月刊全労連・全労連新聞 編集部

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【緊急告発】帰ってきた「#裁量労働制の拡大」あの悪夢が再び?!  データ改ざんがバレて葬られたはずの、あの「裁量労働制の拡大」を、国会の審議なしで年末にこっそり復活させようという企みが進行中!#裁量労働制の拡大に反対

 みなさんは覚えているでしょうか? 2018年の安倍政権下で働き方改革関連法案」の名のもとに国会で審議されていたものの、「裁量労働制で働く人たちの労働時間の長さは、一般労働者の平均より短い」という政府が示していたデータが、なんと改ざんされた嘘データであることがバレてしまい、法案から削除された裁量労働制の拡大」(別名:定額働かせ放題)のことを。

 

「そんな前のことはもう忘れちゃったよ」という方も多いのではないかと思いますので、簡単に解説します。

 

 裁量労働制というのは、「労働時間が長くても短くても、実際に働いた時間に関係なく『契約した労働時間分を働いた』ことにする」という制度です。ということは、どれだけ業務が忙しくて長時間の残業をしなければならなくなったとしても、決められた労働時間分=「みなし労働時間」の給料しかもらえない、ということになります。

 これが裁量労働制」が別名:定額働かせ放題と呼ばれるゆえんなのです。どれだけ長時間働かせても給料は契約額だけ支払えばよいということになるので、経営者にとっては「夢のような制度」であるといえます。

 

 こうした裁量労働制についての懸念は、なにも根拠なくいっているのではありません。厚労省が実施した「裁量労働制実態調査」(2021年6月25日)によると…

 

1. 長時間労働について

 「みなし労働時間」が何時間であるかを認識していない裁量労働制で働く労働者が、3割~4割もいます。そして、裁量労働制で働いている労働者の労働時間は、同種の業務のほかの労働者よりも週平均で2時間長く、深夜労働や持ち帰り残業の頻度が高く過労死ラインで働く人が14%(非適用者は9%弱)という結果が出ています。

 

2.裁量労働制の「裁量」について

 同じ調査で「仕事の内容・量」を「管理監督者が決めている」ケースが3割前後、「管理監督者の意向をふまえ労働者が決めている」ケースが4割前後という結果がでています。

 つまり、裁量労働制」なのに、業務の期限や内容・量を自分の裁量で決めることができない労働者がそれだけいるのです。したがって、上司や取引先によって短い納期が設定されたり、過重な業務が与えられたりすれば、長時間労働になるのは当たり前といえます。

 

 

 そしてここからが本題です。実は今、年の瀬がさしせまったこのタイミングで、裁量労働制の対象となる業務を増やす検討が急速に進められています。しかも、前述の2018年の国会審議でコテンパンにやられた記憶があるからなのか、それとも、上記の厚労省調査の結果がかんばしくなかったからなのか、なんと法律そのものに手を加えず、国会審議をしないで厚生労働省令の改正(現行法の「解釈」の変更)によって、年内に無理やり押し通そうとしているのです!

 

 その検討が行われている労働政策審議会労政審)労働条件分科会において、「裁量労働制の対象業務に追加すべき」と使用者側委員が主張しているのは、以下の業務です。

 

https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/001010072.pdf (第182回労働条件分科会資料No.2-1より)

 

 12月13日には主に金融機関での業務について議論されました。かいつまんでその内容を説明すると

 

使用者側委員:労働者が自分のペースで進める高度な専門的業務なので、基本的には新卒社員が配属されることはないし、一般的には長時間になっていないと考える。

 

という主張です。

 しかし、上記の条件に当てはまるかどうかは、すべて経営者が判断します。高度な専門的業務といっても、資格が必要な業務ではないので、会社にやれと言われたら労働者はやらざるを得なくなるのです。対象は「銀行」「証券会社」ですが、「仲介企業」、「コンサル企業」などに同様の業務があった場合、なし崩し的に広がる可能性もあります。

 

 また、生産ラインや人事部門のPDCA(企画・試行・チェック・実施)を回す業務」については、現行の企画業務型の法規定(労基法28条の4)の解釈で導入可能という考えが出されました。製造業の生産ラインでも、人事・総務でも営業でも、いわゆるPDCAは実践されていますから、これだと各企業の判断で多くの業務が裁量労働制の対象にしてもよいということになります。

 

 実質的に「裁量」が失われた場合には、裁量労働制の適用を解除すればよいとも言っているのですが、そもそも厚労省の調査で「裁量労働制なのに、業務の期限や内容・量を自分の裁量で決めることができない労働者」が少なくないことが明らかになっているので、説得力に欠けると言わざるを得ません。

 その上、「労働者本人の判断で裁量労働制からの離脱が可能というけれど、実際に機能するのか」といった、具体的な運用の場面を想定した問題が議論されていないのです。

 学校の先生たちは、たとえ本人がやりたくなくとも、部活動の顧問を自主的に引き受けているということにされているという話を聞いたことがありませんか? 実質的な歯止めがなければ、本人の意思に反することを「労働者本人の判断」とすることは、形の上ではいくらでもできるのです。

 

 「業務量が過剰な場合は、裁量労働制は適用できない」などの議論もなされていますが、これも歯止めがあるとは言えません。裁量労働制で働く労働者の場合には、労災の適用も難しくなる可能性があります。

 

 こんな重大なことを、防衛費や増税の問題が世間を騒がせている間に、国会での審議も法律の改正もせずに、こっそりと決めて進めてしまおうというのでしょうか?

 このあまりに拙速で乱暴な動きがあることを緊急で告発し、力ずくで裁量労働制の拡大を進めようとしていることに、全労連は強く抗議し、反対することをここに表明します。