月刊全労連・全労連新聞 編集部

主に全労連の月刊誌「月刊全労連」、月刊紙「全労連新聞」の記事を紹介していきます。

【大阪】民間委託され、どんどん職員が雇止めされていく「学童保育」の現状を変えるために。自治労連 守口市学童保育指導員労組 #労働組合ができること

子どもたちのところに戻して!労働者の権利とよりよい学童保育を守るために

自治労連 守口市学童保育指導員労組 

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解雇撤回を求める指導員労組のみなさん

 

 全国で130万人以上の子どもたちが放課後を過ごす学童保育(放課後児童クラブ)。施設数の増加で、指定管理などの民間委託が進んでいる。大阪府守口市では2019年4月に学童保育が民間委託された。自治労連守口市職労の仲間は、委託先の共立メンテナンス団体交渉を申し入れたが一貫して拒否。昨年3月末に13人の指導員を雇い止めした。解雇撤回を求めてたたかう守口学童保育指導員労組の水野直美委員長、中尾光恵書記長に聞いた。

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中労委前で訴える水野委員長(右)と中尾書記長(左)

 

《声を上げた組合員を不当解雇に!!》

 

 大阪市に隣接する人口14万人余りの守口市には、14の小学校に21の児童クラブがある。公設公営長年運営されてきたこれらの児童クラブが、2019年4月から民間委託され、共立メンテナンス一括して受託。移行時に希望する職員は同社の契約社員となり、引き続き指導員として働いてきた。しかし同社は労働組合の団体交渉申し入れを拒否。新型コロナの感染拡大の一斉休校で、全国の学童保育で午前からの開所が迫られるさなかの20年4月に同労組員13人を雇い止めにした。

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共立メンテナンスに解雇撤回を求める要請する要請団(20年12月)

 

 雇い止めされた中尾書記長は「コロナ禍で大変な時になぜ解雇か。子どもたちの安全が心配」と憤る。団交拒否について大阪府労働委員会は19年4月に共立メンテナンスに対し「団体交渉申し入れに応じなければならない」とする救済命令をだした。命令の中では組合敵視の姿勢があることも認定。その後、中労委は即日結審し、現在命令を待っている。不当解雇については大阪地裁に解雇撤回を申し立て、裁判中だ。

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中労委に要請署名を提出(20年11月)

 

《民間委託で保育内容が変わり、保護者とも分断》

 

 中尾書記長は、「民間委託され今まで普通にできたことができなくなった」と言う。子どもたちと一緒に長期休業中に行ってきた手作りクッキングも回数を制限された。おやつは包丁を使っての準備が禁止され、果物の皮をむいて出すこともできなくなった。

 守口市では保護者会が活発で、子どもを真ん中に楽しい学童保育を保護者、指導員が作り上げてきた歴史がある。各クラブでの行事に加え、1000人以上が参加する全市的な運動会やお祭りも開催してきた。委託後は子どもたちのための自主的な行事も規制され、保護者との接触も制限。お祭りが15時までなのに、職員は13時半で勤務終了とし帰宅させ、子どもの安全も考えない会社。

 

《「ただいま」「おかえり」の声が響く、安心できる場に》

 

 保護者の運動が行政を動かしてスタートした学童保育は、今では子どもたちの放課後の居場所として欠かせない存在になっている。学童保育は1997年に法制化され、児童福祉法に根拠をもつ公的な事業となり、2015年には、省令が定められ指導員の資格と配置基準が「従うべき基準」として、面積や子ども集団の規模が「参酌すべき基準」として定められたが、その後「従うべき基準」から参酌化され、自治体独自の基準設定も可能になった。

 水野委員長は「学校と自宅の中間にある学童保育で、子どもたちはいろんな姿を見せてくれる」と言う。どの子も楽しく、安心して過ごせる居場所であるために、頭ごなしに決めつけず子どものしんどさ、背景に寄り添い、自分も指導員として成長してきたと語る。中尾書記長も「場所だけでなく、指導員と友達がいてこその学童保育」と話す。

 

《保護者と指導員が作り上げる学童保育は「宝」》

 

 全国的に民間企業運営前年比144%と大幅増となった(全国学童保育連絡協議会調査。2020年5月1日現在)。利益を上げるために委託費から人件費保育予算を削られ、保育の水準と指導員の労働条件の低下につながる。

 子どもの生活や育つ環境が厳しくなっている中で、子どもが安全に安心して生活でき、子どもの成長・発達を支え、励まし、保護者と連携しながら子育てをする学童保育は、公的な事業として社会的に求められている。

 学童保育の運営形態は自治台ごとに様々だが、労働組合で声を上げる例が増えている。共立メンテナンスによる守口市の学童指導員の不当解雇を撤回させ、指導員が安心して保育に専念できる労働条件、保育条件の確立をめざして支援と運動を広げよう。

 

 

主体性と責任を持った事業展開を 全国学童保育連絡協議会 佐藤 愛子事務局次長

 

 「子どもが好きなら」「子育て経験があれば」、それで十分という認識で指導員を雇用してきた自治体では、国の「新制度」施行後の変化に対応できず、指導員不足が慢性化しても、「自治体内のほかの非正規職員との均衡を考えると学童保育指導員のみの処遇改善はむずかしい」ことを理由に、非正規雇用のまま給与を抑えてきました。また、今年度四月から会計年度任用職員制度への移行に伴い、事業経費を低く抑えるため民間への委託が増えました。実施主体である市町村が学童保育をよりよくしていくために主体性と責任を持って事業を展開することが求められています。

 

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( 全労連新聞 2021年1月15日 第534号掲載 )

 

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【解説】経団連や政府が「副業」や「フリーランス」などの「新しい働き方」をめちゃくちゃおススメしてくるのはなぜか?それにはちゃんと理由があります。全労連雇用労働法制局長 伊藤 圭一

政府・財界推しの「新しい働き方」にひそむワナ 

全労連雇用労働法制局長 伊藤 圭一

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 「ウィズ・コロナ、ポスト・コロナ時代の『新しい働き方』」というフレーズは、政府の成長戦略や経済界の提言にとどまらず、SNSソーシャル・ネットワーキング・サービス)上でもよく目にする。テレワーク副業・兼業フリーランスといった働き方を選択することによって、「多様で柔軟な働き方」が可能となり、労働者の企業定着率も高まる、と宣伝されている。

 

 長く普及しなかったテレワークは、コロナ禍で一気に広がりi)副業・兼業を認める企業も、現在の2割程度から増えつつあるといわれている。自営業者数は減少傾向にあるが、副業としてウーバーイーツのようなフリーランス業の労働者も目立つようになってきた。

 

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『雇用関係によらない働き方』に関する研究会報告書より引用 https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/data/pdf/20170330001-2.pdf

 

 「多様で柔軟な働き方」と聞くと、これまでの「画一的で硬直的な働き方」よりも働きやすくなるのでは?と、好印象をもつ人も多いだろう。あるいは、自らは選択しなくとも、やりたい人はやればいい、と考える人もいるかもしれない。

 しかし、私たちは、キーワードがまとうイメージに惑わされることなく、その影響を過小評価することもなく、日本経団連ii)はじめ、先駆的な経営者たちが実際に何を考え、やろうとしているのかをつかむ必要がある。日本経団連は広報にとどまらず、「新しい働き方」を阻害する労働法や社内のルール、慣行を洗い出し、企業や政府に対する働きかけを活発に行っており、政府はその要請にそった作業を粛々とこなしている。

 

 結論を先取りしていえば、「新しい働き方」には働き方を改悪するワナが仕掛けられており、無警戒でいるのは危険である。それを労働者に知らせ、職場での防御や法制度の改悪を防ぐたたかいを急いで広げたい。

 

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日本経団連「。新成長戦略」

 

《「柔軟な働き方」とは?》

 

 日本経団連の定義によれば、「柔軟な働き方」とは「時間・空間にとらわれない働き方」のことを指す。テレワークによって、特定のオフィスや工場、店舗、現場等でなく、自宅やサテライト・オフィス、カフェ、電車のなかで仕事ができるようになることを、「空間にとらわれない働き方」という。テレワークに馴染まない業務があることは、日本経団連も認めているが、現業系や対人業務系の仕事でも、無理と決めつけず、遠隔操作・遠隔監視技術、リモート商談、モバイルオーダーやキャッシュレス決済といった技術を試みるべきと提案している。一方、「時間の制約」とは、労働基準法をふまえて定められた事業場の所定労働時間や始業・終業時間、時間外・休日労働にかかわる労使協定(36協定)などを指す。「新しい働き方」では、空間的に会社から離れると同時に、労働時間の管理も労働者自らが行うようになり、どこで、どれだけの時間働いたかといったことにはとらわれず、生み出す価値によって評価され、処遇されるようになる、とされる。働くことにおける時間・空間の制約からの自由の発展として、ひとつの企業に縛られることなく、副業・兼業、自営で働くことも奨励されている。

 

《「多様な働き方」とは?》

 

 「多様な働き方」は、「複線的なキャリア形成」と言い換えられている。すでに非正規雇用は4割まで広がり、多様な雇用形態は定着しているが、最近言われ始めているのは、正社員層の多様化・分解である。新卒一括採用、長期雇用慣行、年功序列、多様な職務を経験させる「総合職」を特徴とする「メンバーシップ型」雇用を減らし、「特定の仕事・職務、役割・ポスト」を限定し、適合する人材を中途採用していく「ジョブ型雇用」を増やし、組み合わせていくことが提唱されている。中途採用の増加に反対する労働者はいないと思うが、この施策のコインの裏面には「解雇自由」の促進がある。中途採用の対象となるスキルのある労働者が、求職者として労働市場に存在するためには、「人材流動化」を進める必要があるというわけである。

 

 またその際、求職者が新しい仕事に適合するスキルをもっていなくては話にならないが、「メンバーシップ型」のように企業内で育成するわけではないので、労働者には自己啓発スキルアップキャリア形成や「学びなおし」が求められる。ひとつの企業で通用する固有の技術・技能や知識を深めるだけでなく、様々な企業で就労・就業して経験をつむ(副業・兼業)ことや、リカレント教育を受けることが、「新しい働き方」を実践する労働者の常識とされる。さらに、個々の労働者の学習履歴・職歴・資格等の個人データは、企業が活用できるプラットフォームに整備され、「学びと経験の見える化」がなされることで、人材の円滑な異動が可能になるというのである。

 

働き方改革フェーズⅡ》

 

 要するに、政府と財界がひろげようとしている「多様で柔軟な働き方」とは、労働者にとって働きやすい、生活しやすい状況をつくることを直接の目的とはしておらず、使用者にとって都合のよい働かせ方の選択肢を増やすことが目標とされている。労働時間の把握管理はせず、労働時間管理の責任も労働者に負わせることで、コスト(割増賃金や法定福利費用等)をかけずに、目標達成まで働かせ、必要がなくなれば簡単に解雇もしくは契約解除ができるようにしたいということである。そのため、日本経団連は、労働時間法制や指針、法令解釈を見直し、抜け穴を拡大し、解雇規制を骨抜きにする制度づくりの要求を政府にあげており、政府は粛々とその声に従っている。

 

 こうした「新しい働き方」を進めつつある今の局面を、日本経団連は「働き方改革フェーズⅡ」と呼んでいる。安倍政権時代の働き方改革フェーズⅠ(2018年法改正)では、選挙での労働者の支持獲得のため、まがりなりにも長時間労働の是正、年次有給休暇の取得促進、同一労働同一賃金といった、労働者保護に資する目標が掲げられていた。これに対し、フェーズⅡの目標は「労働者のエンゲージメントの向上により、アウトプットを最大化すること」とされる。エンゲージメントとは、「会社や仕事に主体的に貢献する意欲や姿勢」を意味する。つまり、「時間・空間にとらわれない働き方」をするようになった労働者が、主体的会社や仕事に貢献し、成果・付加価値(アウトプット)を最大化させることが目標というわけである。まさに、経営者のための「働かせ方改革」といえるのではないか。

 

《「働きがい」「働きやすさ」は実現する?》

 

 では、どうやって主体的な働き(エンゲージメント)の向上を実現させようというのか。以前であれば、会社への高い忠誠心・一体感にもとづく長時間・過密労働だったかもしれないが、働き方改革フェーズⅡでは、「働きがい」と「働きやすさ」が重要とされている点に特徴がある。

 

 まず、「働きがい」を高める施策としてあげられているのは

 

  1. 企業理念・事業目的の共有
  2. 自律的・主体的な業務遂行
  3. 自律的なキャリア形成(その支援)
  4. 公正な人事・賃金制度
  5. メンバーシップ型とジョブ型雇用の最適な組み合わせ(自社型雇用システム)

 

である。

 

 そして「働きやすさ」を高める施策としては

 

  1. 場所・時間にとらわれない働き方(テレワーク、フレックスタイム、裁量労働制等)
  2. 外国人、障がい者LGBT等の多様な人材(ダイバーシティ)とその包含(インクルージョン
  3. 安全・安心、健康の確保
  4. 育児・介護・病気治療と仕事の両立支援
  5. AIやロボティクスなどデジタル技術の活用

 

が、あげられている。

 

 「働きがい」と「働きやすさ」を高めるならば、悪い話ではない。しかし上記の施策で、本当に「働きがい」「働きやすさ」が実現できるかといえば、疑問がわく。特に施策において、「自律」が強調されている点に注意しなければならない。事細かに管理者に指示されて受動的に働くより、働き方や業務遂行の方法を自己決定して目標を達成する方が「働きがい」は得られやすく、働く場所や時間が自由であるほうが「働きやすい」こともあるだろう。しかし、後で見るように、日本経団連のいう「自律した働き方」とは、端的に言えば、労働者保護法制に頼らず、会社・使用者に雇用や労働時間の管理責任を問わない働き方である。自宅で労働時間規制を気にせず働くことができるからといって、労使の力関係の差は変わるわけではなく、むしろ、納期内での目標達成を、労働時間規制の制約なしに求められ、労働者はより過酷な状況に陥る可能性が高い。その際の長時間労働自己責任とされてしまう(みなされた所定労働時間内に業務遂行できないのは労働者の能力の問題等とされる)。

 

 結局、日本経団連の描く「新しい働き方」を突き詰めると、以下のようになる。使用者は働き手に対し、目標・納期の共有と、達成した場合の一定の報酬支払いを約束し、目標達成の方法(働き方)は働き手に任せるが、安全と健康の確保、業務遂行にかかる経費は働き手の自己責任・負担とする。これは、労働契約ではなく、請負・業務委託契約で働け、というのに等しい。今回の特集のテーマである「雇用類似の働き方」の中に本稿を置いたのも、「新しい働き方」という切り込み方で、フリーランスを典型労働としかねない経済団体の要求だからである。

 「新しい働き方」の仕掛けに、私たちは敏感である必要がある。以下、施策のいくつかをとりあげ、問題点をみていこう。

 

《テレワークで自律的働き方?~労働時間規制の緩和のワナ》

 

 テレワークは感染防止や通勤時間の解消に役立つことから、労働者の中にも一定の支持がある労働組合としては、一般的な8時間労働規制のもと、客観的方法による労働時間の把握・記録を徹底させ、私生活と仕事との境界を曖昧にしないことや、自宅を就労場所とする経費の使用者負担、プライバシー保護、監視の禁止などの運用ルールを協約化して守らせれば、これを必要とする労働者に対して、一定の「働きやすさ」を保障する施策にもなりえよう。

 

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総務省ホームページより https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/telework/

 

 しかし、経済界がテレワークに求めているのは、労働時間規制を骨抜きにすることである。例えば、「みなし労働時間制」の採用。みなし労働時間制とは、あらかじめ一定時間を働いたものとみなし、実労働時間による管理をせず、未払い残業を多発させる制度である。そのうち「裁量労働制」は、対象業務が限定的で導入手続きもそれなりに厳格なので、違法な導入については行政指導を行いやすい。そこで日本経団連は、その要件緩和・対象業務拡大を求めているが、最近はより手っ取り早く使えそうな「事業場外みなし労働時間制」を普及させようとしている。本来、事業場外みなし労働時間制は、携帯電話のない時代の外回りの営業職のように「労働時間を算定し難いとき」に適用されるもので、テレワークのように端末の回線が常時接続され、メールも携帯電話も使えて上司との連絡も労働時間の算定も容易なケースでは制度の適用は不可能である。しかし、日本経団連テレワーク・ガイドライン改悪iii)して要件を見直すことによって、活用できるようにしようと画策している。

 

 同時に、テレワークでは、事業場での働き方以上に長時間労働となる傾向があることがわかっており、厚生労働省は「テレワークを行う際の時間外・休日・深夜労働の原則禁止」をガイドラインに掲載しているが、これについても、経団連は修正を求めている

 

 さらに、1月に発表した「経営労働政策特別委員会報告」では、「新しい労働時間法制」の採用も求め出した。一定の健康確保を措置し、業務遂行の手段・方法を労働者本人に委ねることを要件として、「働く場所・時間帯をすべて本人に委ねる労働時間法制を実現すべきだというのである。健康確保措置としてあげられているのは、四半期ごとの医師の面接指導、複数月で長時間労働になった場合の除外、労使委員会による就労状況のデータでの確認と改善の審議、健康や仕事の成果についての相談窓口の設置などで、それらを満たした場合、「時間外労働に対する割増賃金支払い義務が免除される法的効果を付与する」べきだという。「高度プロフェッショナル制度」とは異なり、対象者の年収要件などなく、「すべての働き手が適用対象となりうる」というから、その影響は甚大である。採用時に、この制度に合意する人だけ労働契約を結ぶというやり方で、労働者に労働時間規制の適用除外を無理強いすることも可能である。

 日本経団連のいう「働きやすさ」を高める措置には、長時間労働未払い残業の合法化健康破壊につながるネタが大量に仕込まれているのである。

 

《ジョブ型雇用~解雇しやすい雇用創出のワナ》

 

 次に「ジョブ型雇用」についてみておこう。職務を明確にするため、職務分析によって、仕事の内容を具体的に明確にして労働契約を結ぶこと自体は問題はないが、既にふれたように、「ジョブ型雇用」に経済界がこめた狙いについては、注意すべき点が多々ある。

 

 ひとつは、ジョブ型雇用とは別の話であるはずの成果型賃金による処遇の個別化、労働組合の交渉による集団的賃金決定からの分離が目論まれていることである。ジョブ型で職務が明確であるなら、賃金決定もわかりやすい職務給とされるイメージがあるが、職務や役割の重要度・難易度に対して、単一の賃金水準が設定されるシングル・レートの職務給を採用する企業は、正規雇用の場合、あまり存在しない。多くの企業は、従事する職務に関する目標の達成度や業務の成果にもとづいて、昇給のみならず降給も行う範囲給(レンジ・レートの広い給与)を採用している。この人事評価には、会社の一方的な判断が入りやすくiv)、努力して成果をあげても、総額人件費が固定されているから、昇給しないこともある。また、労働組合活動を嫌悪した嫌がらせの降給なども、人事評価のフィルターで隠されることで証明しにくく、組合活動の妨害にもつかわれる。

 

 もうひとつの問題は、すでに指摘した解雇の容易化である。現在の労働法制・判例法理では、事業所や部門が閉鎖され、採用された職務(ジョブ)の仕事がなくなったとしても、会社は解雇を回避し、他の職務や事業所での雇用に努力をつくすことが求められている。日本経団連は、この法理を崩すため、職務や事業所を限定した労働契約を結び、その条件がなくなった場合の解雇は合法と主張し、リストラしやすい労働者を増やそうと考えている。

 

 この動きと連動して、成立が狙われているのが、「無効な解雇を金銭で有効にする制度」である。司法判断で解雇が無効とされ、地位確認が認められるケースであっても、一定の「労働契約解消金」を支払えば解雇が成立するという制度で、解消金の金額は予め見込める水準が明示されるため、使用者はいくら金を準備しておけば、ロックアウト解雇のような違法解雇ができるかを予見できるようになる。いわば、解雇自由法制の成立であり、これによって一定の職歴のある人材が労働市場にあふれ、中途採用も活発化、人材ビジネスの市場も拡大するというわけである。

 

《副業・兼業 ~雇用責任の軽減と長時間労働のワナ》

 

 コロナ禍による残業の減少や休業手当による賃金減額によって、労働者の収入は減っており、労働組合のある職場でも、組合員の間から、副業・兼業を求める声があがる事態となっている。非正規で働く労働者の間では、すでにダブルワークは珍しくないこともあり、若手を中心に副業をはじめる人も現れている。労働組合としては、本業における賃上げ闘争への結集を訴えると同時に、副業の危険性(長時間労働による健康障害、労災の多発等)も伝え、団結を強めるべき場面である。

 

 一方、政府は副業・兼業の普及促進に向け着々と作業を進めている。2018年1月には、厚生労働省はモデル就業規則から「副業・兼業禁止規定」を削除し、副業・兼業を認める内容に書き換えた。この頃、日本経団連は副業・兼業の解禁に消極的であり、変化を主導したのは人材ビジネス業者であったが、その後、日本経団連も姿勢を転換、2020年9月には「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が改訂された。その際、使用者側からは「労働時間の通算制度」(労働基準法第38条。複数の会社との契約で働く労働者の労働時間を通算)の廃止要求があがっており、法改悪のおそれもあったが、結果的にはそこまでには至らなかった。ただし、労働時間を通算する義務を使用者に課す要件として「労働者の(事前の)自己申告制」が明記され、事後の行政による指導監督が、労働者の未申告を理由として及ばなくなるような手が打たれた。また、簡便な労働時間管理の方法(管理モデル)を策定、副業先との合意であらかじめ時間外労働を措定し「固定残業代」を払う方法も創設(みなし時間を超えた場合は割増賃金支払いは必要)、副業解禁への後押しを強めた。

 

 さらに注目すべき副業・兼業ガイドラインの変質は、「労働者の権利としての副業」で普及を正当化しているのに、「使用者の指示による副業」を想定し、その場合は「健康確保措置を実施することが適当」等としたことである(従来のガイドラインでは「使用者が推奨している場合」とされていた)。使用者の指示による副業とはどういうことか。自らの雇用する労働者を他の企業で働かせるのは、派遣事業許可を得ていなければ、職業安定法違反であるが、厚生労働省ガイドライン検討の審議会ではこうした法的視点での問題の検討をせず、10月時点では見解を求めても答弁不能であった(その後、出向の一形態として処理しようとしているらしい)。その法的問題は別途追及するとして、ここでは、使用者が副業について、使用者責任を免れながらも使用者の指示により、他社での多様な業務をさせるために悪用することすら想定しているという点をおさえておきたい。

 

 加えていうなら、現在、副業・兼業を認めている企業の多くが、「雇用でない副業に限り許可する」との就業規則をもっている。請負・業務委託の副業ならば、労働時間通算制度による割増賃金支払い義務を負わずに、他社での就業が可能であるという点が意識されているのである。副業・兼業が、使用者主導での労働者のフリーランス化推進策の一環であることの証左といえよう。

 

《雇用類似就業者の要求と労働組合

 

 「新しい働き方」にこめられた経済界の狙いをみてきた。それは多様な回路を通じて、労働者を労働者保護法制から切り離し、フリーランス化させていくことである。あらためて、「働きがい」「働きやすさ」を実現するといわれるテレワーク、副業・兼業、ジョブ型雇用などの施策や人事管理制度が、実際には、真逆の効果を生むものであることを共有しておきたい。全労連は、現在進められている施策のうち、法制度改悪にかかわる課題については、その阻止と法制度改善に向けて積極的に運動をしていく。一方、職場段階での導入・運用がなされる場合は、職場単位の労働組合において、制度がもたらす影響を、労働者の間で十分に話し合い、働き方の改悪をもたらさないような規制をかける取り組みを求めたい。

 

 そのうえで、本誌の特集に寄せていえば、すでに、全労連加盟の各労働組合においても、雇用類似で働く組合員が多数おり、労働者保護を受けない不利な立場でありながら、労働組合の交渉力を発揮し、労働条件改善のために奮闘されていることを指摘しておきたい。そのなかには、労基法上の労働者とみなすべきケースもあれば、個人事業主とみなすべきケースもある。要求としても、労働者性に基づく賃上げ等とされる場合もあれば、委託契約における報酬の改善と表現される場合もあるが、事業者性が高いケースであっても、契約相手(使用者)との関係では労働法の保護がないぶん、より過酷な条件で働かされることも多い。報酬単価の引き上げ、自己負担とされる経費の軽減、仕事の配分の公平など、労働組合の交渉で要求を前進させているが、契約解除や業務の割り振りの変更などで労働組合に攻撃を仕掛けることも多く、雇用労働者よりもはるかに厳しいたたかいを強いられている。

 

 あらためて労働契約・労働法の大切さをかみしめるとともに、労働者と同じ業務を、はるかに不利な条件で請け負うことの多いフリーランスの待遇改善にむけた支援・協力、組織拡大などを意識的に行うことを呼びかけたい。最低賃金規制のない報酬で働くフリーランスが広がれば、雇用労働者の労働条件も当然、引き下げられる雇用労働者とフリーランスは、いわば同じ船に乗るものとして、共闘して、賃上げ闘争と単価引き上げ闘争にのぞむのだ、という姿勢でコロナ禍のなかの21春闘をたたかいたい。

 

(注)

i)テレワークが政策に盛り込まれたのは平成12年「IT基本戦略」や13年「e-japan戦略」に遡る。当時は交通量抑制等による環境負荷軽減措置とされていた。それが平成14年「e-Japan重点計画-2002」から「雇用形態の多様化」の手段とされ、平成15年e-Japan戦略IIで企業内制度の整備や労働法制の規制見直し、公務員への推進が掲げられるようになった。コロナ禍の20年春に休業の代替措置として急増、その後、適用対象者数は減少したが、恒常化させる企業も出てきている。

ii)日本経団連「。新成長戦略」2020年11月17日、「経営労働政策特別委員会報告」2021年1月19日による。

iii)厚生労働省「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」2018年2月では、①情報通信機器が使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと、②随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないことの両方を満たせば、テレワークにおける事業場外みなし制の適用が可能としているが、このガイドラインも、既に緩められたものとなっている。

iv)最近の目標管理制度は、2000年初頭に流行った成果主義におけるものとは異なり、労働者が目標を設定するのでなく、役割や職務に応じた目標が会社から提示され、その達成度を評価するものとなっている。労働者による目標のコントロールを許さないためである。

 

( 月刊全労連2021年4月号掲載 ) 

 

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【書評】地下アイドルという〝働き方〟 「地下アイドルの法律相談」評者 清岡 弘一 (全労連副議長)

自分の身を守るためにパート、アルバイト、フリーランスで働く人にも読んでほしい一冊

 

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 本書は自由法曹団、労働弁護団に所属する、労働組合と大変近いところにいる旬報法律事務所の深井剛志弁護士、地下アイドル活動を10年おこなってきたライターの姫乃たまさん、漫画家の西島大介さんの共著である。

 

 「地下アイドル」とは、地上波、つまりテレビなどに登場する一握りのアイドルと対比して、ライブを中心に活動しているアイドルのことを呼ぶ。主な収入源はライブ会場での物販だ。単独では集客が少ないため1回のライブに数組のアイドルが15~30分程度のステージに交代で出演し(これを「対バン」という)、終演後1時間かけてCDや各種グッズチェキを販売する。この売り上げの一部がアイドルの主要な収入源になる。コロナで現在激減しているが、もともと地下アイドルのライブ回数はとても多い。それ以外でもTwitterやインスタグラム、ブログ、noteなど各種SNSによる発信は新規ファン獲得のためには欠かせない。レッスンや取材やレコーディングもあるため、地下アイドルはとても忙しい。しかしこれだけの活動をしていても、地下アイドルの収入はとても少ない。本書はアイドルの契約の多くが完全歩合の「業務委託契約」になっていることと、極めて事務所側に有利な契約になっている実態があることによる、と述べている。

 

《やりがい搾取の典型

 

 当事者は未成年も多く雇用労働契約業務委託契約の違いも知らないまま、「アイドルになれる」という夢が目の前で実現しようとしていることに付け込まれ契約させられてしまう。きちんとした説明をおこなわず不当な条件や低廉な報酬を飲ませ、不条理な禁止事項や制限事項を盛り込み、さらに専属契約により自由な活動を制限するような契約も多い。いわゆる「やりがい搾取」の典型だ。

 

 その結果、報酬未払い不本意な仕事の強要ハラスメント、またストーカー被害に遭っても事務所がまともに対応しないなどの問題が時として浮き彫りになる。メンタル不全自殺に追い込まれる例もある。本人の夢を壊し、命や健康を害するような働かせ方であっていいはずがない。まさに人権にかかわる問題である。

 

 その根底には、将来必ず必要になるはずである働くルールに関して、若い時に全く学ぶ機会がないという問題がある。これはアイドルに限ったことではない。賃金・報酬の未払い、体調が悪く休むと法外な「違約金」を取る、仕事を辞めたくても辞めさせてもらえない、といった事例は労働組合への相談として少なからず寄せられている。そうした意味で本書はパート、アルバイトやフリーランサーにも十分に当てはまるものであり、当事者が理解できるようにQ&A方式でとても平易な文章で書かれているので、ぜひこれらの人たちにも読んでほしい。経営者との関係で圧倒的に弱い立場にいる人たちが、自ら身を守るための術を学ぶことができる本である。

 

労働組合に相談してください》

 

 ひとつだけ残念なのは、労働組合について一言も触れられていないことだ。働くことで困ったときに相談できる存在として、もっと労働組合が身近になれるようにしなければいけないな、と自戒の念を持ったものである。深井先生、ぜひ「労働組合もありますよ」と紹介してくださいね。

 ちなみに全労連ではフリーダイヤルで労働相談を受け付けています。平日10時~17時でご相談いただけます。またメールでの相談も可能です。ぜひお気軽にご相談ください。→ 全労連|労働相談ホットライン【フリーダイヤルはおかけになった地域の労働相談センターにつながります。】 (zenroren.gr.jp)

 

「地下アイドルの法律相談」

深井剛志・姫乃たま・西島大介 共著

日本加除出版/2020年7月発行/

1600円(税別)

ご購入は→ 地下アイドルの法律相談 | 日本加除出版 (kajo.co.jp)

 

( 月刊全労連2021年4月号掲載 )

 

※月刊全労連のご購読のお申し込みは「学習の友社」までお問い合わせをお願い致します。

定価:550円( 本体500円 ) 電話:03-5842-5611 fax:03-5842-5620 e-mail:zen@gakusyu.gr.jp

 

【三重】非正規外国人労働者が労働組合を結成して交渉してみたら…。組合員は全員準社員に!時給制→月給制に!ボーナス・退職金・扶養手当、特別休暇ナシ→アリに!#労働組合ができること

非正規外国人労働者の処遇改善にむけて コロナ禍のなか春闘で要求実現を

みえ労連・中勢地域労働組合亀山日東電工一般支部

支部長 井伊 博之 ミルトン

 

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 私がブラジルから日本に渡り、三重県亀山市にある日東電工亀山工場で仕事を始めてから今年で21年目になる。当時から仕事は忙しく、月80時間以上の残業は珍しくなかった。その間、劇薬を扱い健康被害を受けて仕方なく帰国した人もいる。リーマンショック後は仕事量が減り、会社から賃金や待遇をカットされた。その当時マイホームを購入した人たちは、ローンの返済ができなくなり、念願のマイホームを手放す事例が次々とでてきた。私もダブルワークをしながら生活とローン返済で両立していた。

 

《会社を交渉の席に座らせるために労働組合を結成》

 

 私たち外国人労働者は2010年、会社の下請け会社の派遣社員から直接雇用(有期契約)労働者に切り替わった。偽装派遣対策だ。その頃、各職場のリーダー的ブラジル人労働者が製造部の責任者に話し合いの場を要求し、苦しい生活実態を訴えたが、1年経っても回答はなかった。既存の労働組合への加入も正社員以外入れないと断られた。このままだと労働環境や賃金の改善はできない。まわりのブラジル人労働者に悩みを打ち明けると、同じ様に悩んでいることを知り、正規雇用労働者の組合を立ち上げることにした。

 

 調べると津市にある地域組合・中勢地域労働組合がある事を知り、相談に行き、実態を話し、問題点や指導を受けた。そして、あっと言う間に組合結成へ話がすすんだのである。

 組合結成の決心から準備期間を経て2012年3月に80人の仲間を集め、結成した。翌月に公然化し、大阪本社と亀山事業所に要求書を提出した。

 しかし、これまでの春闘は誠意の無いままだった。交渉が難航すると会社側は常に「不満があれば裁判しかない」と繰り返し言ってくる。社内の労使協議会でも会社側の代表者が大声で「不満があれば裁判しろ」と怒鳴ることもあった。

 

《そして裁判へ》

 

 私たちも限界だった。仲間から「会社の希望通りに裁判しよう」「生活もかかっているからこれ以上待てない」の声があり、ついに裁判闘争に踏み切った。

 それから今までの丸8年の活動は、決して平坦な道なりでなかった。わからない法律や会社側からの団体交渉拒否もあったが、重要な成果もあった。男女賃金差別解決は会社内にとどまらず、地域の企業にも広がった

 

《長年の頑張りが実り、一気に数々の待遇改善へ!》

 

 裁判闘争がプレッシャーになったのか、今春闘コロナウイルスが猛威を振るう中、長年の要求を一気に勝ち取った。組合員は全員準社員になった。時給制が月給制に。支給のなかった賞与・退職金・扶養手当支給になり、特別休暇やリザーブ年休の付与、夜勤手当のランク格上げ福祉基金への加入などなど。

 

 この国では、外国人労働者問題は増える一方だ。また、非正規雇用労働者は4割以上になる。そのような中、私たちのような非正規雇用外国人労働者の組合の歩みが、他の労働組合を勇気づけ、モチベーションになる。そのような貢献できれば幸いだ。

 

( 月刊全労連2020年8月号掲載 )

 

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【神奈川】新型コロナで「定期昇給」なし!?納得できない医療従事者が労働組合に加入→団体交渉→定期昇給を勝ち取る→職場に自分たちの組合を作るまで!#労働組合ができること

 

誰もが安心して働ける職場をめざして ─めぐみ在宅クリニック労働組合─ 神奈川県医労連 書記長 柏木 哲哉

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 2020年10月16日、横浜市内にある在宅医療を専門とする個人経営の事業所「めぐみ在宅クリニック」で、労働組合が結成されました。組合員数は13人で医師・看護師・事務職の医療労働者を中心に組織をしています。

 

《院長の独断運営により職場が振り回され、コロナを理由に定昇なし》

 

 当事業所は個人経営の典型である院長の理不尽な人事・経理運営で、職員が常に振り回される職場環境が長年続いてきました。また、患者とのトラブルも発生し、職員がフォローする状況でした。さらに、スタッフとの信頼関係を全く築けていません。そして、今回のコロナ禍での収益ダメージを理由として定期昇給見送り夏期一時金削減などを、職員に対して一切の説明をすることなく強行しました。院長に何度も不利益変更をした説明を求めても「いつか説明します」と言いながら、ずっと私たちから逃げ続けてきました。

 

《神奈川県医労連を訪れ団体交渉をスタート》

 

 院長の身勝手な行動や一方的な削減などに耐えられなくなり、職員3人が労働相談として神奈川県医労連を訪ました。早速、ひとりでも加入できる医労連個人加盟労組へ加入団体交渉を申し入れ、院長との交渉が実施されました。院長は交渉の中で「職員との信頼関係が築けないので、院長職を降りて自由になりたい」と身勝手すぎる発言に終始しました。一方で「経理関係については信頼関係がある家族(嫁・娘)が担っているので問題ない」とお金に係る部分は握って離さない姿勢が露わになり、院長に対する不信感は一層高まりました。

 

《交渉の中で要求が実現》

 

 煮え切らない院長との協議を続けてきましたが、交渉を進める中で定期昇給見送りを撤回させ4月まで遡って支払わせる事を勝ち取ったり、経営状況を明らかにさせたり、物事の決定は院長独断ではなく職員とキチンと協議する事を約束させるなど、一定の効果がありました(職責者会議や医局会議、経営部門会議を開設させることを約束し実施しています)。

 その後、当該組合員は「組織対組織」での団体交渉等を通じて職場環境の改善を更に発展させるため、なかまを増やして力を高めていこうと、職場内で一気に13人も拡大をしました。そして、院長に責任ある行動を取らせるために集団化することを決めて、労働組合を結成することを確認し、10月16日に結成大会を開きました。

 これから賃金や年末一時金、人員増やコロナ対策の課題等も併せて、本格的なたたかいを展開し、誰もが安心して働ける職場をめざしていきます。最初の活動として組合員から実態アンケートを集め、要求にして団体交渉を開きつつ、過半数組合の達成のため組織拡大にも力を入れていきます。

 

(月刊全労連2021年2月号掲載)

 

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【兵庫】国際学校で突然理事と校長が解任!動揺と不安が広がる中、教職員たちがとった行動は「労働組合を結成すること」だった!#労働組合ができること

組合を作って職場の雰囲気が一変! 教職員たちがマリスト国際学校に労働組合を結成

兵庫私学労働組合マリスト国際学校分会

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 学校法人マリスト国際学校では2020年春、理事の解任、複数の評議員の退任、PTA会長の退任など、不穏な動きが相次いだ。新学期を3週間後に控えた7月末、教職員に何の前触れもなく、校長が突然解雇された。教職員の間には不安と動揺が広がり、校長不在の中、約40人の教職員が仕事を分担し、手探りで新学期の準備を始めた。

 その1週間後、理事会が教職員の質問に答えるオンライン会議があったが、理事の1人が文面を読み上げるのみで、「秘匿情報」を理由に何の説明もされなかった

 校長は正当な手続きを経て解雇 注)されたのか? 私たちの無期転換契約とはどのような意味を持つのか? という疑問に、理事会からの回答はなかった。そんな時、数人の教職員から「労働組合を結成しようという声があがった。

注)2018年に無期契約に転換されたが、なぜか委任契約の期間満了とされ事実上の解雇。

 

《なぜ、兵庫私教連だったのか》

 

 欧米の国々での労働組合の経験が豊富な教職員はいても、日本の労働組合について知識がある者は皆無であった。新聞記者・学校関係者・組合経験者などから聞き取りをしたり、インターネットの組合サイトを比較したりと、リサーチを続けた。結果、大きな組織より、その地域について、また学校について知っているローカルに根付いた組合の方が信頼関係が築きやすいという結論に行き着いた。さらに、ある人のひと言で兵庫私教連への加入を決断した。それは兵庫私教連と団体交渉をしたある学校の元管理職が、「あそこは手強かった。彼らは法律を知り尽くしている」と言ったことであった。その人は、さまざまな組合と交渉をしてきた中で、兵庫私教連で団体交渉をした時には「ほとんどの(要求を)のまなければならず、大変だった」と漏らしておりそれはまさに、私たちが探していた組合だと確信した。

 そうして私たちは私教連のドアをたたいた。話を聞いてほしい思いでいっぱいであった。応対者はそんな私たちの突撃訪問を温かく受け入れてくれた。その後、夏休みを返上しての取り組みで、1ヵ月後には32人が加入する組合を設立することができた。

 

 夏休み中には、組合の話をする際には隠れるように声をひそめて会話をしていたなかまたちが、今では大きな声で、時おり冗談を言いながら話をしている姿を目の当たりにするようになった。

 賃金のこと、そのほかの労働条件のことなど教職員の不安や疑問を積極的に話し合う雰囲気へと、職場は大きく変化した。

 

 海外から来日した教師陣の多くは長くここに住み、この須磨の地を第二の故郷のように大切に想い、子どもたちをマリストで教育している。

 私たち教職員は強い絆で結ばれ、学校のために、また地域社会のために貢献し、将来を見据えてより健全な学校を築いていくことを念頭に活動していきたいと思う。

 

(月刊全労連2021年3月号掲載)

 

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【岩手】#労働組合ができること 中小企業の社長が労働組合に加入? 一体なぜそんなことに?! 労働相談からはじまったストーリー いわて労連議長 金野 耕治

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《なぜ中小企業の社長が労働組合に?》

 

5月26日、いわて労連に一本の電話。とある下請け会社(A社)の社長からで「元請け(B社)に乗っ取られそうだ。従業員を守りたいので労働組合を作りたい」という内容だった。翌日、A社を訪問して事情を伺うと、B社が直結の子会社(C社)を設立して、A社など下請け3社を吸収しようとしているとのこと。6月1日から採用面接を始めて、7月1日にはC社に採用する計画だ。このA社は、社長は77歳だが、従業員は78歳、72歳、68歳の大ベテランから今年の新規採用まで幅広い。なぜ、70歳過ぎの従業員を雇用しているのかと尋ねると、社長曰く、「うちに定年はない。退職は本人が決めることだ。体力があれば何歳でも雇用する。会社創立時から一緒に働いてきた仲間だ」。まさに経営者魂を見せつけられた。しかし、その会社創立時から一緒に働いてきた仲間は、今回の移籍によって社長共々当然のように除外される人たちだ。

 

 労働組合は、従業員の雇用や労働条件については団体交渉で解決できるが、会社と会社との売買契約に口が挟めるだろうか? 移籍する従業員の本音はどうだろうかと思い、アンケートを取った。A社での継続雇用を望みつつも、失業は避けたいので転籍はやむなし、との声が大半だった。当労連の顧問弁護士S先生は、「正式な事業譲渡なら交渉の余地があるが、ただのつまみ食いなら個別の価格交渉しかできない」とのこと。「よし、ここは一か八かだ!」と、社長にローカルユニオンに入ってもらい、半世紀にわたって営んできたA社を丸ごと買収してもらう代金として1億円、従業員には1人100万円ずつ(退職者には慰労金として、移籍者には支度金として同額を)出すよう要求書を作成した。社長のほか年長者4人にも組合に加入してもらい、要求書をB社本部に郵送すると同時に、B社の盛岡支店長T氏に電話で事前通告。素っ気ない返事のT氏だったが、その後、A社社長の所に押しかけてきた

 

《見事に企業乗っ取りを阻止!》

 

 要求書が相手側に届いて2日後の6月11日、T支店長ら2人が早朝、A社社長を訪ねてきた。手のひらを返したようにニコニコしながら「このまま今の会社を続けてほしい」と伝え、後日、従業員を集めて「計画は白紙に戻すので今まで通りやって頂きたい」と謝罪した。当労連には6月15日、本社社長名で以下の通り文書回答があった。

 

「事業譲渡についてはまだ計画途中で決定しておらず完成していない。今後の趨勢により実現には至らない可能性も多々あるので現段階での交渉になじまない。ご要望に添うことは困難ですので事情斟酌ご理解頂きたい」と。

 

 T支店長に電話確認すると、前回とは打って変わって、平身低頭で「大変ご迷惑をおかけしました。合意に至らなかったので白紙撤回します。他の2社も白紙撤回です。採用内定の取り消しはすでに個人宛に昨日発送しました」とのこと。A社社長は、「B社が完全に手を引くかどうか信用はできないが、今回はいわて労連さんに助けられた」と喜びの声。従業員には、「事業譲渡が白紙撤回され、転籍も取り消しになったので引き続き働いてほしい」と朝礼で伝達した。今度、従業員とローカルユニオンやいわて労連事務局みんなで祝杯を上げる計画になっているので、三密を避けながら、ともに美酒を味わいたい。

 

全労連無料労働相談ホットラインを開設しています。職場で働くことで困ったことがある方は、お気軽にお電話ください。自動的に最寄りの相談所に繋がります。電話:0120-378-060 (平日10時~17時)

※3/2には同じ電話番号で全国一斉コロナ労働相談ホットラインを開設します

 

(月刊全労連2020年9月号掲載)

※月刊全労連のご購読のお申し込みは「学習の友社」までお問い合わせをお願い致します。定価:550円(本体500円) 電話:03-5842-5611 fax:03-5842-5620 e-mail:zen@gakusyu.gr.jp