月刊全労連・全労連新聞 編集部

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【書評】地下アイドルという〝働き方〟 「地下アイドルの法律相談」評者 清岡 弘一 (全労連副議長)

自分の身を守るためにパート、アルバイト、フリーランスで働く人にも読んでほしい一冊

 

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 本書は自由法曹団、労働弁護団に所属する、労働組合と大変近いところにいる旬報法律事務所の深井剛志弁護士、地下アイドル活動を10年おこなってきたライターの姫乃たまさん、漫画家の西島大介さんの共著である。

 

 「地下アイドル」とは、地上波、つまりテレビなどに登場する一握りのアイドルと対比して、ライブを中心に活動しているアイドルのことを呼ぶ。主な収入源はライブ会場での物販だ。単独では集客が少ないため1回のライブに数組のアイドルが15~30分程度のステージに交代で出演し(これを「対バン」という)、終演後1時間かけてCDや各種グッズチェキを販売する。この売り上げの一部がアイドルの主要な収入源になる。コロナで現在激減しているが、もともと地下アイドルのライブ回数はとても多い。それ以外でもTwitterやインスタグラム、ブログ、noteなど各種SNSによる発信は新規ファン獲得のためには欠かせない。レッスンや取材やレコーディングもあるため、地下アイドルはとても忙しい。しかしこれだけの活動をしていても、地下アイドルの収入はとても少ない。本書はアイドルの契約の多くが完全歩合の「業務委託契約」になっていることと、極めて事務所側に有利な契約になっている実態があることによる、と述べている。

 

《やりがい搾取の典型

 

 当事者は未成年も多く雇用労働契約業務委託契約の違いも知らないまま、「アイドルになれる」という夢が目の前で実現しようとしていることに付け込まれ契約させられてしまう。きちんとした説明をおこなわず不当な条件や低廉な報酬を飲ませ、不条理な禁止事項や制限事項を盛り込み、さらに専属契約により自由な活動を制限するような契約も多い。いわゆる「やりがい搾取」の典型だ。

 

 その結果、報酬未払い不本意な仕事の強要ハラスメント、またストーカー被害に遭っても事務所がまともに対応しないなどの問題が時として浮き彫りになる。メンタル不全自殺に追い込まれる例もある。本人の夢を壊し、命や健康を害するような働かせ方であっていいはずがない。まさに人権にかかわる問題である。

 

 その根底には、将来必ず必要になるはずである働くルールに関して、若い時に全く学ぶ機会がないという問題がある。これはアイドルに限ったことではない。賃金・報酬の未払い、体調が悪く休むと法外な「違約金」を取る、仕事を辞めたくても辞めさせてもらえない、といった事例は労働組合への相談として少なからず寄せられている。そうした意味で本書はパート、アルバイトやフリーランサーにも十分に当てはまるものであり、当事者が理解できるようにQ&A方式でとても平易な文章で書かれているので、ぜひこれらの人たちにも読んでほしい。経営者との関係で圧倒的に弱い立場にいる人たちが、自ら身を守るための術を学ぶことができる本である。

 

労働組合に相談してください》

 

 ひとつだけ残念なのは、労働組合について一言も触れられていないことだ。働くことで困ったときに相談できる存在として、もっと労働組合が身近になれるようにしなければいけないな、と自戒の念を持ったものである。深井先生、ぜひ「労働組合もありますよ」と紹介してくださいね。

 ちなみに全労連ではフリーダイヤルで労働相談を受け付けています。平日10時~17時でご相談いただけます。またメールでの相談も可能です。ぜひお気軽にご相談ください。→ 全労連|労働相談ホットライン【フリーダイヤルはおかけになった地域の労働相談センターにつながります。】 (zenroren.gr.jp)

 

「地下アイドルの法律相談」

深井剛志・姫乃たま・西島大介 共著

日本加除出版/2020年7月発行/

1600円(税別)

ご購入は→ 地下アイドルの法律相談 | 日本加除出版 (kajo.co.jp)

 

( 月刊全労連2021年4月号掲載 )

 

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