間らしい働き方を求めて》

 

 NHKの2019年の連続テレビ小説なつぞらでは、ヒロインの奥原なつが戦争で両親を失いながらも懸命に生き抜き、草創期の日本のアニメの世界に飛び込んでいく姿が共感を呼んだ。この舞台のモデルになったのは東映アニメだ。

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連続テレビ小説 なつぞら (nhk-ep.com) より引用

 

 東映動画労組1961年に結成した。組合ニュース第1号には「私たちの作品に対する愛情と団結の思いを込めた労働組合」と宣言している。

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 結成執行部の1人女性アニメーターイオニアで、「なつぞら」のヒロインとなった奥山玲子さんである。当時は入社時に「結婚して子どもができたら辞めます」と誓約書を書いたとのこと。労組の運動出産退職制度を廃止させ、奥山さんが出産後、仕事を続けた最初の1人となる。

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奥山玲子さん http://www.yk.rim.or.jp/~rst/rabo/okuyama/okuyamareiko.html より引用

 会社は1963年、テレビアニメに参入し、これを機に作品本数や出来高で賃金を払う「契約者」と呼ばれる個人請負の労働者を急増させた。労組は契約者の待遇改善を訴え、それから40年後の2016年に契約者への労基法の完全適用、無期雇用制度を団体交渉で合意した。いい作品作りと人間らしい働き方を求めるたたかいであった。

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なつぞら」の場面でもよく登場した中庭でのストライキの様子

 

《根本的な改善めざし、フリー労働者の組織化を》

 

 現在、会社は史上最高の売上げを続けている。東映アニメが業界に先かげて労働条件の改善を実現できる環境は整っている。

 

 大泉スタジオ内で働く人は約500人、社員>契約社員>フリー労働者と雇用格差が明確に存在している。これに対して組合員は50人弱である。組織の拡大は要求を実現させる上からも避けて通れず第一義的に追求しなければならない課題だ。とくに、フリー労働者、派遣労働者の組織化が重要で、動画労組だけでなく映演労連フリーユニオンなど個人加盟の組合への組織化も含めて進めていく必要がある。

 

 動画労組のたたかいに組合員は、「東映アニメの関連会社から偽装派遣の状態で働いていましたが、動画労組に加入して、2001年に東映アニメの直接雇用が実現しました。組合の執行委員になることをずっと避けてきましたが、会計監査に就任して初めて団体交渉に出ることになりました。それまで組合役員が言っていたことは半信半疑でしたが、会社は私たちの要求に『対応している』と言うだけで、実態は変わらず厳しい労働者の生活まで考えていないことがわかりました。以前の自分が偽装派遣のままだったら、使い捨てにされるだけだったと思います。アニメが好きでこの業界に入ってきましたが、好きなだけではいい作品は作れないこともわかりました。働いている人たちがまとまって、会社と交渉するしかないと思います。同じ偽装派遣で働いていた人やフリー労働者に組合加入を呼びかけて要求を会社にぶつけたいと思っています」と語る。

 

 沼子哲也動画労組副委員長は、「動画労組の人員構成を考えると、3つの問題点があります」という。

 

  1. 組織率が低い
  2. 契約社員のみで正社員・フリー労働者が組織されていない
  3. 高齢化している。

 

「組合として春闘・秋闘の運動を全労働者の労働条件アップに取り組んでいますが、未組織の労働者の要求と一致していないように見られてしまいます。正社員との格差是正が前面に出るため、正社員にとって組合の要求は、『今さら』感があり、フリー労働者については、雇用関係がないということで会社は回答せず春闘で妥結を乗り越えて闘争するまで連帯することができていません。フリー労働者の賃上げ(出来高単価・担当料のアップ)は、効果的な方針が打ち出せないでいます。しかし、アニメ産業の多くの労働者が、いまだに年収100万円程度で生活しており、この部分を改善できなければ、今後アニメの仕事に就きたいという若者もいなくなります。動画労組は過去に何度ともなく、労基署や労働局に会社の実態を相談に行きましたが、『あなた達は労働者ではない』の言葉で門前払いになります。しかし労働組合に加入することで、団体交渉はできます。私たちも組合に入っていながら、春闘回答の対象にならないという経験を数年間過ごしました。でも今の動画労組なら、フリー労働者が組織されれば全力で会社から回答を引き出すことができます。アニメ産業の根本的な改善には、フリー労働者の組織化が必要です。未組織の組合員に『少し自分の仕事を止めて、連帯した運動に時間を割いてほしい』、ドラゴンボールの悟空が元気玉を作るような、そんな思いがずっと続いています」とこれからのたたかいへの熱い決意を語った。

 

( 月刊全労連2018年6月号掲載 )

 

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