月刊全労連・全労連新聞 編集部

主に全労連の月刊誌「月刊全労連」、月刊紙「全労連新聞」の記事を紹介していきます。

退職金未払いのまま逃げることは許さない!10年間粘りに粘って、27人分の退職金をきっちり支払わせました。奈労連・一般労働組合 委員長 井ノ尾寛利 #労働組合ができること 

あきらめずにたたかい争議解決へ! 退職金未払い問題解決まで10年、粘り強く

奈労連・一般労働組合 委員長 井ノ尾寛利

 

 マロン(株)(本社東大阪市・工場は大和郡山市)の退職金未払い問題で、奈労連・一般労組マロン支部が支払いを求め、最終的解決まで10年を超えるたたかいとなった。


会社は稼働しているのに賃金不払い3ヵ月


 そもそもの発端は、賃金の遅配が続く中、「なぜ払わないのか」と1人の従業員が上司に質問したことにより解雇されたことに始まる。会社には組合がなく、奈労連へ相談するしかなかったという。労働組合の全面支援で裁判に勝利解雇を撤回させ、職場復帰となった。しかし、その後も会社の不当な攻撃を受けた他の従業員が自主退職に追い込まれていく中、ついに全従業員の賃金未払いが3ヵ月も続いた。


 組合員は、監督署に未払い賃金で告発、また雇用保険の補償に向けてハローワークや奈良労働局に繰り返し申し入れた。かつては300人以上もの従業員を抱え、海外販売を手掛ける有名デザイナーのカバン用、皮革レザーなど長年にわたり製造をしていた会社であった。


ストライキを構えての抗議の集会や深夜の団体交渉


 この間、会社の従業員食堂で80人がストライキを構えての抗議の集会を行い、年末には本社会議室で組合員が深夜にわたる朝方までの団体交渉にのぞみ、要求額とは程遠かったが、「年越しの一時金」を支払わせることを約束させた。


退職金の未払いは続く


 社長は意に沿わないと会社幹部を入れ替え、会社代理人弁護士の解任を繰り返した。組合員全員が退職し、他社に就職する仲間も出てきた。数年の月日を経てあきらめも生まれていたが、それでも互いに組合員で連絡を取りながら「このまま退職金をあきらめたくない」と決断し提訴。裁判傍聴やメーデーや定期大会など奈労連の企画する集いに参加するなど、粘り強くたたかいぬいた。


27人が最後までたたかいを継続


 今年の7月、ついに本社・不動産の競売を経て、未払い退職金を勝ちとった。争議中に社長の病死もあり、困難を極めた。当初組合に加入しないで1人で裁判をはじめた人もいた。しかし、「1人では相手には勝てない」と組合に合流してきた。担当弁護士の分析と丁寧な説明によるところも大きかった。


 争議解決に至った日の報告会で、それぞれ新職場で仕事をしている組合員と連絡を取り、丁寧につなぐ役割を果たした西村早苗さんは、涙ながらに「解決できて感無量です」と感想を述べた。「こうやって、時々に集まったことが励みになった」と語る組合員もいた。

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報告会の様子

( 月刊全労連2021年12月号掲載 )

 

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【警告】2018年に虚偽データ問題で撤回された「裁量労働制の拡大」が、2022年の通常国会で再度審議されようとしています。そしてそのほかにも…。全労連雇用労働法制局長 伊藤 圭一

ポスト・コロナの労働政策と労働組合の対抗軸
全労連雇用労働法制局長 伊藤 圭一

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 安倍政治の継承を公言し、「自助・共助・公助」、「規制改革に全力」との方針に掲げて登場した菅前政権は1年で退陣を強いられることになった。コロナ対策の拙劣さや弾圧的政治姿勢、利権との癒着、選挙買収事件疑惑、モリカケ疑惑などに批判があがるなか、自民党は「路線転換」をはかり、岸田文雄氏を首相に担いだ。岸田政権は臨時国会衆議院を解散、本稿は21年10月31日の総選挙を目前とした情勢下で書いている。


 選挙結果により、労働政策の方向性には大きな変化が生じうる。とはいえ、経済界の要望を最優先にした労働政策・労働立法は、選挙期間中も止まることなく着々と進められている。労働法制の改悪を阻止し、私たちの要求にそった労働政策を実現するため、留意すべき当面の課題をあげておきたい。


1.フェイズⅡの働き方改革


 昨年に続き、経済界と政府は「フェーズⅡの働き方改革」の推進を掲げている。その労働政策の基本は「多様で柔軟な働き方」の実現(月刊全労連2021年4月号参照)ということだが、当面の具体的な内容は、「骨太方針2021」(6月18日閣議決定)などに明らかにされている。

 

裁量労働制の制度の在り方の見直し

②メンバーシップ型からジョブ型の雇用形態への転換

③兼業・副業の普及

④選択的週休3日制度の普及

フリーランスの普及促進

 

これらの課題と並行して

感染症対策で拡大したテレワークの普及

⑦雇用流動化による産業構造転換の推進、それをサポートするためのマッチング事業と職業訓練リカレント教育の促進

が打ち出されている。

 

(1)裁量労働制、その他の柔軟で自律的な働き方を可能とする労働時間制度
 裁量労働制の適用対象と要件の見直しについては、現在、厚生労働省の「これからの労働時間制度に関する検討会」で審議されており、2022年通常国会に法案が提出される見通しである。2018年の「働き方改革国会」では、法政大学の上西充子教授が「発見」した、裁量労働制の実態に関わる虚偽データ問題裁量労働制のもとで働く労働者の実労働時間が一般的な労働者より短いとされた)により、安倍首相は陳謝の上、企画業務型裁量労働制の対象業務の拡大にかかわる法案部分を撤回する事態に追い込まれた。


 その際の国会答弁や付帯決議を受け、今回は実態調査を設計から丁寧に行い、調査結果をふまえた議論をすることとなった。その際、「一般の労働者よりも、裁量労働制適用労働者の方が長時間労働にみえるのは、裁量労働制の効果ではなく、対象業務が繁忙だからではないか」との発想に基づき、今回の調査対象は、裁量労働制が適用される業務・職種に限定し、制度適用労働者非適用労働者を比較する手法がとられた。


 調査結果をみると、裁量労働制適用労働者の労働時間は、同種の業務に就く非適用労働者より週平均で2時間長く、深夜労働や持ち帰り残業の頻度が高い上、過労死ラインで働く人が14%いることがわかった。また、8割が週40時間を超えて働いているにもかかわらず、残業代見合いの性格が強い「特別手当」が払われていない人が、専門型49%企画型36%もいた。

 

 

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 また、「みなし労働時間」が何時間であるかを認識していない労働者が企画業務型で3割、専門業務型で4割もおり、裁量労働制の基本的な要件が守られていないことや、実労働時間についての労働者の回答が事業所の把握より上回るズレが生じており、健康福祉確保措置の運用に問題が生じている可能性がうかがえた。調査対象は労働基準監督署に労使委員会の議決を提出するなど手続きを守っている「優良事業所」とそこで働く労働者であるが、それでもこの体たらくである。


 また、調査結果によれば、裁量労働制適用の労働者でも、「業務の目的、目標、期限等の基本的事項」や「具体的な仕事の内容・量」は会社・管理監督者が決めており、業務遂行の期間や労働時間の総量に係る裁量は、労働者に与えられていないことがわかった裁量労働制適用労働者にあるのは、せいぜい業務の遂行方法や時間配分に一定の自己決定ができる程度の裁量なのである。他方、裁量労働制でない労働者をみると、使用者に労働時間管理義務を課したもとでも、一定の自己決定権を労働者がもち、働いていることがわかった。そのためか「裁量労働制の対象拡大」を望む声は、労働者のみならず、事業者においても多数とは言い難く、適用拡大や要件緩和の立法根拠は乏しいことが判明した。

 

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 結局、「裁量労働制実態調査」から言えることは、業務の遂行方法や時間配分についての一定の裁量を労働者に付与するために、原則的な労働時間規制の適用を外す必要はないことと、現行の裁量労働制において要件が守られていない事業所が一定割合あり、健康被害が発生している可能性があるため、規制強化が必要ということであった。


 しかし、検討会に集められた学識者の多数は、裁量労働制の拡大に前のめりにみえる。例えば、労働法学者である荒木座長は、「労働時間の長短の議論にとどまらない幅広い視点も必要」と主張して「裁量労働制長時間労働の温床」との批判をかわし、柔軟な働き方を進める意義を議論させようとしている。他の委員も、調査結果から、裁量労働制適用労働者の健康評価が非適用労働者とかわりない点¹や、労働時間は長めでも「裁量のある働き方で仕事の満足度が高い」等と解釈して裁量労働制に好意的であり、適用対象業務の拡大等へと議論が進む雰囲気が濃厚である²


 また、検討会ではまだ議論されていないが、論点には、「その他の柔軟で自律的な働き方を可能とする労働時間制度等」もあげられ、こちらも何が飛び出すか、要注意である。日本経団連は、21年1月に発表した「経営労働政策特別委員会報告」の中で、「新しい労働時間法制」という名称のもと、一定の健康確保を措置し、業務遂行の手段・方法を労働者本人に委ねることを要件として、「働く場所・時間帯をすべて本人に委ねる」労働時間法制を実現すべきと打ち出している。健康確保措置の内容は、四半期ごとの医師の面接指導、複数月で長時間労働になった場合の除外、労使委員会による就労状況のデータでの確認と改善の審議、健康や仕事の成果についての相談窓口の設置などで、それらを満たした場合、「時間外労働に対する割増賃金支払い義務が免除される法的効果を付与する」べきとしている。対象者の勤続年数要件や年収要件はなく、「すべての働き手が適用対象」としている。例えば、採用の場面で、この割増賃金規制適用除外への合意を条件として提示されたら、拒否できない労働者が多数でるだろう。労働時間規制の適用除外制度の導入は阻止する必要がある。


 政府や財界、御用学者がいう「働きやすさ」を高める措置には、長時間労働、未払い残業の合法化、健康破壊、そして家族的責任の発揮を阻害し、ジェンダー平等社会の実現をはばむことにつながるネタが仕込まれている。労働基準法の改悪を許さず、裁量労働制の規制強化と指導の厳格化、11時間以上のインターバル規制の義務化、上限規制の適用を猶予されてきた自動車運転者の改善基準告示の改善、医師に適用される過労死ラインの2倍の上限と高度プロフェッショナル制度の撤回、1日の労働時間規制の強化と、さらには法定労働時間の削減(1日7時間労働制)を実現すべく、運動を強める必要がある。

 

(2)ジョブ型雇用
 「ジョブ型雇用」は、厚生労働省の所管する「多様化する労働契約のルールに関する検討会」において、テーマのひとつとして議論されている。これは「多様な正社員」の雇用形態を指す言葉で、職務限定だけでなく、勤務地限定の雇用を含むとされ、検討会での議論の中心は、勤務地変更(転勤)の有無の問題を軸として行われている。


 一般論として、労働条件において、転勤の有無や転勤の場合の条件の明示を使用者に義務付けることは、使用者に合意内容を遵守させるために役立つといえる。また、職務の明確化は、融通無碍な業務の拡大や応援だし等の指揮命令を防ぎ、労働者の権利を守る側面もある。しかし、経済団体の代表や経営者サイドの法律家は、「正社員層をどのように仕分けて活用していくかは企業の人事権に属する」と主張し、労働基準法上による就業規則への必要記載事項に勤務地限定や職務限定を入れることや、労働条件明示義務の強化には反対している。ここからも、「ジョブ型雇用」において、使用者側が意図しているのが、労働者保護の強化や、労働条件を明示することでトラブルを避けよう等ということではないことがわかる。


 使用者側の狙いは何かといえば、第一に、解雇規制の緩和である。現在であれば、ある事業や部門が閉鎖された場合、会社は解雇を回避し、他の業務や事業所での雇用努力をつくすべきことが判例法理によって求められる。使用者側は、この法理を崩すため、職務や事業所を限定した解雇しやすい労働契約を普及させようとしているわけである。
 狙いの第二は、無期転換した労働者を、職務限定もしくは勤務地限定雇用とすることで、他の正社員との待遇格差を合理化し、均等均衡待遇確保の抜け道をつくることにある。これは、後述する「無期転換ルールの見直し」議論にもかかわるもので、無期転換した労働者の待遇改善をはかるべき、との労働者側の主張を封じる手段としようというものである。


 狙いの第三は、労働法の規制からは外れる話となるが、個別企業内の賃金体系の変更である。勤続や経験によって今なお平均としてみれば右肩上がりをしている正規雇用の賃金カーブを、職務給要素で抑え込み、かつ、職務・業務の達成度合いに関する成果・業績評価の要素を高めて労働者の待遇を個別化し、労働組合の交渉による集団的賃金決定の影響力を排除しようとしている。


 解雇規制緩和と賃金の抑制、待遇格差の拡大の道具立てとしての「ジョブ型雇用」論については、法改正プロセスにおける取り組みに加え、職場における対応の強化が必要である。

 

(3)副業・兼業
 コロナ禍による残業の減少や休業による賃金減額によって、労働組合のある職場でも、労働者の側から副業・兼業を求める声があがっている。若手を中心に副業をはじめるケースも出ており、各労働組合では、副業の危険性(長時間労働による健康障害、労災の多発等)への注意喚起はもとより、本業における仲間との団結強化を呼びかけている状況である。


 この課題については、周知のように、政府は副業・兼業の普及促進に向け、既に多くの手を打ってきている。2018年1月には、厚生労働省は「モデル就業規則」の「副業兼業禁止規定」を削除し、副業・兼業容認の内容に書き換えた。当時はまだ、副業兼業の解禁に消極的であった日本経団連も、人材ビジネスと足並みをそろえて推進に転じている、2020年9月には「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が改訂された。「労働時間の通算制度」(労働基準法第38条。複数の会社との契約で働く労働者の労働時間を通算)は、「労働者の事前自己申告」要件が記され、行政による事後の指導監督が、労働者の未申告を理由として及ばなくなる工夫が施された。また、簡便な労働時間管理の方法(管理モデル)が策定され、副業先との合意であらかじめ時間外労働を措定し「固定残業代」を払う方法が準備された。さらに政府は副業・兼業について「使用者の指示による副業」の場面を「出向の一形態とみて合法とする」と解釈し、職業安定法違反の指摘を回避した(条件は「健康確保措置を実施することが適当」などという弥縫策である)。


 昨今の使用者は、雇用する労働者に対して、他社で働くよう指示を出すことに前向きとなり、政府はそれに追随して制度整備や解釈変更を進めている。また、副業・兼業を認めている企業の多くは、「雇用でない副業に限り許可する」との就業規則をもっていることから、労働者のフリーランス化も進みかねない。少なくとも、早急に副業・兼業ガイドラインを再改定し、使用者発意での副業・兼業の活用は止めなければならない。

 

(4)テレワーク
 テレワークについては、感染防止や通勤時間の解消の視点から、労働者の側にも支持する意見がある。しっかりとした労働組合が会社と協約を結び、一般的な8時間労働規制のもと、客観的方法による労働時間の把握・記録を徹底させ、私生活と仕事との境界を曖昧にしないことや、自宅を就労場所とする経費の使用者負担、プライバシー保護、監視の禁止などの運用ルールを守らせるのであれば、制度を必要とする労働者に対し、一定の「働きやすさ」を保障する施策にもなりうるだろう。


 しかし、経済界がテレワークに求めているのは、オフィス運用コストの労働者への転嫁労働時間規制の有名無実化である。この間、大手企業も続々と都心のオフィスを撤収・縮減し、通勤費用相当のわずかな手当てと引き換えに労働者に経費負担をさせている。一方、労働時間については、「みなし労働時間制」により、割増賃金の支払い義務を免れることや、労働時間の管理責任を労働者に転嫁して過労死などがおきても雇用責任をとらないようにすることが狙われている。ただし、今の裁量労働制には対象業務や手続き要件があるため、上述したとおり、それを崩す法改正を進めつつ、もっと簡単な「事業場外みなし」制度を認めるべきと主張し、21年3月に制定されたテレワーク・ガイドラインに取り入れさせてしまった。


 本来、事業場外みなし制は、携帯電話のない時代の外回りの営業職のように「労働時間を算定し難いとき」に適用されるもので、テレワークのように端末の回線が常時接続され、メールも携帯電話も使える場合は、労使の連絡も労働時間の算定も容易なケースでは制度の適用は不可能なはずである。ところが、厚生労働省は、労働組合や法律家の反対意見を押し切って、経済団体の要望を丸のみしたのである。


 さらに同ガイドラインでは、使用者の労働時間把握義務をも緩和してしまった。「自己申告された労働時間が実際の労働時間と異なることを客観的な事実により使用者が認識していない場合には、申告された労働時間に基づき時間外労働時間の上限規制を遵守し、かつ、同労働時間を基に賃金の支払い等を行っていれば足りる」としたのである。テレワークでは、事業場での働き方以上に長時間労働となる上、未払い残業が横行することがアンケート調査などからわかっている。それにもかかわらず、長時間労働に係る使用者責任を軽減するガイドラインが策定されるとは、今の日本の厚生労働省の任務放棄ぶりには、深刻なものがある。早急にテレワーク・ガイドラインも再改定をはかり、労働時間の原則的な適用と使用者責任の確認をさせなければならない。

 

(5)選択的週休3日制
 選択的週休3日制を導入する企業が出始め、政府は「骨太方針」の中に、その普及方針を取り入れた。これは労働法制として、なにかを変えるものではなく、企業の実践を促す宣言である。導入パターンとしては

 

①所定労働時間を減らし、それに応じて給与を減らすタイプ

②勤務日を減らす代わりに1日の労働時間を延長し、週の総労働時間は同じとするタイプ

③所定労働時間を減らしても給与は変えないタイプ

 

があるとされている。しかし、既に導入している企業の事例をみると、みずほフィナンシャルグループヤフーのような①給与減額タイプか、東芝佐川急便、ユニクロのような②労働時間は減らさず、週休3日制とするタイプが多い。①のタイプの狙いは、いうまでもなくリストラ・人件費削減である。産業構造の変化でリストラを模索していた企業が、コロナ禍を契機として、導入している。②のタイプは、変形労働時間制をとって、1日8時間の労働時間規制(時間外割増賃金支払い)を取り払う契機としている。
 

 発信源である、自民党の1億総活躍推進本部は、その狙いとして、「育児・介護などのワークライフバランスの充実、副業・兼業の推進と副業による中小企業や地方企業、自治体への人材供給・地方創生」をあげている。育児や介護が必要な労働者、副業や自己研鑽をしたい労働者の中には歓迎の声もあるようだ。しかし、既にふれた副業・兼業政策の呼び水であることや、1日単位の労働時間規制(生体リズムの維持)の破壊、リストラの一環、未払い残業や休業手当の支払い義務逃れという企業側の狙いや効果があることを周知し、安易な導入や選択をしないよう、職場での対策に留意し、労働者に注意を呼び掛ける必要がある。

 

 以上、「フェイズⅡの働き方改革」について、政府は「多様で柔軟な働き方を選択でき、安心して働ける環境を整備する」ための政策だと主張している。しかし、現実に先駆的な企業が実践している内容と照らし合わせてみれば、政府の表向きの言い分とは異なり、さらに過酷な「働かせ方改悪」を進めるものであることがわかる。起きているのは、使用者が本来負うべき労働法上の義務を軽減し、使用者の必要に応じて調達でき、いつでも切ることができる低コストで、働かせ放題の労働力を産み出している、という事実である。


 幸い、コロナ禍を契機にして、あらためて、日本の労働者の状態をどうみるべきか、光が当てられている。アベノミクスの恩恵は、労働者に届いたのか?という視点である。周知のとおり、自民・公明長期政権のもとで進められてきた労働政策の結果、日本の労働者の賃金は世界からみて異常な抑制をうけ続け、所得水準はOECD経済協力開発機構)諸国の動向とは逆行し、年々低下してきた。その背景に差別的な待遇で働く非正規雇用を増やし、正社員と同等の業務を担わせるなかで、正社員の賃金も抑制するという経営戦略がある。その結果、コロナ禍による1ヵ月程度の休業で、貧困状態に陥ってしまう溜めのない労働者があふれるように出てきてしまう状況となった。一方、労働者の収奪によって、大企業の内部留保は年々増加し、富裕層は金融資産で潤い、日本社会における格差はより拡大している。


 こうした状況をさらに悪化させる「フェイズⅡの働き方改革」を阻止し、労働者保護法制の拡充と、適用対象の拡大(フリーランス保護)を図る必要がある。


2.労働者保護法制の強化を~俎上に上っている課題


 次年度は、裁量労働制の対象業務の拡大・手続き要件緩和等を内容とする労働基準法の改定や、無期転換ルールの見直し(使用者側は法改正阻止の構え)、解雇の金銭解決制度の導入(労働契約法)などが政府の立法課題とされている。


 他方、労働者の立場で積極的に改正を求める課題として、労働時間規制の強化、シフト制契約労働の規制強化、休業手当に係る法整備、精神疾患に係る労災認定基準の見直し、ハラスメント規制の強化、雇用によらない働き方をめぐる労働者保護法制の適用と強化などがある。


 労働組合は、労働法制の改悪を阻止し、労働者保護を強化するための法改正を実現する立場で、下記の課題にかかわる運動を強める必要がある。

 

(1)無期転換ルールの見直しと「同一労働同一賃金」の法整備
 「労働契約法の一部を改正する法律」(2013年4月1日施行)により、有期労働契約について「無期転換ルール」等が導入されて、8年が経ち、現在、「多様化する労働契約のルールに関する検討会」において制度の適用状況と見直しに関する審議が行われている。


 無期転換ルールは、「有期労働契約の濫用的な利用を抑制し労働者の雇用の安定を図る」趣旨で導入されたが、現実には法の目的は達成されていない。5年を前にした雇止めが横行し不安定雇用が蔓延しているし、無期転換ができた場合でも、賃金・労働条件は従前の有期契約で働いていたころと変わらず、しかもフルタイム労働者が無期転換した場合は、パート有期労働法による均等・均衡待遇規定の適用からもはずれ、待遇格差が放置される問題が起きている。そのため、無期転換の機会があっても、対象者の7割は申請しないのが現実である。


 そもそも有期契約の濫用的利用を抑制する趣旨からすれば、有期契約の繰り返し更新を5年も放置すべきではない。有期契約は、臨時的・一時的業務に就く労働者に限定する「入口規制」を確立し、無期転換ルールの期間も短縮することや、脱法的雇止めの横行に対し有期労働契約の不更新条項の規制をいれること、無期転換後の待遇改善に資する均等均衡待遇規定の適用がなされるよう、労働契約法、労働基準法を改正する必要がある。

 

(2)解雇の金銭解決制度
 解雇権濫用により解雇無効とされた場合でも、金銭を払えば労働契約の解消を認める制度の創設がもくろまれている。厚生労働省は「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」において2018年以来、議論を重ねており、日本経団連からの要求も固まるなか(「2020年版経営労働政策特別委員会報告」)、取りまとめの段階にはいった。政府は「成長戦略フォローアップ」(21年6月18日)において、「労働移動の円滑化」をはかるため、同制度の法技術的論点を2021年度中を目途に取りまとめ、労働政策審議会で審議するとしている。この制度は労働者救済のためだ、などという表現もされるが、政府の政策枠組みで、産業構造転換促進に向けた「労働移動促進のための解雇の金銭解決」とされているように、狙いは明白だ。解雇を簡単に、大量にできるようにしたいということである。


 2022年度中に法案の動きがでるとみて、反対の運動を展開する必要がある。ただし、現在検討中の内容は、無効な解雇の対象となった労働者側に、労働契約解消金の支払いを請求できる権利をあたえ、解消金を受領した場合に雇用関係が解消される仕組みとされている。本当の狙いである「解雇をした使用者側からの申立てによる金銭解決」は先送りされたため、解雇されても泣き寝入りしてきた不安定雇用労働者からは歓迎の声が上がる可能性があるし、政府はそういう宣伝を仕掛けてくる。解消金の相場を予め低めにおいて算定可能とし、解雇権を濫用しても金で解決できる仕組みをつくれば、解雇自由社会をもたらすおそれがあることを、どれだけ労働者の間に広げられるか。解雇自由に反対しつつ、もともと雇用が不安定である非正規で働く労働者の解雇・雇止めに関する救済制度の提案も検討する必要がある。

 

(3)シフト制契約労働の規制強化
 コロナ禍のもと、いわゆる「シフト制契約」で働く労働者に対し、使用者が一方的にシフトをカットすることで休業手当の支払い義務を免れ、形式的には雇用を維持しながら事実上の解雇をするといった手法が横行した。使用者側はシフト制契約について「日々雇用の一種」とみなし、社会保険の未加入が広がっていることも発覚した³労働組合の相談活動から、問題は発覚し、当事者の組織化と告発の運動が実って、政府にも問題意識を植え付け「調査・研究」するとの対応までは引き出したところである。


規制の仕方としては

 

労働基準法15条1項「労働条件明示義務」に「下限労働時間・最低保障労働時間・最低保障賃金」を加え「ゼロ時間契約」を規制すること

②同法施行規則において明示事項化し行政指導を強化すること

労働基準法89条の就業規則の必要記載事項に最低保障労働時間等を追加すること

ハローワークの求人票に①の記載を義務付けること

社会保険逃れの短時間労働の濫用対策として雇用保険加入要件(労働時間)を下げること

EUの「透明で予見可能な労働条件指令」にある過去の労働実績をもとにした「推定」による休業手当の支払い義務を課すこと

 

等、必要な立法措置を研究して政府に提起し、実現させる必要がある。

 

(4)休業手当の在り方の改善 

 休業手当の支払いについては、労働組合の力により、民法第536条第2項にもとづく全額払いを実現できている労使もあるが、労働基準法第26条に基づく6割しか支払わない使用者が多い。この金額はあまりに低く、労働者の生活の支えにならない。コロナ対応の休業支援金・給付金の金額水準を下回る金額となるため、休業手当を受けて後悔したと語る労働者がいるほどであり、改善が必要である。さらに労働基準法第12条では賃金総額を暦日で割って計算している一方で、第26条の休業手当計算の際には実労働日数で支払うとされるため、その時点で賃金は3分の2に減らされ、さらに6割とされることで、支払いは賃金総額の4割未満となってしまう。これには多くの労働者が怒りの声をあげている。労基法第26条の6割以上の規定を8割等に引き上げ、最低賃金を下回ることのないように最低額の基準を設定すること、さらには、同法第12条の平均賃金日額の計算方法と第26条の支払い日数に整合性を持たせるような法改正を行うよう、引き続き、政府に働きかけ、実現させなければならない。


(5)雇用によらない働き方への「保護法制」の整備
 厚生労働省の2017年時点での把握では、店舗等を持たず、従業員を常時雇用しない個人事業主は367万人、うち発注者からの委託を受け、個人で役務を提供し報酬を得る「雇用類似就業者」は228万人とされる。しかし政府はそれをさらに増やそうと、2018年制定の労働施策総合推進法のなかに、請負業務委託による就業も含む「多様な働き方」の普及を国の目標と置いて様々な手を打ってきた。2020年には高年齢者雇用安定法の中に65~70歳の労働者を委託就業へと促す「創業支援措置」を創設し、21年には創業支援による高齢フリーランス、芸能関係者、アニメーター、柔道整復師、ITフリーランス、自転車による運送業務従事者に労災保険の特別加入を認める環境整備もはかった。
 

 フリーランスの取引状況は厳しく、書面の未交付、低額報酬、一方的な仕様変更や期日変更、報酬の支払遅延・減額・未払い等、様々なトラブルに見舞われている。そこで、厚生労働省は、「客観的に労働者性が認められず、自営業者である者のうちでも、労働者と類似する者」(雇用類似就業者)を対象として、「保護ルールの整備」を行おうと、2017年から19年にかけて、有識者の検討会をおこなった。しかし、その検討にはブレーキがかけられたのか、検討会は尻すぼみでおわり、2021年4月に内閣官房が主管となって「フリーランスガイドライン」をまとめた。そこには「雇用類似」概念は採用されず、労働者性が認められないフリーランスの契約上のトラブルは、独占禁止法下請代金支払遅延等防止法等の競争法の適用によって解決するものとされ、労働法による保護は、現行の労働者性判断基準において労働者と認められる場合に限るものとされた。厚生労働省は、労働者保護の範囲は従来どおり狭くとったまま、労働者の「外側」にいる「雇用類似」就業者に一定の保護をかけようと模索したが、その発想は却下され、一部の業種に労災保険の特別加入を認めるにとどめられたようにみえる。
 

 雇用労働者とほぼ同様の業務・職種で働くフリーランスが、なんらの保護法制もかけられず、増えていくことは、労働法に穴をあけることに等しい。そうした問題意識から、全労連は、労働者性概念の見直しにより、フリーランスの相当部分に労働者保護をかけることを求めている。今年は労働者性を認める範囲を広げるための制度改善闘争とあわせ、コロナ禍での苦境をとおして、要求の声をあげはじめたフリーランスに対し労働組合として、権利確保を支援する取り組みを行いたい。

 

(6)化学物質のリスク評価の在り方の見直しへの対応
 化学物質管理について、政府は「自律的管理にまかせる方向」を打ち出している。現在、有害性の高い物質についての対応は、国がリスク評価を行い、特定化学物質障害予防規則、有機溶剤中毒予防規則、鉛中毒予防規則、粉塵障害防止規則等の対象物質に追加し、曝露防止のために講ずべき措置を、国が個別に法令で定めるという仕組みである。この方法では、危険な物質を認定してからの対策で、常に後手に回り、死亡事故を追いかける対応となってしまうため、今後は国が、化学物質についての個人の暴露濃度の管理基準を決め、危険性・有害性に関する情報を伝え、事業者がその情報に基づいてリスクアセスメントを行い、曝露防止のための措置を自ら選択して実行する「自律的な管理」へと見直す方向が打ち出された。しかし、同時に、有機溶剤規則、鉛中毒規則、粉塵等規則などを、5年後に廃止していくと打ち出したのである。現行制度に問題点があるとはいえ、自主管理任せは危険であり、対応策を研究し、政府の方針を変えさせる必要がある。


終わりに


 コロナ禍における雇用不安の広がりと「総選挙」における政策・公約の洗い出しという契機は、多くの労働者に「労働政策」の大切さを意識づけることになった。このチャンスを、私たちは活かさなくてはならない。


 働くものが大切にされるジェンダー平等社会の実現。AIやIT技術を、労働者を支配し収奪する道具ではなく、労働者の生活向上、働きやすさのために使う社会の実現。公務公共サービスはじめ、社会の維持に不可欠なエッセンシャル・ワークに従事する労働者の待遇改善と定員増、採用増を実現する社会。委託・請負が典型労働となる格差と貧困拡大社会ではなく、安定した雇用と「8時間働けばだれもが人間らしくくらせる社会」の実現を求めて、職場や地域での運動を強め、仲間を増やす一方で、法制度要求を掲げて政府に迫りながら、諦めることなく、政権交代による労働者本意の政治の実現を呼びかけ続けようではないか。

 

1 健康状態についての質問は、対象労働者の多くが問題なしと回答している。しかし、職場の現実からいえば、賃金やキャリア、退職勧奨まで連動する人事考課制度が入れられている企業の労働者は健康不安を言い立てないのは常識である。裁量労働制適用労働者においては、実労働時間がいかに長時間であっても、会社には過少申告し、健康福祉確保措置の対象になるのを避けるのが実態である。調査はこうした職場の現実を考慮した設計になっていない。


2 中には労働者保護法制のあるべき視点と実態をふまえた意見も出さている。藤村委員は、①割増賃金支払い逃れのために裁量労働制を導入する使用者がいることや、②使用者の提案に過半数労働組合や労働者の過半数代表は対抗できず、同意要件が機能しない現実があること、③アンケートでも約1割の労働者が裁量労働制の想定から外れた働き方をさせられていることなどを指摘。うまくいっている労使ではなく、問題事例に着目して歯止めをかける議論をすべきと述べている(第1回検討会7月26日)。


3 この契約形態は、通常の業務下では、直前にシフトを組むことで労働者に無給の待機を強制するオンコールワーク問題も発生させており、欧州でも規制が行われている。

 

( 月刊全労連2021年12月号掲載 )

 

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コロナで売り上げが落ちたからといって、一方的に賃金をカットしてもいいのか? 労働組合を作って交渉してみたら…愛媛労連・愛媛一般労働組合四季分会 #労働組合ができること

愛媛労連・愛媛一般労働組合 書記長 今井 正夫


コロナ禍で労働組合を結成した理由


 新型コロナウィルスの影響による業績悪化を理由に、正規職員に対して賃金総額から10%を一律にカット。突然かつ一方的な通告に憤った労働者が、業績不振の穴埋めを労働者に押し付けることは到底承服できないとして、愛媛労連労働相談センターに相談。愛媛一般労働組合に当事者が加入した。


 愛媛県松山市内にある仕出し・弁当・食堂委託などを行っている会社で、歓送迎会やお花見のシーズンとして見込んでいた仕出し部門の売上が、新型コロナウイルスの影響を受けたというのが賃金カットの理由だ。どのくらいの期間行うかも未定ということであった。圧倒的に多いパート従業員に対しても10%カットを行おうとしていたが、最低賃金を割るという理由から正社員のみに行われた。正社員は10数人であったが、少なくても月額2万円、それ以上の賃金カットに従業員からも不満が出ているという。そうであるならば、1人より2人、2人よりは3人!と組合を公然化する前に、職場の同僚にも声をかけてもらう期間を1週間取った。2人が組合への加入を決め、職場に労働組合を結成することとなった。

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団体交渉で労働組合の力が発揮される


 結成した愛媛一般労働組合四季分会は、交渉の準備を行いながらも声かけを続け、役員を除いた正社員の半数が組合に加入した。結成通知書と要求書提出で対応した社長「会社を潰すんか」「誰が加入しているのか」をしきりに気にし、組合結成に嫌悪感を示した。団体交渉では賃金カットの撤回と、不当にカットされた賃金の返還の2つを要求。社長は賃金カットをしなければ、人員の削減もやむを得ないと、営業部門が余剰であると名指しはしないものの、分会長の解雇も辞さない態度を示してきた。労働組合からは手付かずになっている雇調金、また松山市が独自に行うコロナ支援策も提示し、会社に雇用と労働者の生活を守るためにできる方法も提示した。団体交渉で一方的な不利益変更はできないと知った社長は、労働者個別に賃下げを申し出たが、実際に賃下げに応じた従業員はいなかったことから、賃金カットを撤回した。しかし、資金繰りの悪化を理由に、カットされた賃金の返還にはなかなか応じなかった。労働組合の粘り強い交渉の結果、ようやく返還を約束し、年末にカットされていた賃金全額を返還させた
組合の力を感じた


 職場で労働組合の姿をみせたことにより、パート従業員も声掛けに応じ加入。21春闘では「組合とは?」の学習やパート従業員の無期転換や、労働条件通知書の作成など苦労しながらも要求作りを行った。分会を強く大きくするために、引き続き組合員の要求をくみ取りながら、奮闘している。

 

( 月刊全労連2021年10月号掲載 )

 

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【京都】労働組合に加入して交渉したら、一発で賃金カットが撤回された件 京都労働相談センター相談員 森下宇太郎 #職場の悩み全労連が聞きます 

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労働組合に相談して加入・交渉したら、一発で賃金カットが撤回された件 

京都労働相談センター 相談員 森下 宇太郎

 

3月24日(水)・「近所の組合役員から紹介された」と電話相談


 従業員15人のサービス業に、正社員として勤務するAさんからの電話。「近所の組合役員(京都総評参加の公務員労組)に相談したら、相談センターを紹介されたので、電話をしている」、相談内容は「昨日、会社が賃金を下げると一方的に通知してきた。理由は新型コロナの影響で、業績が悪化したと。受けないといけないのか」というものであった。


改悪内容とアドバイス


現行月額24万円の賃金を25%カットして、18万円とする
909円(京都府最低賃金)×8時間×20日=14万5440円+歩合給とする。歩合給の内容は、Aさんの売り上げが月50万円を超えたら、超えた額の50%を積み立てておき、積み立てた金額を半年毎に支給する。①もしくは②のいずれかを選択でき、4月度より実施する。


 これらに対し、正当な理由がなく、本人の同意を得ず賃金を一方的に切り下げることは、違法・無効であることと、解決方法は「組合を結成し交渉する」、「一人でも加入できる組合に加入し、交渉する」、「労働局にあっせん申請」、「切り下げの拒否を会社に伝え、それでも一方的に切り下げてきたら、労働審判でも争える」とアドバイスをし、検討してもらうことになった。同日、「面談での相談をしたい」との電話があり、相談をセットした。


一次、二次面談を経て、組合加入


 3月26日、面談でAさんは「賃下げは納得できない」、「私の主な業務は、資料作りであり、営業職ではないので、歩合給が適用されるのは納得できない」と主張されたので、いくつかの解決方法を説明した結果、再度検討することになった。5日後の3月31日に「一人でも加入できる労働組合に加入し、現状維持を要求したい」との電話が入り、全労連全国一般労働組合京都地方本部を紹介し、「申し入れ並びに要求書」を作成し会社に郵送した。

 

申し入れ並びに要求書の骨子

 ①Aさんが本年3月31日に全労連全国一般労働組合 京都地方本部に加入したこと
 ②会社の賃金切り下げ提案を拒否すること。本人の同意なく、賃金を一方的に不利益

変更することは違法であること
 ③4月以降も従前の労働条件を保障すること
 ④団体交渉の日時・場所を連絡してくること

 

団体交渉を待たず、約2週間後に満額回答


 団体交渉を開催することもないまま、4月16日付の合意書(協定書)が組合に届いた。
 その内容は、「会社は今回の会社提案は撤回し、4月以降についても従前の労働条件を保障する」というもので、満額回答であった。


スムーズに解決した要因は?


 組合役員が「組合活動をしていること」を、日常的に居住区・知人に広く知らしめていたこと。会社の改悪提案を受けたAさんが、躊躇することなく近所の組合役員に相談したこと。組合役員が労働相談センターを知っていたこと(センターの周知活動の大切さ)。Aさんが直ちに組合加入を英断し、「改悪提案から撤回要求」まで素早く対応できたこと。「全労連全国一般労働組合 京都地方本部」の活動が、広く社会的に知られていることなどがあげられると感じている。

 

全労連無料労働相談ホットラインを開設しています。職場で働くことで困ったことがある方は、お気軽にお電話ください。自動的に最寄りの相談所に繋がります。電話:0120-378-060 (平日10時~17時)

【翻訳】新自由主義者が労働組合を攻撃することでもたらされたものとは?世界各国の動きからの考察。

新自由主義の失敗が生んだ右派ポピュリズム 労働者の権利、基本的人権への影響

国際労働組合権利センター事務局長 ダニエル・ブラックバーン

同研究員 キアラン・クロス

 

 以下の論文は全労連も参加している国際労働組合権利センター(ICTUR)が、国連人権理事会の「平和的集会および結社の自由」に関する特別報告者に提出した報告書の翻訳である。国連人権理事会の特別報告者制度開始10周年、また第44回人権理事会への特別報告者のテーマ別報告の準備に際して、過去10年の状況を確認し将来への方向性を示すために意見の募集が呼びかけられた。

 

 ICTURは世界各地で進んでいる右派ポピュリズムの勃興労働組合および基本的人権への影響に関して、数十年にわたってグローバル化の名で進んできた新自由主義と緊縮財政策労働組合と団体交渉への攻撃を結びつけて論じている。人権理事会に出されている報告書であるが、団体交渉と労働組合の攻撃という問題がグローバリゼーションの下で起こってきた出来事であり、新自由主義的な政策と安倍政治からの根本的な転換を目指す私たちにも極めて意義深い論考となっている。初出は国際労働組合権誌Vol.27の1・2号合併号で、ICTURの許可を得て全労連国際局・布施恵輔が翻訳した。見出しと写真は編集部で追加した。

 

 《危機の根源はどこに》

 

 この10年は、2008年の世界経済危機の反映であると特徴付けられる。世界のいたるところで、過去40年にわたる新自由主義的政策によるさまざまな被害に満ちており、金融システムの破壊を防ぐためにコストを労働者に押し付ける事例に満ちている。2008年の9月初め、欧州の労働組合はロンドン宣言を採択し、危機の原因は「ウォール・ストリート、ロンドンその他の金融センターの強欲と無謀さ¹⁾」であることを強調している。無頓着で自暴自棄な政府が銀行を支援し、その損失を社会全体で賄うようにした。国際金融機関の押し付けで、多くの国の政府は競争、効率化と成長の名のもと新自由主義の新たな攻撃を押し付けている。緊縮財政策の波が、労働組合の権利を制限し、長く機能してきた団体交渉システムを破壊した。団体交渉の分権化を狙った労働法の改悪に伴い、スト権の制限や労働組合活動の犯罪化も進んでいる。EU機構も加盟国に対し、いまだに当時と同じような経済、労働市場改革を要求している。2010年から15年にかけて、緊縮財政策を基本にした労働法改悪が89ヵ国で実施され、公的部門の雇用削減や賃金抑制を130の国の政府が実施、計画している²⁾。

 

 2010年代はかつてないレベルで労働者、市民の社会的行動がおこった。効果的な意味のある社会対話が欠けているために、これまでもそうであったように、世界中で労働者は不満や要求をデモや抗議行動という形で表現している。また労働者が声を上げることが法的に困難な国々では、人民の運動を機動隊、武装警官や軍隊を使って暴力的に弾圧する例が見られる。これらの事例の中には、バングラデシュやフィリピンなど弾圧の回数が多い国も含め、過激な暴力を行使する例が含まれることを注記したい。それらには欧州の国々の発砲事件も含まれ、イタリアでは労働組合活動家1名が射殺され、コロンビア、メキシコ、グアテマラなどでも労働組合活動家への弾圧が続き、特にカザフスタン南アフリカでは深刻な状況である。これらの事件は、2020年における結社と集会の自由の権利の現実を如実に表しており、強い言葉で批判されるべきであり、関係機関に被害者への支援、透明性と独立性が確保された捜査、背後関係者を含む関係者の訴追、被害を受けた全ての関係者への補償を要求する。

 

 このような背景のもと、経済のグローバル化に抗することの無力感から、各国のポピュリズムナショナリズム的な政治勢力が支持を拡大していることは危険な傾向だ。このような脅威となりうる政府に対し、特別報告者がその権限と将来の活動計画を再検討することを求める。グローバルな経済、政治システムは、過去の悲劇と同じ道を進もうとしている。昨年2019年のILO(国際労働機関)創立100周年は祝賀であると同時に、ILOが創立に至った背景を思い返す時でもある。より良い世界を作ろうという意思が分岐点を迎えていた時に、「永続する平和は社会正義を基礎としてのみ実現することができる」、そして「いずれかの国が人道的な労働条件を採用しないことは、自国における労働条件の改善を希望する他の国の障害となる³⁾」という考え方に基づいてILOは創立された。しかし、地球上でILOが創立されて10年に満たないうちに世界大恐慌が起こり、貧困と絶望が拡大し、移民と少数者に対する怒りが誤った方向に誘導された。拡大した絶望と恐怖がポピュリストやナショナリストファシストの運動によって人種差別主義を生み、かつてない規模の世界大戦へと繋がっていった。21世紀冒頭に起こった世界経済危機(リーマンショック)に続けて、世界中で起こっている憂慮すべき状況は、100年前に起こった歴史の悲劇と不思議なほど一致している。

 

《緊縮財政策と権利の後退》

 

 世界人権宣言と関連する条約の双方で、結社と集会の自由は国際人権の枠組みに重要な要素として位置付けられている。大戦後の人権の枠組みは、自身の生活を作り上げる政治的、経済的な力を行使する手段として労働組合を促進してきた。分権化された参加型の民主主義の推進手段として、それらの組織は世界に社会的側面を作り上げる装置として根付いた。20世紀中頃に多くの国々で団体交渉のシステムが構築され、団体交渉は世界の多くの労働者に持続可能な生活条件を保障するために重要な役割を担うようになる。草の根からの参加を支援する労働組合の組織とともに、労働者の「声」を反映させる機能の形成は、労働組合の組合員を基礎とし、労働組合の職場委員、支部の役員の深いネットワーク、労働者に力をつける教育、地域社会との繋がり、国レベルでの政治参加、草の根のレベルの地域社会における民主主義の定着に寄与してきた。

 

 2008年の世界経済危機後、世界中で全国あるいは産業別協約交渉の枠組みへの攻撃が起こり、危機以前の状況を根底から破壊するような変化が起こった。2009年始めに欧州労連は「大量失業」、「賃金凍結」と「賃金切り下げ」が押し付けられると警告している⁴⁾。ILOの研究によれば、2008年から13年までの5年間に、協約適用率は48ヵ国の集計で平均して4.6%減少している⁵⁾。最も適用率が後退した10ヵ国では、平均で21%も適用率が落ちている。後退幅が大きかったのはルーマニアギリシャの65%の減少(ルーマニアでは35%、ギリシャでは18%に減少)で、スロベニアでは92%から65%にまで減少している⁶⁾。2017年にブラジルでは、法令13467によって団体交渉における労働者の代表性と交渉の基本的枠組みが著しく破壊された。ITUC(国際労働組合総連合)の調査では、翌年にかけて団体協約数が45%低下している⁷⁾。2019年のITUCの調査では、団体交渉への攻撃は8割の国で見られ、スト権への攻撃は85%の国で見られるとしている⁸⁾。OECD経済協力開発機構)の新しい調査では、団体交渉が労働者の権利の「鍵」であり、「労働市場の機能を向上させる」ことができるが、「多くの国で労使関係一般が弱体化し、特に不安定雇用が増えている新たな雇用形態が、団体交渉権を圧迫している」としている⁹⁾。

 

 全国レベルの広範な協約の消滅と、産業支援の後退とともに、産別交渉より企業レベルでの交渉が優先され、企業レベルの協約が産別協約の水準を下回ることも容認する法改正が進んだ。これらの政策の進行によって、労働政策が一貫性を欠き、グローバルに強化されてきた自由市場の力によって近隣の職場同士でも労働者が競争を強いられる環境下において、労働者が集団的な力を行使することに破壊的ダメージを与えている。いうまでもなく、労働者が国のレベルの経済、産業政策に集団的に、また平和的に影響力を行使することは、この状況下で困難になっている。

 

新自由主義の下で進む組合攻撃》

 

 キプロスギリシャアイルランドラトビアポルトガルルーマニアのように過去10年間団体交渉を破壊する政策を実行した国々の政府は、国際金融機関やEUの指示でそれらの政策を実行している。それ以前にも80年代から90年代に労働組合の弱体化を狙った試みは、国際金融機関による構造調整策の名で、アフリカ諸国で行われた組織率の高かった公務労働組合への攻撃などがある。現在の労働組合攻撃の波の始まりは、1970年代終盤の新自由主義政策の開始に遡る。それは、それまでの社会対話黄金期へのレクイエムとも言えるものだった。英国は19世紀末には、機械生産業で産別団体交渉を確立したパイオニアであった。しかしこのころには、労働組合の権利に関する長期的なイデオロギー攻撃の世界のリーダー国になる。歴代の英国の政権によって、1979年には団体協約適用の労働者率は82%だったが現在は26%にまで低下した。英国の労組員数も1990年代までに激減し、当時のトニー・ブレア首相は、西側諸国における労組組織化関連法で最悪の法律と規制が成立したことを自慢している¹⁰⁾。

 

 2008年の世界経済危機以降、この攻撃はさらに加速度的に進み、労働組合の権利は世界中で危機的状況になる。2016年に英国労働組合法に結社の自由に新たな制約が加えられたように、職場での労働者代表、団体交渉、ストライキ労働組合の政治活動が攻撃されている。オーストラリアでは団体行動を違法化、組合組織に過度に介入し、組合つぶしをかつてない規模で推進する「Ensuring Integrity(公正確保)」法が、2019年に一旦廃案になったものの、すぐに政府に提案し直されている¹¹⁾。結社や集会の自由の権利行使が妨げられていることが最もよくわかる指標は、労働組合に対する暴力がかつてないレベルで広がっていることである。国際労働組合権利センターは労働組合の権利に関する監視や報告活動を通じて、センターの30年の歴史の中でも最悪の労働組合への暴力として、2つの事例を特に憂慮している。一つは、2011年12月にカザフスタンで起きた労働組合の集会での警察の暴力によって、16人が死亡し、他にも多くの死傷者が出た事件だ¹²⁾。2012年8月には、南アフリカの警察がストライキに参加していた労働者に対し、軍隊が使うような自動火器が使用され34人が死亡し、さらに多くの死傷者を出した。数百人のスト参加者が直ちに逮捕され、信じられないことに、なかまのスト参加者を殺害した容疑をかけられている¹³⁾。

 

 さらに、フィリピン、イランとバングラデシュで、公務と民間の双方の労働組合への暴力と弾圧が起こっている¹⁴⁾。また労働組合活動家への異質なレベルの暴力がグアテマラやコロンビアでも見られる¹⁵⁾。組織労働者への攻撃は何も発展途上国に限ったものではなく、欧州でも多くの暴力や弾圧が報告されている。2013年にギリシャでは、イチゴ収穫に従事していた200人余りの移民労働者が未払い賃金の支払いを求めたピケが、武装した集団により銃撃され、35人の労働者が負傷している¹⁶⁾。2015年のポーランドでは、労組活動家10人の解雇に抗議していた鉱山労働者に警察が発砲し、12人が負傷している¹⁷⁾。イタリアでは2016年にUSBという組合の活動であるアブド・エルサラーム・アフメド・エルダンフが、集会参加中にピケの列に突っ込んできた大型ダンプに轢殺された¹⁸⁾。2018年には同じ組合の移民労働者オルグのスマイラ・サコが銃殺されている¹⁹⁾。スペインではストライキと集会参加で結社と集会の自由の権利を行使しようとした労働組合活動家が起訴されている²⁰⁾。

 

グローバル化で労組と民主主義が危機に》

 

 法制化や規制改革、組織労働者に対して物理的で、時に致命的な攻撃を通じて労働運動を抑圧することが、グローバルな支配層の富の蓄積と並行的に起こっていることは不思議ではない。国際NGOオックスファムによれば、世界規模での格差は「衝撃的なほど固定的で大きく」、「過去10年で億万長者の数が倍増している」ことを憂慮し、「我々の経済システムは壊れており、馬鹿げたほど巨大な富が極貧と共に存在」している。「2015年以降、富裕層のトップ1%が、それ以外に保有されている地球上の富全てを合わせたより多くを保有している」と警告している。世界中の国々で、一部のエリートがその国の収入の大部分を手に入れている²¹⁾。ILOの仕事の未来世界委員会による2020年の報告書「輝かしい未来と仕事」によれば、「経済権力の集中、労働者組織と団体交渉の力の後退」が国内における格差の拡大を招いている²²⁾。ILOが使用する言葉(権力の集中、力の後退など)は2020年における労使関係の悲惨な姿を婉曲的に表現しているが、ICTURの活動から、使用者と政府の組織的な暴力と殺人が免責されていることは明らかである。今日労働者が直面している格差の現実は、数十年にわたる新自由主義理論の動きの中にあり、格差の拡大を固定化する役割を果たしてきた。

 

 団体交渉の枠組みの破壊が、新しい極右勢力のネットワークの活性化と同時進行で起こっていることは警告すべき点だ。もともと労働組合が強い小売りや公務などの産業での雇用の削減と、「フレキシビリティー」と使用者が宣伝しながら不安定雇用導入を可能にする雇用法制改革が同時に起こる中で、労働者はかつてのように集団的に攻撃を理解し、労働や生活条件を変更する攻撃に対して対抗するすべを体系的に奪われ続けているのだ。広範な労働者が全体として団結し、効果的な行動を組織する正式な組織機構が欠けていることで、現在の政治を特徴付ける分断と有害な人種主義が、部分的、あるいは全面的に力を持っている。この組織機構は、孤立、迷い、過激主義への傾向への重要な防波堤の役割を歴史的に果たしてきた。ITUCが2019年に発表した報告書では、「職場の民主主義のまさに基礎」が破壊され、向こう見ずな労働政策によって「平和と安定が危機」にさらされているとしている23)。産別団体交渉機構の中央化が民主化プロセスで果たす役割は、1970年代に全体主義が崩壊したギリシャポルトガル、スペインの例で明らかである。国際金融機関とEUの要求で、国の政策が上記の3ヵ国においても歪められている

 

《結社の自由を制限しながら、労働者保護から除外する》

 

 全ての種類の労働者に適切な労働規制と社会保護に基づく給付を確保するという課題は、ILOが2015年に採択した「非公式な経済から公式な経済への移行に関する勧告(204号)」で示されているように、大きな懸念となっている。この点で過去10年余りの主な傾向は、勧告とは逆方向となっている。世界で非典型雇用が大きく増加し、ほとんどの発展途上国ですでに広まっている、インフォーマル経済での雇用がさらに増大している。このような雇用形態には、臨時、短期契約、パートタイム、季節労働、オンコール労働(0時間契約雇用)、委託、派遣などのほか、擬似雇用や雇用類似の労働者などがある。これが、世界中で労働法や社会保護から除外された労働者の割合を拡大させており、最低賃金、育児休暇などの制度、医療や年金、病気休暇や退職金やその他の給付の権利を持たない労働者となっている。英国での医療格差を10年にわたって研究したマーモット報告によれば、「2010年以降英国の平均寿命の伸びは止まっており、この現象は1900年以降起きていない。(中略)社会経済状況を表す指標の多くが2010年以降格差の拡大と悪化を示している」²⁴⁾。工業国での不安定雇用の増大は特に顕著で、2019年には英国の労働者の3%が0時間雇用契約で働いている25)。

 

 工業国での不安定雇用の増大は、労働コスト削減のために法の抜け穴と規制のギャップを使用者が利用するようになり、組合の組織化を避け、団体交渉を弱体化させようとする。そして、グローバル経済の進展でその国の労働力市場がより「競争力」を確保するために、「フレキシブル」な労働市場政策を各国政府が促進するようになる。このような条件のもとで労働基本権を行使することは、ひかえめに考えても野心的で、結社の自由の権利行使は不安定雇用労働者には差別的に制限されており、組合攻撃の形態として非典型雇用を戦略的に使用者が利用していることは明確である²⁶⁾。社会保障や収入補償がないために、不安定雇用労働者は、契約不更新など使用者の実力行使に対して、特に弱い立場にある。ごく小さな脅しであっても、萎縮効果は絶大だ。このような労働者は、仮に労働法がそれを保障していても、職場における基本的権利の行使に見えない壁が立ちはだかっており、適用が遅いことや罰則規定が十分でないことがしばしばある。

 

 非典型雇用には、女性、青年と移民労働者が不均衡に多くなっている²⁷⁾。移民労働者はグローバル経済に由来する一つの要素であり、建設や家内労働で多く見られる。2018年にILOは、世界の移民労働者人口が1億6400万人に増大しているという推計を発表し、国際地域紛争や貧困によって拡大しているとした²⁸⁾。特に、臨時雇用の移民労働者制度は、強制労働や借金による束縛の危険性が高い。トルコは、インフォーマル経済で働く移民労働者が直面する複雑で困難な課題の実例となっている。世界最大の難民人口を抱えるトルコでは、フォーマル経済(正規の経済)で働く労働者にしか組合員になれない。400万人いるとされる移民労働者にとって、労働組合権の行使には使用者が移民労働者の雇用を正規雇用に切り替えることが必要になる²⁹⁾。

 

 技術革新も、雇用のあり方を大きく転換させており、「ギグエコノミー」や「クラウドワーク」と呼ばれる雇用の拡大は、労働者保護のあり方に新たな課題を投げかけている。Eコマースやデジタルプラットフォームがわずかな巨大企業の手にあり、各国の労働法制のもとにあるデジタル経済で働く膨大な労働者が法の保護を受けることのないよう、膨大な額の投資をして抵抗している。欧州各国で、ギグエコノミーで働く「個人請負」労働者に労働者性を認めさせる裁判があるが、その結果はさまざまである。米国のカリフォルニア州では個人請負労働者に保護を認めさせる法改正が2018年に行われたが、アプリケーションを利用するビジネスを展開しているウーバー、リフト、ドアダッシュなどの企業は直ちに3000万米ドルを投じて、新法から彼らの下で働く労働者を除外させるキャンペーンを開始した³⁰⁾。

 

 アイルランドで不安定雇用の社会的文脈を調べている研究者は、不安定雇用の仕事は、通常低賃金で組合組織率が低く、年金、病気休暇、子育て休暇などの重要な制度から除外されている。不安定雇用はしばしば労働者を圧力、虐待、搾取から弱い存在にしてしまう。住宅、医療や家庭生活において、労働者が家庭をでて自立する可能性を不安定雇用労働が奪い、そのことによる不満がさらに不安定な生活につながる結果となる³¹⁾。不安定雇用にはまり込んだ労働者は、「登っているはしごの段が抜け、そのはるか先に届かないように感じられる」。これまでの世代が享受してきた雇用保障から構造的に除外され、労働基本権の保障からも除外され、職場民主主義(経済民主主義のことではない)への意味ある参加ができない。インフォーマルやオンデマンド経済の労働者は流動的であるというだけでなく、自らの条件に不満を抱え、方向を見失わせられている。

 

《極右ポピュリズムと結社の自由》

 

 世界は急速に変化している。テクノロジー、移民、気候変動が、長く機能してきた国家によるそれぞれの規制に課題を投げかけている。仕事の世界の大きな変動はすでに進行中であり、各国政府とこの変化に対応する国際機関は危機に陥っている。国連の2020年版世界社会報告では以下のように述べられている。

 

 「仕事の世界における不透明さ、斬新な変化とそれに取り組む各国政府と国際社会の準備との間には、大きな開きが存在している。政府はこの分断に対して労働市場の機能と労働政策への投資を拡大し、非典型雇用契約や正規労働の外で働く新しいタイプの労働者が声を上げることを保障するために、集団的な代表制の新しいあり方を作ることができる32)」。

 

 各国政府はこの課題に対応可能だが、その取り組みは不十分だ。オックスファム・インドのアミタバ・バハールは2020年のダボス会議で「貧富の格差は自発的な格差解消策では解決できない。格差解消にコミットしている政府が少なすぎる³³⁾」と批判している。現実は新しい形の集団的な代表制が発展する以上に結社と集会の自由が攻撃され、これまでインフォーマル経済のものとされてきたような労働条件が、世界的に標準的な労働条件になっている利益が超富裕層や巨大企業の株主にわたり、(合法も犯罪も含め)税逃れによって多くの政府の収入が減り民間と公務双方の債務が労働条件と生活条件へのかつてない攻撃に利用されており、貧困、失望と怒りが固定化されている。世界金融危機が既存の秩序への信用を根本から損ない、長年存在してきた国際機関への敵愾心が拡大している。労働者は、権利と安定が消失し、労働者の要求を実現するための枠組みや組織も失われている未来に直面している。多くの人にとって未来は、良質な雇用を期待し、経済成長への道筋が明確で、適切な住宅を手に入れることができ、社会保障、医療、教育などの良質な公共サービスが期待できないものになっている。

 

 ICTURは、労働者の集団的な組織と代表制のメカニズムの破壊が、1980年代から世界で続く変革の重要な側面であることを指摘してきた(2008年の世界経済危機でその傾向は加速している)。これまで主張してきたように、これらの変革は労働者を孤立化させ、方向性を見失わせ、貧困化させる効果しかない。労働組合や政党の支部での定期的な会議などを通じて労働者が集団的に声を上げ、政治的な意識をもち、階級的連帯によって自らのアイデンティティーを自覚する手段として存在していた労働運動が、大規模に破壊されたことによって、かつてなく、また恐ろしいレベルで社会が変容する道が開かれた。今やそれらは、オンラインのソーシャルメディアという場を通じて、民間のSNS会社が管理している「公的」なスペースが、情報入手の唯一の場となる事が多い。自らと同じような耳に入りやすい主張をするグループへと収斂され過激な主張や誤情報に接するようになることで、主張の両極化や対立につながりやすくなっている。ITUCが指摘するように、オンラインのフォーラムやソーシャルメディア機能は、現在の国際的な極右の勢力の中心的な推進力となっている³⁴⁾。

 

 このような状況下において、民主主義は明らかに危機的状況である。ナショナリズムファシズム的なポピュリズムが、世界の数十の国で高揚しており、これらの主張を掲げる政党が選挙で議席を伸ばしている。いくつかの国では、極右ポピュリストの戦術を利用する政治家や政党が政権を握っている。ITUCはこの状況をより強い言葉、「右派ポピュリストと全体主義者の政権が、世界人口の半分以上を代表している³⁵⁾」としている。ICTURは世界の労働組合とともに、右派ポピュリズムの波を深く憂慮しており、ポピュリストの戦術とより過激で反民主主義的な政治主張が支持を集める現状に警戒感を持っている。自分たちは「取り残されている」と感じる、あるいは自分たちをグローバリゼーションの「敗者」と考える人たちの怒りが熟した状況だととらえている。極右とネオファシズムの運動は、権利を失い、住宅、雇用、教育、医療などのサービスへのアクセスを奪われるという人々のまっとうな不安、恐怖を、自らの主張と政治目的に利用し、マイノリティ、移民、難民は彼らの「敗北」の原因であるとスケープゴートにしている。右派ポピュリズムのこの側面は、政治の漂流に効果的に働きかけており、この新しい政治が向かう方向には十分に警戒すべきである。

 

労働組合の役割は決定的》

 

 我々は、彼らの支配を打破し、新自由主義と緊縮財政策によって力を失った労働者に力を与えるために、労働組合は決定的な役割があると考えている。国連の2020年世界社会報告が述べている集団的代表制に関する結論を利用して、立ち向かうことができる。OECDも過去数十年にわたる団体交渉とその適用の破壊政策を転換するよう政府に求め、「仕事の未来において団体交渉を利用するには政府の介入が必要³⁶⁾」としている。ITUCは草の根レベルでの労働者の関与を呼びかけ、関与と参加、声をあげることの再構築が必要であり、「投票行為の先に、地域社会の声を拾い上げる手段とともに、協議、三者構成主義と対話がなければ、信頼は回復できない」としている。国際労働組合組織は、それらなしには「全体主義の高揚はチェックできない³⁷⁾」と警告している。

 

 しかし我々は、労働組合の組合員の最も基本的な権利が守られるだけでは不十分だと強調したい。他の人と同じように組合員はポピュリズムになびくこともあり、かつて労働組合組織が支えていた地域や産業、職場における参加型民主主義の崩壊によって、権利の剥奪がいかに進んだかを理解することは重要だ。2019年の欧州議会選挙で極右勢力に投票した組合員が、自身の選択に雇用、安定の欠如、不安定化の他にも、自分の社会的保護が失われるという恐怖が影響したと述べている³⁸⁾。したがって、組合員だけでは右派ポピュリズムの高揚とたたかうことはできない労働組合の権利が完全に守られ、反労働組合法や予算削減、緊縮財政策によって弱体化し破壊された職場と地域社会を再構築するために、十分な力を労働組合が発揮しなければならない。結社の自由と団体交渉権の完全な尊重が、不安定と非正規化によって生じる不安とたたかうために必要な枠組みを労働組合に与え、労働者が自身の人生に影響する問題に関与する力を与えることになる。

 

 特別報告者に対し、次の十年の方向性を策定するにあたって、結社の自由を鍵として力強く効果的な団体交渉の枠組みとリンクした職場の労働組合構造が、決定的に重要であることを特別に強調することを私たちは求める。右派ポピュリズムを世界規模で高揚させている孤立、方向性の喪失、不安、不安定化の入り混じった状況を打破する活動を特別報告者の権限で行うべきだ。特別報告者の権限において、労働組合の構造が適切に機能し、職場と地域のレベルで労働者同士がつながり、職場、地域、全国と国際レベルで経済、政治がより広くとらえられることが、目的を達成するためには欠くことのできない要素であるという強いメッセージを出すべきである。

 

1)欧州労連2008年ロンドン宣言https://www.etuc.org/en/document/london-declaration-call-fairness-and-tough-action

2)「緊縮財政と労働市場規制緩和:高リスクと弱い正当性」、フアン・パブロ・ボホスラブスキー、国際労働権利誌24号(2017年)

3)ILO憲章前文

4)経済と社会の危機:欧州労連の立場と行動、2009年2月18日、欧州労連

5)「団体協約適用の傾向:安定、消滅か後退か?」、2017年2月、ILOブリーフィングペーパー

6)同上、ILOブリーフィングペーパー

7)グローバル権利指標2019年版、ITUC発行

8)同上、グローバル権利指標、ITUC発行

9)条件向上のための交渉:仕事の世界に変容における団体交渉、2019年11月18日発行、OECD

10)「国民が思うよりも、私は政府の中でよりラディカルだ」オブザーバー紙、1997年4月27日

11)「2016年労働組合法:内容とその目的」、雇用権利研究所、2017年3月1日およびフェアワーク法2019年改正案(Ensuring Integrity)への国際労働組合権利センターの所見https://www.aph.gov.au/DocumentStore.ashx?id=b3e9fdb9-41fb-49e4-a056-2384f2a1688f&su bId=668439

12)人権理事会定期レビュー、第3回(2017年から21年)、国際労働組合権利センターによって提出されたカザフスタンに関する報告、また2015年発行の国際労働組合権誌(IUR)Vol22参照

13)国際労働組合権誌(IUR)Vol22、2015年

14)人権理事会定期レビュー、第3回(2017年から21年)、また2020年発行の国際労働権誌(IUR)Vol26 14ページ「Interventions」および「労働組合権の否定」、ダニエル・ブラックバーン著、国際労働組合権誌Vol20(2013年)参照

15)人権理事会定期レビュー、第3回(2017年から21年)、国際労働組合権利センターによって提出されたカザフスタンに関する報告:https://www.upr-info.org/sites/default/files/document/guatemala/session_28_-_november_2017/ictur_upr28_gtm_e_main.pdf、国際労働権誌Vol25、2号、3号(2018年)P14「Interventions」参照

16)ニック・バニョ著「血に染まったイチゴ」国際労働組合権誌Vol.21、3号(2014年)

17)国際労働組合権誌Vol.22、1号(2015年)p14, 「Interventions」

18)人権理事会定期レビュー、第3回(2017年から21年)、国際労働組合権利センターによって提出されたイタリアに関する報告:https://www.upr-info.org/sites/default/files/document/italy/session_34_-_november_2019/ictur_upr34_ita_e_main.pdf

19)人権理事会定期レビュー、第3回(2017年から21年)、国際労働組合権利センターによって提出されたイタリアに関する報告:https://www.upr-info.org/sites/default/files/document/italy/session_34_-_november_2019/ictur_upr34_ita_e_main.pdf

20)フスス・ガレゴ著「民主主義への攻撃」国際労働権誌Vol. 214号、2014年

21)https://www.oxfam.org/en/press-releases/worlds-billionaires-have-more-wealth-46-billion-people

22)「輝かしい未来と仕事」、ILO仕事の未来世界委員会報告書、ILO、2019年

23)グローバル権利指標2019年版、ITUC発行

24)「英国の健康格差:10年間のマーモット検証報告」、健康格差研究所、2020年、http://www.instituteofhealthequity.org/the-marmot-review-10-years-on

25)労働力調査:ゼロ時間契約データより、英国国家統計局、2020年2月18日

26)公正なグローバル化のための社会正義宣言に基づく職場における権利の中核条約に関する一般調査、ILO条約勧告適用専門家委員会報告、報告書III(1B)、国際労働事務局2008年発行、パラ935〜937

27)「世界の非典型雇用:課題を理解し展望を探る」、ILO、2016年発行

28)国際移住労働者ILOグローバル推計、2018年12月5日

29)ビルグ・ピナール・エニグン著「トルコのシリア難民:雇用と労働組合の対応」、国際労働権誌Vol. 23、3号、2016年

30)ジョン・マイヤーズ、「ウーバー、リフト、ドアダッシュがカリフォルニア労働法に9000万ドルを投じて挑戦する」、ロサンゼルスタイムス、2019年10月29日

31)アリシア・ボベク、シニアド・ペンブローク、ジェームス・ウィックマン著、「不安定とともにある生活:不安定雇用の社会的影響」、欧州進歩研究基金(FEPS)および社会変革の行動に関するシンクタンク発行、2018年

32)「輝かしい未来と仕事」、ILO仕事の未来世界委員会報告書、ILO、2020年

33)「世界の億万長者は46億人の富の合計以上を保有している」、オックスファム・プレスリリース、2020年1月20日https://www.oxfam.org/en/press-releases/worlds-billionaires-have-more-wealth-46-billion-people

34)「自由報告:平和、民主主義と権利」、ITUC、2019年10月発行

35)同上「自由報告」、ITUC、2019年

36)条件向上のための交渉:仕事の世界に変容における団体交渉、OECD、2019年11月18日発行

37)前述「自由報告」、ITUC、2019年

38)同上「自由報告」、ITUC、2019年

 

ダニエル・ブラックバーン ロンドンの国際労働組合権利センター事務局長、国際労働組合権誌と『世界の労働組合(第6、7、8版)』の編集者であり、法廷弁護士。人権の修士号において優秀な成績を修め、パトリック・ソーンベリー賞を受賞。1999年に研究員として国際労働組合権利センターに参加。

キアラン・クロス 2015年から2020年まで国際労働組合権利センターで研究者として在籍し、現在はベルリンで哲学の博士課程に在籍。法学では準修士、国際経済の法、公正、開発においては修士課程を優秀な成績で修めた。欧州憲法・人権センター(ECCHR)とグリーンピースにおいてコンサルタントとして働いた経験がある。

 

( 月刊全労連2020年10月号掲載 )

 

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【論文】新自由主義とフェミニズムの関係性とその展望についての論文をご紹介します。コロナ禍のしわ寄せが女性に集中する現在、改めてその根本原因に迫るヒントになるかもしれません。

新自由主義ジェンダー平等運動~高まるジェンダー平等労働運動の役割~

愛知淑徳大学名誉教授 石田 好江

 

《はじめに》

 近年のジェンダー平等を取りまく状況をみると、#MeTooイクメンなど変化も感じられる一面もあるが、現実には従来の男性中心的な職場慣行も、家庭内での性役割分業もあまり変わっていない。そのこと以上に気になるのは、とりわけ若い女性たちの間に、そうした現状を変えようというジェンダー平等のような運動に対し(左翼運動に対しても同様であるが)「時代遅れ」「抑圧的(上から目線)」という空気感がつくられ、退けられていることである。その空気感は「社会は変えられない・変わらない」という諦めや無力感、さらには「自分に問題があるのだからしかたない」という自己責任感へと繋がっている。


 こうした現状を生み出している原因は多様に考えられるであろうが、そのひとつは新自由主義の強靭さを運動の側が甘く見ていたことにあるのではないかというのが本稿の問題意識である。新自由主義改革を単なる規制改革だと考えていなかっただろうか。新自由主義のレトリックで称揚される主体的な選択、能力開発といったものに、女性の自立や自己決定、エンパワーメントを掲げるジェンダー平等運動が取り込まれたりはしなかっただろうか。


 本稿では新自由主義ジェンダー平等の関係を検証した上で、新自由主義に絡めとられないためにジェンダー平等運動に何が求められるのかを考える。とくにその中で、ジェンダー平等運動における経済的公正・再配分のたたかいの弱さという反省に立ち、文化的公正のたたかいを経済的公正・再配分のたたかいに統合させる運動の必要性と、その担い手であるジェンダー平等労働運動の役割の重要性について述べてみたい。

 

1 新局面の新自由主義

(1)新自由主義の多面性

 

 1970年代、失業率とインフレ率が同時に上昇するスタグフレーションが世界的規模で進行し、税収が急落、財政支出が増大した結果、各国で財政危機が発生した。新自由主義は財政危機によってケインズ主義的福祉国家政策が機能しなくなったところに、市場の自由を再び確立しようと登場したものである。一般的には、規制緩和・競争・フレキシビリティというキーワードで表されるような市場の論理の拡大、民営化などの公機能の縮小と変質、国家と個人の間にある中間集団の崩壊に伴い、社会的連帯の喪失と個人化の進展、とりわけ、市場の論理の拡大にとって妨げとなる労働組合は弱体化させられる、と理解されてきた。しかし、新自由主義論の第一人者であるデヴィッド・ハーヴェイはこうした理解だけでは十分に新自由主義を捉えきれていないと、以下のような点を指摘する。


 第1は、新自由主義は「資本蓄積のための条件を再構築し、経済エリートの権力を回復するための政治的……プロジェクト」(ハーヴェイ2005=2007:32)であると、新自由主義市場原理主義という理論ではなく政治的な実践であると捉える。また、市場か国家かではなく、新自由主義をエリート権力の回復・維持のために必要ならば国家介入も厭わないものであるとしている。


 第2は、新自由主義への転換を可能にするためには、民衆の同意形成が重要な役割を果たしたとする点である。新自由主義は「われわれの多くが世界を解釈し生活し理解する常識(コモンセンス)に一体化してしまうほど、思考様式に深く浸透している」(ハーヴェイ2005=2007:11)とハーヴェイが述べるように、国家の介入や規制政策を個人の自由という価値観の対立物と認識させるような巧妙な言説が同意調達に使われた。1968年の世界的規模で展開した学生運動が、個人的自由を求めていたことで新自由主義に取り込まれた代表的な事例であると説明する。


 第3は、新自由主義は自身が発生させる諸矛盾に対応するために新保守主義と手を結ぶとする指摘である。社会的連帯が破壊され個人がバラバラになり不安感や無力感が高まる、あるいは犯罪などの反社会的行為増加への危惧が増す中で、道徳やナショナリズムなどの新保守主義や権威的ポピュリズムが復活するという。


 新自由主義とはこれまでの私たちの理解とは異なり、政治的なプロジェクトであり、したがって国家介入も厭わないものであることがわかる。また、ここまで新自由主義が受け入れられた理由は、私たちがそれを受容可能とするような同意形成が行われたこととともに、新保守主義とも手を結び私たちの思考や行動に深く浸透していることにある。

 

(2)2008年の「市場の失敗」以降も生き延びる新自由主義の強靭性

 

 2008年に起こっリーマンショックという金融危機は、まさに「市場の失敗」、新自由主義の敗北のはずであった。リーマンショックの対策としてとられた公的資金の注入などの政府による強力な市場介入を機に、新自由主義の終わりが始まるものと考えられた。しかし、事実はそうはならなかった新自由主義は、一方でケインズ主義的な政策を実施しつつ新自由主義的政策も執拗に追求するという形態を取りながらしたたかに生き延びている


 それは日本においても確認できる。国家予算規模についてみると、8年連続で最大を更新しており、新自由主義が目指す「小さな政府」とは程遠い状態となっている(2020年度の国家予算は102兆6580億円と過去最大の規模である)。その一方で、所得税法人税の引き下げ消費税の引き上げによって所得再分配機能は大きく後退させている。また、直近の2019年6月に発表された「規制改革推進に関わる第5次答申」では、副業・兼業の促進、テレワークの促進、副業の日雇派遣の緩和などさらなる規制緩和を推進する新自由主義政策が躊躇なく大胆に進められている。


 ハーヴェイの新自由主義分析きわめて優れたものであるが、2008年以降もしたたかに生き延びている新自由主義の強靭性の分析として不十分であると指摘しているのが酒井隆史である。酒井はフーコーとそれ以降の政治社会論を踏まえ、新自由主義の統治性を分析する。その上で、ハーヴェイのアプローチは「経済的イデオロギーとしてネオリベラリズムをとらえる傾向があり、……政治的合理性としてのネオリベラリズムという視点が希薄」(酒井2019:518)であると指摘し、その視点を「日常的リベラリズム」と表現する。私たちがいまのこの無慈悲な競争原理の導入や富裕層優遇の税制を受け入れ、諦めてしまっているのは、「ネオリベラリズムの感性をその統治術の一環としての主体化を通して形成されてきた」(酒井2019:524)ことによるものである。それほどまでに私たちの生活全体、私たちの存在そのものに新自由主義が深く浸透しているとみる。この状態を生み出した契機を酒井は「日常的リベラリズム」と名付けたのである。
 

 酒井は、なかでも、競争の役割に注目し、現代の社会は市場競争における競争という契機をすべての中枢に据えた社会であるとみる。競争にさらされること、能力を高めることが健全化を促すとみなされる社会、それによって絶えず能力評価にさらされ、監視される社会に私たちは生きている。新自由主義政策は至るところに競争環境を人為的に構築し、その競争を保証するよう作動するのである。「日常的リベラリズム」は、一方では自由で主体的な選択、能力開発、「自己責任によってみずからの生を運営する」(酒井2019:527)という形で作用する側面と、競争にさらされる不安感が他者への従属や無力感(諦め)を強めるという形で作用するという側面の両面を持っているのである。


 酒井の指摘でもうひとつ重要なのは、リベラリズムはデモクラシーとは相性が悪いが、独裁・権威主義とは親和性が高いという指摘である。デモクラシーは市場をかく乱する危険な理念であるのに対して、権威主義的国家がリベラリズムの原理をもって運営することは合理性をもっており、「いまわたしたちが経験しているのは、まさにこのネオリベラリズム権威主義的要素が加速しながら拡大していることです。トランプ、ボルソナーロ、エルドアン習近平プーチン、安倍、大阪維新の会と、世界的な極右の擡頭とネオリベラリズムの政策の強化はまったく矛盾していません」(酒井2019:551)と述べる。

 

2 ジェンダー平等と新自由主義


(1)新自由主義と日本のジェンダー平等政策の共犯性

 

 新自由主義ジェンダー平等との関係をめぐっては既に多くの議論が交わされてきている。そこでは、概ね、新自由主義政策によって女性はより厳しい状況に追い込まれるとともに、女性の間の格差が拡大したということが共通の認識になっている。また、日本のジェンダー平等政策と新自由主義との関係については、上野千鶴子は、女性労働力活用を目的にしているという意味で日本のジェンダー平等政策は新自由主義改革の下で展開されたものであると述べた上で、これまでになかった多様な選択肢を増やしたという点では女性にとってチャンスを与える効果はあったが、それは性差別の姿を変えさせただけのものであったとみる(上野2013:230~254)。


 日本のジェンダー平等政策が新自由主義的なものであったことは事実のようであるが、ここではさらに、ハーヴェイや酒井の分析を参考にしながら、日本におけるジェンダー平等政策のもつ新自由主義的性格とそこに使われている新自由主義のレトリックを確認してみたい。


 日本の新自由主義は欧米より遅れ、小泉内閣時代(2000年代)から本格化したといわれているが、少なくともジェンダー領域のところでは1985年の男女雇用機会均等法(以下、均等法)と労働者派遣法の成立新自由主義改革のスタートであろう。新自由主義にとってはそのことが資本に合理的かどうかが重要であるため、男女を一元的に区別することはしないし、身体性も問題にしない。したがって、均等法が男女に機会だけを均等に与えることは新自由主義にとって何ら問題ない男性仕様の働き方は変えずに、女性たちがそれに適用できるかどうかまでは問わない、結果は自己責任というまさに新自由主義的な法律である。均等法に合わせて導入されたコース別人事制度の下で、昇進・昇格の閉ざされた一般職コースを選択したのは個人の自由な意思によるものであり、そこには差別性はないと差別が正当化され見えなくなった。その後の男女賃金差別裁判において、それ以前は認められていた差別性が均等法を理由に認められなくなったことは、この法律の新自由主義的性格をよく表している。


 均等法から15年を隔てて1999年男女共同参画社会基本法が施行された。この法律は国や地方自治体の施策の指針を示すための法律という性格上、男女の差別的な取り扱いを具体的に是正することよりも、法律の前文に示されているように「男女が対等な社会の構成員であること」「男女が互いにその人権を尊重し合うこと」「性別にかかわりなく、その個性と能力を十分に発揮できること」の啓発に重きが置かれた。各自治体がそのために作成したパンフレットには「キラキラ輝く個性」「自分らしく」「エンパワーメント」という文字が躍った。啓発の結果、この法律が「女性は自分の意思と責任で能力を高め、それを発揮して自分らしく主体的に生きることができる」という空気・規範を作り出すことに一役買ったことは事実である。しかし、性差別の是正は後景に退き、見えにくくなった。これが個人の自由を重視する新自由主義のレトリックであることは、ハーヴェイや酒井の分析からも明らかである。


 さらに、2015年には女性活躍推進法が制定された。この法律がアベノミクスの成長戦略に盛り込まれた「女性の活躍推進」に基づいて制定されたものであるということだけで、新自由主義政策であることは明白である。つまり、人口減少・労働力不足という国家的大問題を解決するために女性の労働力「活用」しようというのである。既に述べたように新自由主義は個人の自由を根源的に重視することから男女を一元的に区別することはない。性別にかかわらず個々の能力を発揮してもらうことは経営効率を高めることになるわけで、有能な女性の活用は必定だからである。

 

(2)ジェンダー平等労働運動の役割の重要性

 

 ジェンダー平等の運動が、女性の労働市場への進出(もっと働けるようにしてほしい)を目標のひとつにしてきたことは事実だが、女性を単に働かせようという新自由主義ジェンダー平等政策とは似て非なるものである。だからこそ、均等法、男女共同参画社会基本法、女性活躍推進法が制定される度に、ジェンダー平等の実現を目指す陣営は制定に反対し修正を迫る運動を展開してきた。均等法に対しては、女性保護規定の撤廃反対や機会の平等だけではジェンダー平等は実現できないことを主張してきた。男女共同参画社会基本法については、平等ではなく「参画」という用語を使うことのいかがわしさに異議申し立てをしてきたし、女性活躍推進法については、同一価値労働同一賃金原則の適用や長時間労働等の日本的雇用慣行の是正と併せて実施することの必要性を訴えてきた。しかしながら、こうした運動が大きく広がることはなく、成果をあげられていないことは事実である。


 新自由主義的なジェンダー平等政策に取り込まれてしまったのは、ジェンダー平等運動自体に原因があると、ジェンダー平等運動(フェミニズム)と新自由主義の親和性・共犯関係を指摘しているのが、ナンシー・フレイザーである。フレイザーの主張は『再配分か承認か?』(フレイザー/ホネット2003=2012)以来、何度も論じられているものであるが、その主張が簡潔にまとめられた文章が「The Guardian」のサイトに寄稿されている。「フェミニズムはどうして資本主義の侍女となってしまったのか」(フレイザー:2013=2019)という刺激的なタイトルのその論考の中で、フレイザーは以下の3点でフェミニズム新自由主義に貢献したと指摘している。


 第1は、フェミニズムの家族賃金(夫の賃金で家族を養うというモデル)批判である。フェミニズムが公認した「2人稼ぎ手モデル」は、結果的に女性を低賃金で不安定な労働市場に引き出すとともに、男性の賃金引き下げを許すことになったと指摘し、新自由主義は「フェミニズムの家族賃金批判を搾取の正当化のために利用することで、女性の解放の夢を資本蓄積のエンジンに結びつけている」と述べる。第2は、フェミニズム政治経済批判よりも文化的な性差別批判ジェンダーアイデンティティ・ポリティックス=女性の奪われた価値を取り戻し正当に認められることをめざす承認の政治)に傾注したことで経済的不公正を犠牲にすることになったという点である。第3は、女性のためのNGOを例に挙げ、市民をエンパワーメントし、国家権力を民主化しようという展望がいまや、市場化と国家の削減を正当化するために利用されているという指摘である。

 

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原文:How feminism became capitalism's handmaiden - and how to reclaim it | Nancy Fraser | The Guardian

日本語訳が掲載されたBLOG:ナンシー・フレイザー「フェミニズムはどうして資本主義の侍女となってしまったのか」 : おきく's第3波フェミニズム (exblog.jp)


 フレイザーの主張は日本にぴったりと当てはまる。「自分らしく輝く個性」といった新自由主義的レトリックで称揚された女性の主体性エンパワーメントが、ジェンダー平等運動のアイデンティティ・ポリティックスと符合したことから、新自由主義に取り込まれ、性差別、ジェンダーヒエラルキーを変革する力が弱まってしまったという日本の状況はこの説明の通りである。


 フレイザーはそこから、新自由主義との危険な結合を断ち切りジェンダー平等運動(フェミニズム)を再生するシナリオを3点にわたって提示する。第1は、賃労働を脱中心化し、ケア労働などの賃金化されない活動を尊重する生活様式にすること、第2は、文化的公正のたたかいを経済的公正のたたかいに統合させること、第3は、参加民主主義の重視である。その中で注目すべきは、文化的公正のたたかい(性差別に関わるたたかい)を経済的公正のたたかい(再分配のたたかい)に統合させる必要という主張である。「文化的公正のたたかいを経済的公正のたたかいに統合させる」ことの具体的内容について、フレイザーは今回紹介したペーパーには書いていないし、本稿もこれまでの「再配分か承認か」の論争に踏み込むつもりはない。ここでは、男女間の経済格差のように文化的公正と経済的公正が交錯する問題、さらには階級的な再配分(経済的公正)の問題に取り組むこと、それを強化することがいま、ジェンダー平等の運動にも求められているという点に耳を傾けたい。したがって、文化的公正のたたかいが階級的なたたかいに還元されないということはいうまでもない。ハーヴェイが指摘したように、新自由主義は経済エリートの権力を回復するための、あるいは富の多くを自分のところに集中させている経済エリートの権力維持のための政治経済的実践である。その新自由主義に立ち向かうためには、ジェンダー平等運動において政治経済マターである経済的公正・富の再配分へのたたかいの重要性や階級的観点をもつことは不可欠である。そう考えると、「文化的公正のたたかいを経済的公正・再分配のたたかいに統合させる運動の必要という主張はきわめて説得的である。


 では、その中心的な担い手には誰がなりうるかというと、上記の理由から労働運動以外にはないジェンダー平等労働運動である。ジェンダー平等の運動の中で労働運動の役割が高まっているということである。ここで「女性労働」とせず、「ジェンダー平等労働」としたのは、ジェンダー平等運動の中で労働問題を主題化させるだけでなく、労働運動の中にジェンダー平等を主題化させるためである。これまで、女性労働運動は男性中心・男性モデルでつくられた労働環境や社会を真に性中立的なものに変え経済的不公正を改善しようと運動を展開してきたが、男性モデルで作られた職場や社会を性に中立的なものに変えるのは女性だけの問題ではない男性たちが自分の問題にしない限りこの問題は解決できない。労働運動の中で女性の問題が周縁化されてきたという側面があることは否めない。ジェンダー平等の問題を女性の問題としてゲットー化せず、労働運動の中心に据えることが重要なのである。それは男女の対立を深めることではなく、労働者全体の経済的な公正の実現につながることとして捉えることで可能になる。


 ジェンダー平等は男性の既得権を奪うもの、労働者に与えられたパイを男女で奪い合うことになると理解している男性たちも多い。確かに、ジェンダー平等の運動に経済的公正・富の再配分の観点が欠けていたことが、「労働者に与えられたパイを男女で奪い合う」とか「労働運動に男女間の対立を持ち込むことになり危険だ」という認識を生んでいたことは否定できない。既に述べたように、そこを乗り越えようというのが本稿で提案した「文化的公正のたたかいを経済的公正・再配分のたたかいに統合させるジェンダー平等労働運動」である。

 

3 いま、求められるジェンダー平等労働運動とは


(1)女性の低い経済力の問題を運動の中心的課題に

 

 文化的公正のたたかいを経済的公正・再配分のたたかいに統合させる運動としてジェンダー平等労働運動を提案したが、その中でも中心的課題は、文化的公正と経済的公正・再配分の問題が交錯する男女間の経済格差の問題、すなわち女性の経済力の低さ、女性の貧困の問題である。新自由主義がもたらした最も特徴的なものは不公正な経済格差である。しかし、その影響は男女に同じようにもたらされたわけではない。性差別、ジェンダーヒエラルキーを組み込んだ労働市場では女性たちのところに強く影響が表れるからである。


 まずは、男女間の経済格差を確認してみよう。世界経済フォーラムが2019年12月に発表した報告書において、日本のジェンダー・ギャップが153ヵ国中121位と過去最低の順位になったことが話題になった。「経済活動の参加・機会」「教育の到達度」「健康と寿命」「政治活動への参加・権限」の4要素のうち日本においては、とりわけ経済活動と政治活動のところでジェンダー格差が大きいことが指摘されている。


 その経済活動の指標のひとつに男女の年間所得格差があるが、日本においては女性の所得は男性の54%でしかなく、順位は108位である。因みに、総合ランキング2位のノルウェーのこの値は79%フィンランド、ドイツ、フランス、アメリなども70%前後で、先進国の中でも際立って低い。日本の元データは国税庁の『民間給与実態統計調査』のもので、課税・非課税にかかわらず1年間に何らかの所得のあった人を対象に調べたものであるが、同じデータで所得分布を作成してみると(図1)、女性の6割300万円未満のところに集中していることがわかる(200万円未満は約4割)。

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 女性の経済力・稼得力の格差こそが、労働市場における性差別、ジェンダーヒエラルキーを反映したものである。子どもを持つ女性が排除される(男女が同等にケア責任を負うことを前提にした労働市場や職場になっていない)、非正規でしか働けない(女性にとって正社員への入り口は新卒のところだけ)、低賃金の職種のところに女性が配置される、低賃金で性労働力が確保できないところに女性が募集される、女性向け職種と呼ばれるところは不安定・低賃金、同じ職種・同一労働でも女性の方が低賃金(責任や期待値の違いといった理由で区別される)、昇進・昇格からの排除等々、男女の経済格差の性差別要因を挙げたらきりがない。これらの構造的な要因を解決しない限り女性の経済力は上がらない。同時に、この構造を変えることは、不公正な能力主義や競争原理に縛られて働く男性にとっても働きやすい労働環境をつくることにつながっている。


 新自由主義改革は一般的に女性の間の経済的格差を広げると言われている。図2はその点を確認するために、女性労働者の増加がどういう業種で起こってきたのか(高賃金業種で拡大したのか、低賃金業種で拡大したのか)を見たものである。2001年から2018年の中間年である2010年の賃金構造基本統計調査から、女性が多く働く農林水産・製造業を除く広義のサービス業30業種を所定内給与金額で、4グループに分けた。そのグループの労働者数(短時間労働者を除く一般労働者:フルタイムで働く非正規労働者を含む)の経年変化を、2001年を100として示したものである。上位グループには金融保険業、情報サービス業、技術・専門サービス業など、中位上グループには医療、卸売業など、中位下グループには福祉介護業、衣料品等小売業など、下位グループには飲食料小売業、飲食業、その他事業サービスなどが含まれる。

 

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 この20年間の変化をみると、情報サービスや教育・学習支援業のところでの増加が反映され、上位グループが1.3倍に上昇している。一方、下の方は、下位グループが低下、中位下グループが1.6倍に上昇している。中位下グループの大半は福祉介護業での増大である。これをどう見るかである。新自由主義改革は上位グループで働く女性を増やすと言われているが果たしてそう言えるであろうか。確かに上位グループのところで伸びているが、それが必ずしも高賃金職かどうかはわからない情報通信業で働く女性の35%、技術・専門職で働く女性の40%は非正規雇用である(2018年『労働力調査』)。さらに重要なのは中位下グループの上昇である。なかでもその増加が医療・福祉分野の階層制の最底辺におかれている介護労働者のところで生じているという点である。深刻な介護労働者不足が生じているにもかかわらず介護報酬は上がらない。それを支えているのが、「女性は介護職に向いている」「介護は家事の延長であり、誰でもできる仕事」という言説である。なぜ女性なのか、なぜ介護職は低賃金なのかはそこに原因がある。


 新自由主義改革の女性への影響をみる限り、男女の経済格差の改善は遅々として進まず(2010年から2018年までに男女の所得格差は0.7ポイント改善されただけ)、かといって女性間の格差が生じるほど女性の一定層が上位グループに進出したかというとそれもなく、女性労働市場は非正規労働者の増加と賃金水準の低い層の増加に見られるように全体として劣化しているといわざるを得ない。


(2)個別性に寄り添う活動の強化を

 

 先に紹介したフレイザーは、新自由主義下でジェンダー平等運動(フェミニズム)が弱体化したのは、ひとつは経済的公正への取り組みを怠ったこと、もうひとつはフェミニズムのもつアイデンティティ・ポリティックスが新自主主義のレトリックに取り込まれたことによるものと指摘した。


 筆者はその指摘の前者を重視し、ジェンダー平等運動における労働運動の役割の重要性を述べた。それに対し、菊地夏野(2019)はフレイザーの指摘の後者に注目し、女性たちの間に生まれている主体的に能力やスキルを向上させようとする「女子力」現象を、フェミニズムの二律背反性に付け入ることによって生み出された「ネオリベラル・ジェンダー秩序」であると捉える。この状況は、酒井が名付けた新自由主義の規範が私たちの生活全体、存在そのものにまで深く浸透する「日常的リベラリズム」によって生まれている状況と同じものである。新自由主義に対抗できる運動をつくっていくためにはこの視点も無視できない。


 菊地も酒井もそのために必要なこととして社会的連帯とデモクラシーの必要を述べるが、それ以上の具体的な記述はない。確かに、新自由主義、とりわけ現在の権威主義新自由主義が破壊したものは社会的連帯とデモクラシーであることから、この2つを取り戻すことが求められていることは間違いない。


 これについて十分な具体的方策を提案できるほどの力量を筆者は持ち合わせていないが、1点だけ提案するとすれば、個別性や個人のリアリティに寄り添った活動を強化することではないだろうか。既にどっぷりと新自由主義の規範・空気に浸かっている者、とりわけ新自由主義改革の下で育ってきた若者たちは、優勝劣敗の原則や自己責任を内面化し、孤立している。自己肯定感が低下している者に、集団的な対応は抑圧にしか感じられないし、闘争のスローガンも彼らには無力である。とくに、女性たちは男女を一元的に区別しない新自由主義のレトリックの下で「女性は自分の意思で能力を高め、その能力を発揮できる主体的な存在である」と称揚される一方で、職場や結婚生活の中で根深い女性差別に遭遇し、男性以上に生き難さを感じている。


 そういう者たちのところに社会的連帯やデモクラシーを取り戻すためには、個人の個別の問題に耳を傾け、対話し、その人の意思を尊重しながらその問題を解決するような活動を重視していかなければならないのではなかろうか。新自由主義が前提とする個人(近代的個人像)は、自己決定・自己責任に表されるように他者に依存しない、自立した個人という特徴を有しているが、その裏返しとしてその行動には自己防衛的、排他的な性格が表出する。個人の生き方や思考様式にまで浸透する新自由主義に対抗するためには、このような自己防衛的、排他的な個人像からいかに脱却するかが求められる。その手掛かりは、個人のところに降りていく活動、つまり、異質な他者や多様なニーズをもつ他者との関係性を重視する活動にある。こうした活動を通じてつくられる新たな個人こそが、社会的連帯やデモクラシーの主体となりうるのである。また、そのためには従来の活動・運動のスタイルを修正することも必要であろう。従未の労働組合運動や革新運動にしばしみられるような権威主義的、ヒエラルキー的な活動スタイルは、個人に対して抑圧的に作用するだけでなく、女性、若者、非正規労働者など言説資源の乏しい者にとっては敬遠の要因になる。新自由主義の新局面に立ち向かうためには活動・運動のあり方も変革を求められているということである。

 

《おわりに》

 

 ジェンダー平等の労働運動と名称は変えたが、取り組む内容は従来の女性労働運動と大きくは変わらない。女性の貧困問題は女性労働運動の中心的な課題であったし、労働相談にも力を入れてきた。したがってここでは、女性労働運動の中身を変えるというより新自由主義の強靭性を認識した上で、ジェンダー平等労働運動の果たす役割を再確認し、運動をバージョンアップしていくことの必要性を強調した。


 今回のテーマを考えるきっかけになったのは、2019年12月、はたらく女性の神奈川県集会で、『82年生まれ、キム・ジヨン』という本を題材に講演するよう依頼されたことであった。この小説には30歳代前半の主人公の女性が、自己実現への強い思いと韓国社会の根強い性差別の間で苦悩する様子が描かれており、韓国はもとより、日本でも女性たちの間で話題になった。韓国は1997年のIMF危機の後、急激な新自主主義改革が実施され、競争の激化、雇用の非正規化が進んだ新自由主義改革の影響は男性以上に女性たちに打撃を与えており、その結果は子どもの出生率が0.98(低いといわれている日本でも1.42)というとんでもない数字に如実に表れている。この本を読んだ多くの日本の若い女性たちが「キム・ジヨンは私だ」と言った。他人事では済まされないところに私たちは既に立っているのである。その意味でも新自由主義に対抗するための運動を構築することは急務である。

 

参考文献
上野千鶴子(2013)『女たちのサバイバル作戦』文春新書
菊地夏野(2019)『日本のポストフェミニズム 「女子力」とネオリベラリズム』大月書店
酒井隆史(2019)『完全版 自由論 現在性の系譜学』河出文庫
ハーヴェイ・デヴィッド(2007)『新自由主義 その歴史的展開と現在』渡辺治監訳、作品社(David Harvey, A Brief History of Neoliberalism, Oxford University Press,2005)
フレイザー・ナンシー(2013=2019)「フェミニズムはどうして資本主義の侍女となってしまったのか」菊地夏野訳『早稲田文学』2019年冬号
フレイザー/ホネット(2012)『再配分か承認か? 政治・哲学論争』加藤泰史監訳、法政大学出版局(Nancy Fraser/Axel Honneth, UMVERTEILUNG ODER
ANERKENNUNG? , Suhkamp Verlag, 2003)

 
いしだ よしえ 愛知淑徳大学名誉教授。2018年3月に定年退職し現職。女性労働問題研究会前代表。東海ジェンダー研究所理事。専攻:社会政策学。近著:『社会福祉ジェンダー』(共著 ミネルヴァ書房 2015)、「公共性の再定義と生活ガバナンス」(『愛知淑徳大学論集 交流文化学部篇』6号 2017)、「生活ガバナンスによるまちづくり」(『生活経営学研究』NO.55 2020 3月)

 

( 月刊全労連2020年6月号掲載 )

 

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【宮城】労働組合がタクシー会社を経営したらどうなる!?運転手の労働条件を改善し、園児の送迎など地域にニーズに応えるタクシー会社が誕生! #労働組合ができること 自交総連・秋保交通労働組合

宮城県〉自交総連・秋保交通労働組合 労組と住民とで共につくる地域交通 

編集者・ライター 池田武士

 

 自交総連は、ハイヤー・タクシー、自動車教習所、観光バス労働者の組合です。業種ごとに政策を掲げ、タクシー分野においては「安心・安全、持続可能な公共交通を担うタクシーをめざして」とする政策を提起して、たたかいの方向を示しています。

 

 宮城県秋保温泉は、JR仙台駅から路線バスで一時間ほど。仙台市太白区秋保町湯元に位置し、鳴子温泉(同県)・飯坂温泉福島県)とともに奥州三名湯の一つに数えられています。その温泉町で、自交総連秋保交通労組の仲間が地元住民とともに「地域交通の拡充新交通システム実現)をめざす活動に取り組んでいます。歴史ある温泉町で「政策」が“きらり”光る取り組みを紹介します。

 

《住民の期待広がる「地域交通」拡充の取り組み》

 

 その推進役を担っているのが「秋保地区の交通を考える会」(2018年1月発足)です。地域住民や地元事業者等を対象に地域交通に関するアンケート調査や報告会等に取り組むなかで、仙台市が進める『みんなでつくろう地域交通スタート支援事業』に認定され、「まちづくり専門家派遣制度」によるアドバイザーを迎え、専門的な助言や技術的な支援が得られるようになりました─と話すのは、発足時から同会役員を務めて来られた青野邦彦さん(秋保交通代表取締役・社長)。

 

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後列中央が青野邦彦さん(「考える会」の役員会にて) 2020年3月

 

 ―弊社では、仙台市教育委員会からの委託事業で6年前から「あきう幼稚園」の園児さんの送迎事業をやっています。卒園する児童の保護者さんから不便なバスでは小学校通学が非常に心配との声が寄せられていました。同時に近くの医院の院長先生からは、高齢者の足がなく、診察を受けた高齢者がバス待ちのため1時間2時間待合室にいなければならない、なんとかならないかとの相談を受けていました。

 

 ―私は地域交通として、特にデマンド型の整備を考えていたのでその案を提示すると、自然に地域交通に関心を持つ有志集まってきました。構成メンバーは、元秋保連合町内会長さん、馬場小学校PTA副会長さん、秋保地域包括支援センター所長さん、職員さんなどです。

 

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秋保の交通について意見交換する地域代表の皆さん

 

《労働者が作った会社にしかできないことをやろう》

 

 青野さんは、自身の秋保交通一般タクシー&観光タクシー【秋保交通】秋保温泉から仙台・宮城の観光スポットへ (akiukotsu.com) )との関わりと合せてタクシーをめぐる問題、タクシーの果たす役割など、想いを込めながら話してくれました。

 

 ―弊社の前身は、自交総連組合員が争議(秋保交通労組のたたかいの経過は末尾参照)をたたかい、勝利した際の解決金・退職金を仲間が持ち寄り設立した会社です。

 

 ―私はその当時、仙都タクシー労組(本社・仙台市宮城野区)の書記長をしていました。その後、同社を退社しましたが、労働組合が立ち上げた会社であることに惹かれ秋保交通に入社しました。そのときの気持ちは、「あまたのタクシー会社が己の利潤追求のみに走り、劣悪な労働条件を労働者に押し付け憚らない現状をなんとかしたい、国と大企業の都合で労働者をさらに劣悪な生活水準に落とし込む体制に一矢報いたい」。言ってみれば「階級的怒り」だったかもしれません。

 

 ―秋保交通初代社長が死去した後、縁があって私が社長就任しました。このとき思っていたのは、「労働者が作った会社にしかできないことをやろう、タクシー業界のイメージを変えよう」でした。

 

 ―まずとりかかったのは、労働を正当に評価するということでした。今でもそうですが、タクシー業ではいったん会社を出ていくと労働時間がいくらあったか、休憩時間をどのくらい取ったか、残業時間がどのくらいあったか、深夜労働の時間はどのくらいだったか等々はつかみづらく、いわゆる「みなし労働」で労働を評価するというのが一般的です。一般的に「賃率」と呼ばれている歩合で、実際の労働とは関係なく、「売上高×賃率」という単純計算で賃金が支払われていました。

 

 ―少し詳しく言うと、仮に賃率53%の歩合給のなかに3%の「残業代」と2%の「深夜割増賃金」、1%の「通勤手当」、ひどいところになると3%くらいの「有給手当」が入っていて有給休暇をとらせないそのうえで労働者は一律同様に働いていると「みなす」というもの。こんなことが許されるのでしょうか。一人ひとりの働き方はそれぞれ違いますし、頑張って働いている労働者はきちんと評価されるべきです。労働の中身を把握するのが困難だから「みなし労働」も仕方ない…。そんなことはありません。時刻をきちんと管理しさえすれば、困難なことは何もありません。

 

 ―弊社では拘束時間、労働時間、休憩時間、深夜割増時間管理、労働の正当な対価として賃金を支給しています。他社では賃率に含まれる通勤費も外に出し、実費で支払っています。子育て世代には、養育手当も支給しています。それでも会社は存在できることを証明し続けています。

 

 ―そんななかで、秋保交通は労働条件のいい会社だと評価が高まってきているのは、私にとってとてもうれしいことです。

 

《タクシーは「ドアtoドア」のサービスが得意な公共交通》

 

 ―ここで少しタクシーをめぐる大きな動きを紹介します。今国会(記事執筆当時)では、道路運送法の改悪が目論まれています。ライドシェア(下表参照)導入の突破口としての位置づけである自家用有償旅客運送法の拡大解釈、改「正」の問題です。ご存知のとおりライドシェアが導入されれば、移動の安全・安心は根本から崩壊します。絶対許してはなりません。

 

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自交総連パンフレット「危険な白タク ライドシェア Q&A」より引用

 

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上記の表と同じパンフレットより引用

 

 ―自家用有償旅客運送が導入された地域は、どういった地域だったでしょうか。鉄道やバス等の公共交通機関が全くなく、タクシー会社もない地域に、やむなく導入されたものです。誤解を恐れずに言えば、タクシー会社すら見捨てた地域ではないかと私は言いたい。

 

 ―私は移動する権利基本的人権の一部を構成していると思っています。だから図体のデカイ公共交通機関たる鉄道やバスに比べ、伸縮自在の面的移動ができ、「ドアtoドア」のサービスが得意なタクシーこそが、こうした交通不便地域で有効に活用されるべきだと考えています。急速な少子高齢化が進行し、運転人口が減少している時代にあって、タクシーの果たすべき役割は、新たな需要とともに高まってきています。

 

 ―もう一つタクシーを取り巻く大きな環境変化があります。IT革命の進行で主に通信情報産業からの業界参入です。「アプリ配車がそれにあたります。ウーバーやディディなどは、日本では一気にライドシェア参入にはいかないとみると、大手タクシー会社と手を結び配車事業切り替えました。そして市場分割をめぐって激しい競争を展開しています。一方、キャッシュレス決済の普及もあり、中小のタクシー事業者の営業利益はIT企業への支払手数料を考えると大きな出費を覚悟しなければなりません。激しい競争のなかで弊社のような零細企業が生き残って行くための基本戦略を考えなければなりません。それは地域におけるタクシーに活躍の場を見出し、他事業者に追従することなく独自の道を歩むこと、新しいIT技術を導入地域に密着した交通を構築することが弊社の生き残る道だと考えています。

 

《新交通、年内にも実証実験住民参加広げて取り組み強化》

 

 ―「会」では、秋保地区の市バスの現状、バス路線から遠隔地に住む方への新しい公共交通機関の提供等が話し合われました。町内1400戸アンケート調査を行い、バスに寄せる住民の意識調査、改善要望、将来の方向などを調査しました。その結果、ダイヤ改善や始発と終着停留所の延長等の要望とともに、新たな公共交通機関の整備が必要な地区があることが明らかになりました。

 

 ―これらの調査結果、住民の要望を仙台市へ伝え、地域交通整備を求めるために、真に地域代表として会の再編をめざしました。新しく秋保旅館組合理事さん、秋保中学校校長先生各町内会長さん、みやぎ商工会秋保支部さんなどに加わっていただき、新しい「秋保地区の交通を考える会」として発足しました。

 

 ―会は現在、地域住民の足確保と同時に秋保地区の観光資源を生かすための観光客の足確保という両面で動いています。地域交通整備が秋保の交通だけにとどまらず、経済、文化、教育、観光に貢献するものとして確信しているからです仙台市との交渉も都市整備局を中心に定期的に行っています。仙台市の新制度『みんなで育てる地域交通乗り乗り事業』(2020年4月より)を使い、年内にも実証実験が行われるところまできました。

 

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 ―私はこれを機に会を辞退しようと思っています。というのも、関係者から実際の運行事業者選定をめぐって「利益誘導とみられるのがイヤだからです。後は相談役くらいはして行きますが。

 

 ―タクシーは、その特性から地域交通の要となりうるし、地域の経済、文化、教育、観光を育てる大切な移動手段であり資源だと思います。その資源を守り育て、新しい技術を添えて次の代に引き渡すことができれば、東北の一地方でタクシーが新しい役割を担っているという証左になるかもしれません。

 

 ―コロナ禍の影響秋保温泉ではホテル旅館の大半が営業を取りやめています。通常の営業も特に夜間の国分町を中心にガタ減りです。4月に入ってからタクシーの売上は対前年比でわずか38%。弊社開業以来最大の危機と捉えています。

 

 ―企業存続のため雇用調整助成金制度を活用するなど対策に取り組んでいるところですが、前年の雇用保険確定額から導き出された平均賃金額の60%から100%の支給額に対する90%の助成ですから、労働者にも事業者にも厳しい内容です。あらかたの事業者では60%の支給率を採用するようですが、弊社では70%で労使協定を結びました。ほんのわずかしか支給できず、申し訳なく思っています。それにつけ、日本という国はどうしてこんなに冷たいのでしょうか。このままでは、一企業がつぶれるのではなく社会全体がつぶれてしまいます。移動を制限するのであれば、それにともなうあらゆる産業に補償をセットで付けるべきです。意地でも存続をはかります

 

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 【別稿】秋保交通労組のたたかいの経過 秋保交通労組の前身は、自交総連宮城地連「秋保温泉タクシー労働組合」です。

 

 小泉政権によるタクシー規制緩和が強行され、仙台市内ではタクシー車両が増大し営業収入の落ち込みが社会問題化しました。当時の経営者(秋保温泉タクシー)は1999年、労使合意していた年末一時金の不支給を掲示したため裁判闘争に発展。地裁・高裁で組合側が勝利し、会社側は最高裁まで上告しましたが却下。その後、5年かけて組合が全面勝利。この間、経営者側は交渉の中で秋保温泉営業所の廃止を通告してきました。

 

 執行部で議論した結果、廃止したら秋保地域の人たちが不便になる、裁判で勝ってもこの経営者の顔を見ながら仕事するのは嫌だ、等の意見が出るなか宮城地連より「組合で経営する自主経営会社の道もあるよ」と提案され、裁判闘争と合せて自主経営会社を立ち上げる準備に掛かりました。

 

 2003年9月、秋保温泉タクシー労組は第37回定期大会で「自主経営会社設立」を決めました。

 

 2004年3月6日、秋保交通社員総会(組合員が会社設立資金を持ち寄り)、3月9日に臨時大会を開き「秋保交通労働組合」に名称変更後、私保交通として営業車の出発式を行ないました。

 

 2004年9月26日、秋保交通労組は第38回定期大会に引続いて、「年末一時金支払請求事件、勝利判報告集会」を開催、現在に至ります。

秋保交通労組 執行委員長 東海林銀次(記)

 

 

 

( 月刊全労連2020年7月号掲載 )

 

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