月刊全労連・全労連新聞 編集部

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除染作業の未払い賃金を支払うようにと事務所に行くと、そこに待ち構えていたのはその筋の人たちだった…。こんなとき #労働組合ができること は? 福島県労連労働相談センター所長 川村 滋道

 

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 福島県労連で労働相談を担当して12年が経過した。福島県労連労働相談センターは、私を含め4人のスタッフで毎日交代しながら、相談に対応している。センターには毎年200件前後の相談が寄せられている。これまで、たくさんの相談に対応してきたが、印象に残っている事例を紹介したい。


 一つは除染労働者だ。2011年3月の東京電力福島第一原発事故をうけ、放射性物質で汚染された土壌等を取り除く除染作業が開始された。除染作業には全国から多くの労働者が、雇用契約書を交わさずに口約束で集まってきた(集められてきた)。当然のごとく、賃金未払い、危険手当不払い、パワハラ、雇い止め等々労働基準法違反が続出した。センターにも相談が相次いだため、私たちは除染労働者110番を開設した。マスコミにも取り上げられた結果、毎日相談が寄せられ、この年は例年の倍以上の相談件数となった。


 その中で、賃金未払いの労働者といっしょに事務所に出かけ未払い賃金を回収できたことが印象に残っている。事務所に行くと、スキンヘッドのいかつい男たちがゴロゴロしていた。「県労連だ。未払い賃金をもらいに来た」と告げると、責任者と思われる男がジロリとにらんで、「おう、よく来たな。お前は『連合』か」と聞くので、「いや、全労連だ」と言うと、「そうか、それなら払うか。お前らの弁護士は優秀だからな」と謎のような問答で、紙封筒に入った金を渡してくれた。念のため、こちらで用意した領収証を渡したところ、「我々下請けが被害にあったら、お前らは相談に乗ってくれるか」と問うので、「経営者の相談は無理でも、労働者の相談は受ける」と言うと、「そん時にゃよろしくな」と、今までと違う態度で送り出してくれた。玄関を出た時には脇の下に汗をかいていた

 労働者からは「一人ではとても無理だった。県労連さん、本当にありがとうございます」と感謝された。

 

 もう一つは、長時間労働で、精神疾患を発症した労働者に対して、会社に最低限の責任をとらせたことだ。この労働者は他の人たちが退職、休職する中でも、「仕事に穴を開けるわけにはいかない」と一人でがんばってきた。毎月、過労死ラインを超える残業を続けていたところ、ある日心身ともに悲鳴を上げた。労働者が「有給休暇をとって休みたい」と申し出たところ、突然、会社は懲戒解雇を言い渡した。相談をうけた私たちはすぐに労働組合に加入してもらい、団体交渉を行い、懲戒解雇を撤回させた。そして、労働時間を詳しく聞き取り、労働基準監督署労災を申請。労働基準監督署は労災を認めた。私たちはこの決定をふまえ、会社に団体交渉を求めたが、会社が団体交渉を拒否し続けたため、時間外労働の支払いと労災めぐる損害賠償等を求める裁判を提訴。同時に県労働委員会に不当労働行為の救済申し立てを行った。

 

 県労働委員会は団交応諾義務を認める決定を出したが、会社は不服として決定の取り消しを求めて提訴した。その後の詳しい経過は省略するが、いずれの訴えも、労働者、労働組合勝利の判決が出された。この判決をうけ、会社はとうとう団体交渉に応じ、私たちがねばりづよく求めてきた当事者能力をもった役員が出席する中で合意をかちとることができた。裁判で決着する事案が多い中、団体交渉で解決できたことは意義深いものだった。これからも相談者に寄り添い、相談活動を行いたい。

 

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