月刊全労連・全労連新聞 編集部

主に全労連の月刊誌「月刊全労連」、月刊紙「全労連新聞」の記事を紹介していきます。

ついにアマゾンで労働組合結成!相次ぐアメリカでの労組結成の動きについての解説 全労連事務局次長 布施 恵輔

 4月1日、米ニューヨーク市のスタテン島にあるアマゾンの配送センターで交渉権のある労働組合が結成されました。米国のアマゾンで初めての労働組合結成です。今回の労働組合認証選挙の結果は、米国の労働組合運動の歴史的転換点となるのではないかと言われています。


 米国では各地でスターバックスでの組織化が相次いでおり大学院生講師の労働組合結成も続いています。このような組織化の背景に何があるのか、アマゾンのケースを見ながら考えます。


全米初、アマゾンでの労組結成


 4月1日の認証選挙は、ニューヨーク市南部のスタテン島にあるJFK8と呼ばれる配送センターで行われました。アマゾンは物流拠点、配送を行う拠点をFulfilment Centerと呼び、全米各地に存在しています。およそ1年前、21年4月に南部のアラバマ州ベッセマーでの組合認証選挙では組合結成は否決されていました。アマゾンの徹底的な労働組合攻撃が主な原因です。


 米国では協約交渉が可能な労働組合は、使用者がそれを認めるか、全国労使関係委員会(NLRB)の管理のもとで行われる認証選挙で過半数の賛成票を獲得する必要があります。労働組合自体は少数でも活動はできますが、認証選挙を経て交渉権を獲得することで、交渉単位全員を代表して使用者側と排他的交渉権を獲得することができ、職場で大きな力を持つことができます。しかし、アマゾンやスターバックスのような大企業ほど、労働組合潰しを弁護士やコンサルタントを雇って行ってきます。そしてNLRBの規則や投票の運用も、使用者に有利なものが多く、概して労働組合にとって不利です。


 今回のアマゾンの労働組合結成は、組合妨害を徹底的に行なっている大企業での結成となり、全米の労働者を励ましています。


妨害を跳ね返しての勝利


 今回のアマゾンの配送センター組織化は、上部組織を持たないアマゾン労働組合(ALU)によって成功に導かれました。ALUは2020年に、同センターで新型コロナウイルス対策が不十分で危険だと職場放棄を組織したクリスチャン・スモールズさんが委員長になって結成された労働組合です。スモールズ委員長は、職場放棄を理由に解雇されていましたが、その後組合結成に取り組んできました。認証選挙では結成賛成2654票、反対2131票で、523票差は事前の激しい組合攻撃からすれば、予想以上の差になりました。ちなみに、2021年にアマゾンが組合結成妨害に投じたのは430万ドル(約5億5240万円)とされています。

ALUの組合ポスター「団結すれば、変化が起きる」


 JFK8では、多言語の移民労働者が多く働いており、労働者の離職率も高く、スモールズさんのように何か会社に抗議すればすぐに解雇されるという環境でした。米国のアマゾンでの組合組織化は困難とされていましたが、今回多くの青年が組織化キャンペーンに参加しています。このことはスターバックスで進んでいる組織化とも共通しており、従来の全国組合主導型の組織化とは異なっているという指摘もあります。


青年が立ち上がる背景

 

 ここ数年政治的な背景が大きく変わりました。労働組合を積極的に支援することを打ち出したバーニー・サンダース上院議員が大統領選予備選挙で活躍しました。人種差別に反対するブラック・ライブズ・マター(BLM)運動、サンダースキャンペーンに刺激されて急速に広がった米民主的社会主義者(DSA)に参加している青年たちが、労働組合の結成に積極的に参加し、運動しているのです。最近のこれらの労働組合組織化キャンペーンで、ベテランの組織オルグ主導というケースはむしろまれと言えます。
 

 青年労働者自身が結びつき、労働組合について労働者一人ひとりに職場や近隣のコーヒーショップなどで対話を組織していく。この組織化の基本中の基本に取り組んできたのです。組織化に参加する仲間を増やし、最終的にはほぼ正確に認証選挙での票も読めているといいます。米国でキャンペーン型の組織化モデルが、さまざまな形態で社会運動、労働運動の中で共有され、多くの青年労働者にも共有されていることが大きいと思います。

 

一時の熱狂ではすまない

 

 しかし日本でも一部の報道で見られますが、青年の「労組起業家」が組織化の中心であるかのように、これまでの運動の蓄積と切り離された動きとみるのは早計です。今回の組織化の成功はさまざまなメディアで報道され、米国労働運動の大きな転機となる可能性を秘めているだけに、今後もさまざまな分析や評価がされると思います。そのことを前提に、現在までに分かっているだけでも、例えば最後の数週間、米国の民間企業の組織化を成功させてきたジーン・ブラスキンというベテランオルガナイザーが、ALUに集中的にアドバイスをしていたとされています。またホテル・レストラン労組(UNITE-HERE)もオルグを派遣し、運輸物流労働者を組織するチームスターズも今後の組織化での支援を申し出ています。「新しい」キャンペーンと単純には評価できません。
 

 そして、JFK8の組織化は偉大な一歩であると同時に、直ちにJFK8のすぐ隣のLDJ5、DYY6という別の配送センターでも組織化キャンペーンが開始されています。全米各地のアマゾンの施設に運動を広げることができるかによって、この運動が一過性のものではないということが証明されるのだと思います。

今回勝利したJFK8に続き、組織化キャンペーンがすすむDYY6に貼られた多言語の組合ポスター


キャンペーン勝利とこれから


 スターバックスの組織化では、ニューヨーク州バッファローで21年12月に最初の組合認証選挙の勝利があって以降、4月25日の時点までに組合認証選挙が32店舗で行われ、29で結成賛成が上回っています。大学院生講師の組合も、コロンビア大学や4月に新たに結成されたマサチューセッツ工科大学(MIT)など、各地で結成が続いています。そしてニューヨークのアップルストアでも認証選挙のNLRBへの申請の動きがあります。アマゾンのようなグローバル大企業かつ労働組合敵視の企業での組織化は、労働者を励まします。


 パンデミックの中で、労働に対する考え方が変わり、労働組合の活動にも変化が起きています。今回の組織化でもクラウドファンディングなどの新しい手段が活用されると同時に、組織化のキャンペーンの基本原則は徹底的に追求されていました。1年前投票で負けたアラバマ州労働組合組織率が6%、ニューヨーク州は20%を超えていたことも大きな違いです。これらは既存の労働組合にも変化を与えるでしょう。


 これから最初の協約を結ぶことができるかなど、ALUにはまだ困難が待ち構えています。米国の労働組合運動の新しい組織化の動きに注目すると同時に、日本での運動に生かせること、学ぶべきことを探求していきたいと思います。

 

( 月刊全労連2022年6月号掲載 )

 

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【秋田】労働組合を作ったワケは、対等に経営者と交渉するため。経営者側からの一方的な不利益な条件変更を阻止! 本荘由利森林組合労働組合の場合 #労働組合ができること 秋田県労働組合総連合 労働相談担当 越後屋 建一

組合結成で一方的な不利益変更を跳ね返す 本荘由利森林組合労働組合 地域労連とともに要求実現へ


 労働相談センターを担当して22年、やっと落ち着いて相談を受けられるようになった。「給料日に給料が出ない」「休み明けに出社したら、事務所が空っぽだった」など、単組の経験しかなかった私にとって、「そんな、ばかな…」と思う相談が、次々に入ってくる。いろんな方に助けられ、問題解決にあたり、その中でいくつか労働組合も結成された。地域で元気に活動している組合も少なくない。


 2021年3月、4人の男性が「職場のことで相談がある」と県労連事務所を訪ねてきた。「本荘由利森林組合の方々である。本荘由利森林組合は、鳥海山の麓に広がる「由利本荘市にかほ市」の民有林を管轄とし、約8万ヘクタールを有する県内屈指の森林組合である。相談は「そんなことがいまだにあるのか」というところから始まった。就業規則には一時金は2.5か月と記載。しかし、その通り支払われていない。実績は1ヵ月。理由を尋ねても、「そう決めたから」の返事のみ。加えて賃金表を公務員賃金同様に細分化し、昇給幅を一方的に変更昇給幅は恣意的に決められ、同じ勤務年数で大きな格差が発生していた。行き過ぎと思われる上意下達の職場運営もあって、不満が高まっていた。その改善には労働組合が必要と判断し、最初から「組合を作る、交渉する」ことが前提の相談だった。


学習しながら仲間をふやし、組合結成へ


 それから半年間、職場の問題点を整理し、労働法の基礎を学習し、仲間を増やしながら結成の準備を進めた。最初は男性だけだったが、女性職員が加わると要求討議が活発になり、要求書も厚みを増した


 組合は上部団体を持たないが、地域労連に加盟。地域労連の支援を継続的に受けながら活動する体制を取った。9月14日、結成大会で確認した要求書を結成通知とともに森林組合長に提出。その時、対象の90%が組合に加入していた。組合長・理事会は、組合結成は受け入れたものの、要求への回答は「弁護士と相談している」などと引き延ばしてきた。労働組合側は短気を起こすことなく、経営側に粘り強く回答を迫り、その間に仲間を増やした。現場職員の蜂アレルギー検査実施などの要求は、回答がなくても業務的に改善させたやっと回答が出た12月28日には、ほぼ100%の組織率となった。

本荘由利森林組合労働組合の結成大会の様子


 22年春闘の時期と重なってきたことから、地域労連も組織を挙げて要求実現に向けた支援体制をとることにしている。菊地執行委員長は「組合結成後の活動は、私たちにとって未知数。たくさんの困難があると思うが、これからも地域労連の方々の力を借りて前に進んで行きたい」と力強く抱負を述べている。農林水産業秋田県の基幹産業地域経済の活性化の活動を研究し、提言する県労連にとって専門家集団が仲間になったことは喜びが大きい。地域労連も活性化している。これを教訓に、相談と組織化を続けていきたい。

 

( 月刊全労連2022年3月号掲載 )

 

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非正規労働者の契約更新時に、弱みに付け込んで酷い労働条件に変えようとする経営者が増えています。これはその一例。もしもあなたの身に起こったら…私たちにご相談ください。#職場の悩み全労連が聞きます

労働相談から見える非正規労働者の実態

長野県労連事務局次長 岩谷 元気



 春闘まっ只中のある日。朝イチでメールチェックをすると、年齢、性別などプロフィールが不明な相談メールが入っていた。内容も抽象的でよくわからない。文面から相談者の混乱ぶりが伝わってきた。

 

コロナ禍の非正規労働者


 その後返信がありメールをやり取りするうちに、相談者について以下のことが分かってきた。


•多店舗展開する全国チェーンの非正規労働者
•家庭との両立のため自宅近くの店舗でパート勤務
•困難は多いものの、現在の働き方でなんとか生活は成り立っている


 コロナ第1波から1年が過ぎ、各社がコロナ対応を進める中で、相談者の勤務先が打ち出した対応は、非正規の所定時間短縮、勤務地を広域化し複数店勤務とするなど、「少ない人員をより都合よく使う」というものであった。


 前述の通り、相談者は現在の働き方が少しでも変わると、生活が崩壊してしまう状況にあり、日によって勤務地、労働時間が変わる労働条件は受け入れられるものではなかった。契約更新を前に提示された契約変更を拒否できないかと方法を探し、全労連HP(全労連|労働相談ホットライン【フリーダイヤルはおかけになった地域の労働相談センターにつながります。】 (zenroren.gr.jp))にたどり着き、相談に至った。


 契約更新が目前に迫っていることもあり、会社を刺激しないよう、最初は後方支援という形で関わることになった。相談者は半年契約であったが、5年以上勤務しているため、契約変更を拒否することは法的には可能だった。しかし契約更新時の変更ということもあり、拒否を理由に雇い止めを通告される恐れもあった。そこで契約変更の拒否と無期転換の申し入れを同時に行うこととした。相談者には、以下の手順で進めるよう助言した。


•口頭のみでの協議はせず、新しい契約内容が書面で提示されるまで協議には応じないこと。
•書面が提示されたら、不利益部分と契約期間に取り消し線を引いて提出すること。
•その後、会社から再提出を求められても、新契約の発効日までは一切応じないこと。


 相談者は助言の通り実行し労働条件の維持に成功したが会社の圧力は予想を超えるレベルだった。

 

想像を絶する非正規差別


 法的な手続きを踏んだ申し入れにもかかわらず、相談者の上司はその効力を認めず、繰り返し契約書の再提出を求めてきた。その回数は、申し入れ後の1ヵ月間になんと4回。相談者の主張を受け入れる素振りを見せながら、書面の内容は変えない。根拠のない法律論を持ち出すなど、なり振り構わず圧力をかけてきた(写真はその時に送られてきたメール)。相談者は会社初の無期転換で、自分の担当部署から出したくないという、ある管理職の意向が強く働いたようだ。非正規と社畜正社員で成り立つ、多店舗展開ビジネスの深い闇を見た一件だった。

上司からの圧力(実際のやりとりのスクショ)

 

 今回の相談を通して無期転換について詳細な情報を得ることができた。労働相談には未組織職場の実態把握という役割もある。組織拡大という成果につながらない相談でも、継続的な関係をつくることで得られるものもある。荷は重いが降ろしてはいけないと思う。

 

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「コロナで高校生の息子のバイト先から休業指示があったのに、休業支援金が支払われない」という相談が。労働組合が労働局と交渉した結果は? #労働組合ができること おおさか労働相談センター 事務局長 福地 祥夫

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春の労働相談ホットライン


 3月2日の春のホットラインに高校生A君の母親から相談があった。


 友人を誘い近所の居酒屋でアルバイトを始めたが、コロナ感染拡大を理由に「休むよう」店から指示された。二人は連絡を取り合いながら新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金の申請書手続きをしたが「書類不備」で送り返されてきた。休業支援金集中処理センターと連絡を取り書類のやり取りを行う中で、友人にだけ「未成年なので」と親の承諾書が送られてきた。A君には承諾書が同封されていないので問い合わせたが説明はなかった。しかし後になって「親の承諾書が必要」と書類が返された。さらに処理センターから「事業所と確認が取れない」、「申請を取り下げるか」との電話がスマホに入った。A君は申請を諦め、友人をバイトに誘ったことに責任を感じている。
 母親は処理センターの対応に電話で抗議したが「全く聞く気がないような対応、どうすれば良いのか」との内容だ

 

休業支援金・給付金申請に関する労働局交渉


 コロナ関連の休業支援金・給付金では「事業所の協力が得られない」「労働局の対応が悪い」との相談が早い段階から寄せられていた。労働相談センターは1月18日に大阪労働局と交渉を行い、労働契約書や給料明細の発行をしない事業所が多い実態を訴え、事業所が協力しない場合でも「労働者を守るため血の通った取り組みを」と申し入れ、労働局からは「事業主が協力しなくても、シフト表や振込通帳など労働者が提示する資料をもとに、事業所への確認を行い総合的に判断するとの回答があった。

 

A君の問題での労働局交渉


 A君への対応は丁寧とは到底言えない。「親の承諾書が必要」な未成年のスマホに電話を入れ「申請を取り下げるか」というのは申請制限に繋がるとして、A君の母親を伴い労働局と交渉を行った。
 冒頭、A君の母親から経緯を説明。1月18日の回答をもとにA君への対応を抗議。改めて未成年者を含めた申請者への丁寧な説明と対応の徹底と、二人の申請手続きを早急に進めるよう申し入れた
 処理センター室長は対応の不備を認めて謝罪し、その場で書類のチェックを行った。結果、「書類に不備はない」として「処理を進めるよう指示する」、「現場への注意・指導を徹底する」と約束した
 後日A君の母親から「支援金の振り込みがあった」と電話があり、「組合のお陰でここまで来られた、相談して良かった」との感謝の言葉があった。

 

労働組合への信頼から組織化に


 今回は組織化に繋がらなかったが、労働組合に対する信頼は得られたと確信している。労働相談活動の第1は未組織労働者の組織化であり組織拡大である。しかし、今回のように労働組合への信頼を得ることで終わる相談活動も無意味とは思わない。


 「労働局、労働基準監督署ハローワークなどの窓口対応は不適切」とされるが、たとえ組織化につながらない相談であっても、労働者に付き添って行政に掛け合い労働者の要求実現に奮闘している労働組合や相談員は大勢いる。そうした取り組みが労働組合への信頼、そして組織化に繋がると確信し、夢とロマンを持って相談活動を続けたい。A君が将来、不利益な扱いを受けても諦めずに労働組合に相談することを、そして組合加入することを願って。

 

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「妻の同僚が職場でパワハラにあっている。そちらの #労働組合ができること はあるのか?」というストレートな問いに、真正面から答えた結果は? JMITU三多摩地域支部執行委員 杉本 正巳

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 「妻の同僚が職場でパワハラにあっている。いろいろ相談に行ったがうまくいかない。そちらの労働組合はどんなことができるのか」と電話が入った。労働組合は組合員の労働条件全般に対して会社と交渉を行うことができる。会社がこれに応じないことは法律で禁止されていて、パワハラも交渉できる」と説明。すると数日後、介護施設で働く女性から連絡があり、二人の同僚を連れて相談に来た


 相談者の訴えは「パワハラで困っている。18年勤続、当初から常勤を希望するも、非常勤のままとされ、さまざまな嫌がらせを受けてきた。1年半前に無期転換を申し出ると、同僚との間にパーティションを置かれ孤立させられた今、相談者(受付)を現在の勤務部屋からロビーに移動し、さらに孤立させようとしている。血便、睡眠障害、めまいを起こし、心療内科の診療予約をした」というもの。


体を何より大事に、事実を聞き取り、要求書を作成


 組合からは、「まずは、体を最優先すること。医師の診断を受け安静加療の指示があれば休職すること、それまででも、体がきつければ休むこと」を最優先事項として助言した。幸い、相談者は、聞取りに耐えられる状態であったので、12月5日、12日、21日の3日間で聞取りを行い、ハラスメント事実を5W1Hで文書化した。18年に及ぶ出来事の「いつ、どこで、だれが」を特定するには、3人の記憶をすり合わせながらの作業が効果的だった。
 1月にかけて要求書を作成。合わせて、事実と組合の主張を説明する「要求説明書」も作成した。要求説明書では、ハラスメント事実を明らかにするとともに、ロビーへの追い出しを正当化する文書への反論も行った。施設は、今回の処置は、政府発行の「新しい生活様式」の中で「オフィスは広々と」と推奨していることの実践であるとした。「要求説明書」では、他のコロナ対策がおざなりな中、「オフィスは広々と」だけを強調する片手落ちを指摘し、ロビーでの受付業務は、利用者の個人情報・プライバシー保護に逆行する旨の指摘を行った。


回答は要求を否定─しかしパワハラは止まった


 組合加入通知と団体交渉申入れを行う段になったが、施設長がいなければ、パワハラ行為者である副施設長が対応しかねない。1月13日、施設長が在園と確認して来訪。無事、施設長に申入れを行った。
 団交は、コロナ緊急事態宣言が続き開催できず、2月15日に回答書を得たにとどまった。回答書には、受付のロビーへの追い出しを問題ない、パワハラは否定した。しかし、実際にはロビーへの追い出しはなくなり、嫌がらせもなりを潜めていたこれを受けて、組合として、団交はいったん中止し、常勤化要求を中心とした交渉を準備することとした。


組合員拡大─活動参加


 この職場では、仕事の在り方に不満を持つ労働者が多数おり、組合員との対話で加入が進み、現在では8人の組合員となった。それぞれが不満・要求をもっており、丁寧に聞き取りながら、コロナの中、文書団交によって要求の前進を図っている。最初の3人は、組合勧誘や打合せの連絡調整など中心的に活動。支部大会で、新たに会計監査になってもらったり、メーデーに出演したりと活動参加が進み、分会づくりも視野に入れ、支援を続けている。また、相談の中で、入所者やその家族へのぞんざいな扱い、施設の安全性などの問題も提起されており、市議会議員とも連携して対応している。

 

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除染作業の未払い賃金を支払うようにと事務所に行くと、そこに待ち構えていたのはその筋の人たちだった…。こんなとき #労働組合ができること は? 福島県労連労働相談センター所長 川村 滋道

 

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 福島県労連で労働相談を担当して12年が経過した。福島県労連労働相談センターは、私を含め4人のスタッフで毎日交代しながら、相談に対応している。センターには毎年200件前後の相談が寄せられている。これまで、たくさんの相談に対応してきたが、印象に残っている事例を紹介したい。


 一つは除染労働者だ。2011年3月の東京電力福島第一原発事故をうけ、放射性物質で汚染された土壌等を取り除く除染作業が開始された。除染作業には全国から多くの労働者が、雇用契約書を交わさずに口約束で集まってきた(集められてきた)。当然のごとく、賃金未払い、危険手当不払い、パワハラ、雇い止め等々労働基準法違反が続出した。センターにも相談が相次いだため、私たちは除染労働者110番を開設した。マスコミにも取り上げられた結果、毎日相談が寄せられ、この年は例年の倍以上の相談件数となった。


 その中で、賃金未払いの労働者といっしょに事務所に出かけ未払い賃金を回収できたことが印象に残っている。事務所に行くと、スキンヘッドのいかつい男たちがゴロゴロしていた。「県労連だ。未払い賃金をもらいに来た」と告げると、責任者と思われる男がジロリとにらんで、「おう、よく来たな。お前は『連合』か」と聞くので、「いや、全労連だ」と言うと、「そうか、それなら払うか。お前らの弁護士は優秀だからな」と謎のような問答で、紙封筒に入った金を渡してくれた。念のため、こちらで用意した領収証を渡したところ、「我々下請けが被害にあったら、お前らは相談に乗ってくれるか」と問うので、「経営者の相談は無理でも、労働者の相談は受ける」と言うと、「そん時にゃよろしくな」と、今までと違う態度で送り出してくれた。玄関を出た時には脇の下に汗をかいていた

 労働者からは「一人ではとても無理だった。県労連さん、本当にありがとうございます」と感謝された。

 

 もう一つは、長時間労働で、精神疾患を発症した労働者に対して、会社に最低限の責任をとらせたことだ。この労働者は他の人たちが退職、休職する中でも、「仕事に穴を開けるわけにはいかない」と一人でがんばってきた。毎月、過労死ラインを超える残業を続けていたところ、ある日心身ともに悲鳴を上げた。労働者が「有給休暇をとって休みたい」と申し出たところ、突然、会社は懲戒解雇を言い渡した。相談をうけた私たちはすぐに労働組合に加入してもらい、団体交渉を行い、懲戒解雇を撤回させた。そして、労働時間を詳しく聞き取り、労働基準監督署労災を申請。労働基準監督署は労災を認めた。私たちはこの決定をふまえ、会社に団体交渉を求めたが、会社が団体交渉を拒否し続けたため、時間外労働の支払いと労災めぐる損害賠償等を求める裁判を提訴。同時に県労働委員会に不当労働行為の救済申し立てを行った。

 

 県労働委員会は団交応諾義務を認める決定を出したが、会社は不服として決定の取り消しを求めて提訴した。その後の詳しい経過は省略するが、いずれの訴えも、労働者、労働組合勝利の判決が出された。この判決をうけ、会社はとうとう団体交渉に応じ、私たちがねばりづよく求めてきた当事者能力をもった役員が出席する中で合意をかちとることができた。裁判で決着する事案が多い中、団体交渉で解決できたことは意義深いものだった。これからも相談者に寄り添い、相談活動を行いたい。

 

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障がい者雇用労働者が賃上げ求め1日ストライキ! オリンパスサポートメイト分会のたたかい 首都圏青年ユニオン #労働組合ができること

 2021年6月21日に首都圏青年ユニオンオリンパスサポートメイト分会の障がい者雇用組合員が、月額1万円の賃上げを求めてストライキを行った。


 ストライキに入ったのは4人の組合員。事業所の労働者7人のうち4人が組合に加入しており、過半数を組織している状態だ。ストライキの当日には、手取りが14万円という低賃金の実態を社会的に訴えるために、厚生労働省記者会で記者会見も行い、いくつかの新聞でも報道された。

 

「朝食にコッペパンの半分、もう半分を昼食に」


 オリンパスの特例子会社であるオリンパスサポートメイトとは、昨年から本格的に賃上げの交渉を続けてきた。これまで非正規雇用だった組合員の正社員化や、一時金(ボーナス)の創設などを勝ち取っていたが、賃上げについては結果が出せていなかった。そこで、今年の4月からの賃上げについては、絶対に勝ち取ろうと意思統一をしていたのだ。団体交渉を3回ほど行い、会社前宣伝も行ったが、賃上げ2000円という回答を引き出すにとどまり、目標に達しなかったため、ストライキを行うこととなった


 当日は記者会見を昼に行い、夕方に会社前ストライキ集会を行った。集会には40人ほどの支援者が集まり、当事者の組合員ら4人がスピーチ、賃上げ要請行動も行った。スピーチでは、「シャツ1枚買うにもためらってしまう」、「歯医者に行けない」、「恥ずかしながら、親から食糧の支援を受けている」、「借金をしている」、「朝食にコッペパンの半分、もう半分を昼食にとっている」など、生活困窮の実態が語られた。

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社前ストライキにたちあがった組合員のみなさん

最賃労働者のストライキ


 オリンパスサポートメイトで働く障がい者雇用労働者らはフルタイムで月額16万円ほどの給料であり、手取りにすると14万円ほど。オリンパスサポートメイトはオリンパスの特例子会社であり、100%子会社でもある。つまり、大企業グループの一部なのだ。それにも関わらず、従業員らは低賃金で貧困に陥っている。時給換算にすると1168円であり、最低賃金付近の労働者だ。日本の最低賃金が世界的にも低い水準にあることは周知の事実だが、オリンパスの当該組合員のような最低賃金付近の労働者が近年、急速に増加している実態がある。


 今後は、低賃金問題を労働者自身が声を上げて変えていく、そのような動きに繋げていければと考えている。日本社会の貧困・格差の問題の背景には低賃金の問題があり、低賃金とのたたかいは社会を変えていく上での根本的なたたかいである。
 残念ながら、今回のストライキでは目標の賃上げは達成できなかったが、賃上げへの足掛かりはできた。ストライキの経験で組合員の団結も強まり、継続的なたたかいの準備もできている。引き続き、力を入れていきたい。

 

首都圏青年ユニオンHP:首都圏青年ユニオン|労働問題ご相談ください。|日本 (seinen-u.org)

 

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全労連|労働相談ホットライン【フリーダイヤルはおかけになった地域の労働相談センターにつながります。】 (zenroren.gr.jp)

 

( 月刊全労連2021年11月号掲載 )

 

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