月刊全労連・全労連新聞 編集部

主に全労連の月刊誌「月刊全労連」、月刊紙「全労連新聞」の記事を紹介していきます。

大きな注目を集めているマイナ保険証問題。政府がいう「様々なメリット」って実際のところどうなの? 「なりすまし受診」が横行してるから本人確認のために必要っていうツイートを目にしたんだけど? 10万7000人の医師・歯科医師を会員にもつ保団連による記事をご覧ください。※オンライン署名リンク付きです

 政府は、2024年秋までに現行の保険証を廃止し、マイナンバーカードと一体化した形に切り替える方針を示した。保険証を廃止するための下準備として、医療機関では、23年4月までに「オンライン資格確認」(本人確認をマイナンバーカードで顔認証付きカードリーダーを使ってオンラインにて行う)の導入義務化が強行された。全国保険医団体連合会(略称:保団連)は10万7000人の医師・歯科医師を会員に持ち、社会保障充実のために活動している団体だ。医療機関の立場から、「保険証廃止」による医療機関の現場での懸念や患者さんへの影響などを考えながら、「保険証廃止」がどういうことなのか、政府の狙いなどについて考えていきたい。

 

マイナンバーカードがないと医療機関にかかれなくなる─公的医療保険から遠ざかる

 

 現在、私たちは保険証で医療機関を受診している。しかし、政府が「保険証廃止」を強引に進めると、2024年の秋以降は医療機関を原則マイナンバーカードで受診することになる。医療機関では、オンライン資格確認の導入(図1参照)が医師・歯科医師の大きな反対の声を無視し、強引に進められている。オンライン資格確認の導入義務化をきっかけに、60歳以上の高齢の医師・歯科医師を中心に1割前後が閉院・廃院を検討するとしている(愛知県、神奈川県、大阪府の各保険医協会調査)。医療機関が「義務化は不要」と判断しているものが強制され、地域を熟知したベテランの医師・歯科医師の閉院・廃業が促進される本末転倒な状況だ。地域医療への大きな影響が懸念される。

 

 

図1 オンライン資格確認とオンライン資格確認等システム

(出所)「オンライン資格確認の導入で事務コストの削減とより良い医療の提供を~データヘルスの基盤として~」、令和5年4月時点更新、厚生労働省保険局(https://www.mhlw.go.jp/content/10200000/001085572.pdf)

 

保険証の資格確認で何も問題は起こっていない─マイナンバーカードでの受診が困難な方も

 

 現在、医療機関では保険証での受診で何もトラブルは発生していない。保団連が実施した実態調査(調査期間:2022年10月14日~11月20日、回答数8707件)では、保険証の原則廃止に65%の会員が反対している。一方で、オンライン資格確認を導入した医療機関では、トラブルが相次いでいる。先述の調査で、システム運用を開始した医療機関の41%が「トラブル・不具合があった」と回答している(図2)(※編集部注 最新の調査では、その数はさらに増えています)。その内容として、41%が「カードリーダーの不具合」を挙げている。医療現場からは、「事務作業が増え、窓口は大混乱になる。保険証なら目視で確認出来る」などの声が寄せられている。

 

図2

 


 

 マイナンバーカードでの受診が難しい方も多くいる。例えば、認知症や障害を持つ人などはマイナンバーカードを取得、管理することが困難だ。患者団体や高齢者などからは、「マイナンバーカードの暗証番号を覚えておくことは困難。暗証番号のメモをカードに書いてしまう人も出てくるなど、セキュリティ面で不安」、「マイナンバーカードを取得するために本人が申請窓口に行く必要があるため、遠くの申請窓口まで車いすが必要な本人を連れて行き、手続きをするのは困難」など、カードの申請や取得の時点で大きな支障が出ている。

 

マイナンバーカードで受診した方が便利なのか─政府の言うメリットは本当か

 

 医療機関マイナンバーカードで受診した際の様々なメリット厚労省から提示されている。例えば、患者さんの医療情報が受診した医療機関で把握できるため、医療機関が持病などを把握した上で治療出来るとしている。しかし、今でも医療機関では問診や「おくすり手帳」で患者さんの状況を把握している。むしろ、患者さんからは、自分の知られたくない病歴や個人情報の流出が心配だという声が寄せられている。また、前述したシステムエラーの問題をはじめ、高齢者がマイナンバーカードを医療機関に忘れたり、失くしたりするなどして、混乱が生じる可能性がある。大規模なシステム障害や災害時には、資格確認が出来ず、大混乱することも危惧される。


 他人の保険証を流用した「なりすまし受診」が横行しており、顔認証するマイナンバーカードの受診を進めるべきとの声が聞かれるが、これまで保険証の目視による資格確認において、「なりすまし受診」の横行などは報告されていない。医療機関で患者の「本人確認」が追加で必要だと判断した場合、写真付き身分証の提示を求めることもでき、必要に応じて医療現場では確認を行っている


 このようなことから、マイナンバーカードの保険証利用は、メリットが感じられない。何も問題ない医療機関での保険証での受診や資格確認を廃止し、政府が強引にマイナンバーカードでの受診に変更しようとしているのは、マイナンバーカードの普及が進まない状況を打開するための苦肉の策と言わざるを得ない。

 

なぜ国は「保険証廃止」、マイナンバーカードの普及を進めるのか

 

 政府の狙いは、患者負担増と、医療・社会保障費の抑制だ。マイナンバー制度の利用範囲(紐づける情報範囲)を広げて、医療や介護の負担増が進められる可能性がある。例えば、金融資産(貯金など)に応じて高齢者の医療費窓口負担を変えるという負担増計画がある。金融口座をマイナンバーと紐づけることで、このような負担増の議論が一気に進む可能性もある。将来的には、個人の医療・介護・税金・年金などあらゆる個人情報が芋づる式につなげられ、個人・家計レベルにおいて、負担と給付に係る情報が詳細に把握できるようになる。このような情報を活用し、個人が負担する税・保険料の範囲内に給付を抑える、国民皆保険制度の民間保険化なども懸念されている。


 そもそもマイナンバーカードの取得は任意だったはずだ。マイナンバーカードの普及を進めるために、生活に必須な保険証を人質に取り、マイナンバーカードの取得を実質的に強制することは許されない。私たちが安心して医療にかかるため、地域医療を守るため、「保険証廃止」に反対の声を一緒に大きくして行こう!

 

全国保険医団体連合会事務局主査 曽根 貴子

 

【オンライン署名】保団連などがよびかけている署名のリンクはこちらです。ぜひご署名をお願いします。キャンペーン · 現行の健康保険証を残してください · Change.org

 

※当該記事は2023年4月号(2023年4月15日発行)に掲載されたものを月刊全労連編集部が編集して掲載しています。

 

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